一番目




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改めて前に立つと“豪華”というより“荘厳”と言った方がしっくり来る建物だ。ザラ家の屋敷も相当豪勢なものだが、このホテルはどちらかというと婚約を取り交わした時、一度だけ訪れたアスハ家に通じるものがある。それが重ねた歴史の違いだと言われているようで、何となく厭な気分になった。
父親に対する嫌がらせのつもりだったが、ここを選んだのは失敗だったかもしれない。
だがキラの携帯の番号さえ知らないアスランには今更場所の変更など不可能で、諦めてホテルのエントランスへと踏み込んだ。




ロビーは意外に多くの人間でざわついていた。とはいえ下品な騒がしさでは全くない。よく見れば年齢層も性別も様々である彼らは、皆一様に身なりが良く、タキシードやドレスを当たり前のように着る人種―――所謂上流階級に属する人間ばかりのようだった。

アスランも客観的には充分そう見えるのだが、本人にそんなことは判らないし、何より培ってきたコンプレックスがあった。


(“夜会”ってやつか…)
彼らには時々そうして集まる習慣がある。勿論ザラ家が属している経済界にも同じような集まりはあって、それぞれに旧交を深めることを目的とするものだ。今アスランがつるんでいるのも、そういう場所で知り合った“幼馴染み”のような連中であった。しかしともすれば相手の腹の探り合いに発展しかねない経済界のそれとは違い、こちらはただただお上品に談笑するだけのものらしい。
それを揶揄するように、口さがない輩が“夜会”と言って嘲笑するのを聞いたことが、何度かあった。


自分が遭遇するとは思わなかったが。




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