一番目




八割方断ってくるだろうと予想していたアスランは、アスハ家から誘いに応じる返事が届いたことに驚いた。ひょっとしたら断れないように、キラまで話を通さずに先に返事だけ寄越した可能性もある。或いは相当図太い神経の持ち主に違いない。
何せあの繁華街で偶然顔を合わせてから、まだ数日しか経っていないのだから。




礼儀として、誘った方が先に着いているべきだろうと、指定した時間より早めに到着するように屋敷を出た。


車窓を流れる景色を見るとはなしに眺めながら、アスランは“キラを適当にあしらえそうもない自分”と懸命に戦っていた。

どうしてもキラと知らない男との包容シーンが脳裏にチラついて離れない。あの時これ以上ない侮蔑の台詞を投げてやったが、すっきりするどころか垣間見たキラの表情が今にも泣きそうに歪んでいたのまでセットで付いてくる。
あの顔を見た瞬間、まるでアスランの方が悪者になったような気分になった。

(…―――いや、俺にとっても不都合ではないはずだ)
自分だって結婚してもキラに遠慮などするつもりは毛頭ない。彼に言われるまでもなく、散々遊んでその内の女の一人にでも子供を産ませればいいのだ。逆にキラが遊び歩いた所で興味などない。
“あの家の嫁は”などと後ろ指を指されるのは歓迎しないが、そのくらいはキラも弁えて派手に振る舞ったりはしないだろう。


そうは思っても腹が立って仕方ないのだ。
「清廉潔白です」みたいな顔をして、平気で他の男の傍に居るキラに。

そして別れ際のあの哀しそうな顔。
あんな顔をさせたのが他でもない自分だということに、謂われもなく胸が痛んだ。


そしてそんな自分にまた腹が立つのである。




車内は重苦しい沈黙に支配されていたが、心得ている運転手は、終始無言でただ車を走らせるだけであった。




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