一番目




元々本人不在で決められていた話だったのだ。いくら当人同士が顔も合わせたくない状況だったとしても、逆らえない相手からの命令ならば従うしか道はない。

だから父・パトリックの秘書から「遊んでばかりいないで、たまには許婚者の機嫌でもとっておけ」という伝言を受けた時も、アスランは溜息と共に承諾した。激しく気は進まなかったが、こちらから連絡しても彼が来る保障など皆無。なにせそんな風には見えなくても、あの少女と見紛う容姿を持つキラという青年が、とんだあばずれであることはこの目で立証済みであるし、彼の方から断るぶんにはアスランに責はない。
縦しんば誘いに乗ったとしても、適当にあしらえばいいだけのこと。

アスランはそう自分に言い聞かせたのだった。




この縁談を一番喜んでいるのがパトリックであることは疑いようもない。デート資金にも金に糸目はつけないはずだ。どうせなら思い付く限りの贅沢をしてやろうと、アスランは初めてキラに会った同じホテルのレストランを指定することに決めた。「一度、二人でお食事でも」というやつだ。だがそれがアスラン自身の本意ではないことを知らせるために、明日の夜という相手の都合を考慮に入れないいきなりの話にしてやった。
来なければ来ないで、取り巻きの女でも呼んで、アスランでさえ滅多に出来ない贅沢を存分に楽しめばいいのだ。誰を呼ぶかの明確なビジョンはないが、アスラン・ザラに誘いを受けて断る女などいる訳がなかった。




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