誤解




ちょっと待て。“たった一人の人”っていうのは、そういう意味だったのか?
つまり彼はキラのことを特別な目で見ていたと?


(……アタマ痛くなってきた…)



何の因果でここ最近の自分には、こうも男に縁があるのか。例え外見はどんな風だとしても(百歩譲って女の子にしか見えないとしても)、はっきり言ってキラだって男であることは間違いないというのに。


「あ、そ。そりゃどーも。じゃ僕はこれで」
帰ったら明日予定されている実験の下調べでもしておこうと思っていたのだが、これはもう駄目だ。心理面だけではなく、本格的に痛みだした頭を抱えて今日は早々に寝てしまおうとキラは内心で決心し、背中を向けた。
どうせもう二度と会うこともない相手だ。彼の不穏当な発言もさっさと忘れてしまうに限る。


だが彼はクールに見えて(実際告白すら何の気負いもなさそうだった)、意外にもしつこいタイプでもあったらしい。

「憧れというか…好きだったんでしょうね」
立ち去ろうとしたキラに、余り聞きたくない台詞を宣ったのだ。
「――――聞いてます?」

しっかり耳に届いていたが、キラはそのまま家路を辿り始めた。
頭痛は加速度を増して非道くなり、原因はこの変な後輩とやらに絡まれただけではないのかもとやっと気付いたのだ。

最近疲れやすかったのは体調不良だったのだろう。そういえば食欲もないし、季節的に夏バテでもしてるのかもしれない。
(そうだ。カロリー不足だから甘いものが食べたくなったんだ)
そもそも彼に声をかけられた時、自分はコンビニでデザートの類を買って帰ろうと思案していたのではなかったか。

しかしまた戻って買うのはいかにも面倒である。




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