誤解




元々なんでもそう努力もせずにこなすキラだったが、流石に表彰までされたのはそれ一回切りのこと。しかしはっきりいえば公立高校からの有名大学合格者を増やすために、学校側が考えた実にくだらないイベントだと位置付けていたため、それすら印象はあやふやだった。
「…ごめん。きみと話したこと、覚えてないや」
彼が怒っているようではないのを幸い、正直にキラは謝ってみた。
「いえ。俺が貴方を忘れるわけがないだけです。俺は貴方にとって多くの後輩の内の一人でしかなかったでしょうけど、反対に俺にとっては貴方はたった一人の人だったから」
「へー…って、え!?」


ちょっと知った顔を見付けたから声をかけてみただけのようにサラリと言った男に、興味を無くしかけたキラはお座なりの相づちを返しかけてふと気付いた。
簡単に流していいものか判別のつかない台詞を言われたことに。


零れ落ちるのではないかと心配になるくらい瞳を見開いて驚くキラに、男は口元に意味深な笑みを刻む。それは先ほど見た笑顔とは違う、大人の色気さえ感じるものだった。


キラは酸素欠乏の金魚のように、ただパクパクと口を開閉するしかない。何せ相手の名前すら知らないのだ。

察して薄い唇が開くのを、半ば茫然と認識する。



「名乗るのが遅れましたね、失礼しました。俺の名前はレイ。レイ・ザ・バレルっていいます」




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