誤解




夜道を一人辿りながら、キラはアスハの“家族”のことを考えた。

父ウズミは鷹揚で寛大な男なのかもしれないが、立派過ぎていつも緊張が先に立つ。腹違いの姉のカガリは天真爛漫で、なさぬ仲であるキラのこともそれなりに受け入れてはくれているようだ。だが元気と言えば聞こえはいいが、ただの粗忽者にしか思えない言動にはかなり抵抗があった。それにお嬢様として大事にされて来たからか、それとも父親に似たものか、やはり上から目線でものを言う。

言えた義理ではないから静かにしているが、苦手な人たちであった。
一人でも大丈夫だ、見返してやるという気持ちがただの独りよがりでしかないとしても、そう思い込むことがキラには必要だったのだ。それが一人で生きていくと誓ったキラを鼓舞してくれていたから。


なのに何故だろう。最近それが上手くいかない。




今も敢えてアスハ家の人たちのことを描いてみたのに、あるはずの反骨心は期待したほどキラを元気にしてはくれなかった。
こんなことは初めてだ。

気分を盛りたててくれないなら、不快なだけの人間たちを脳裏から追い払い、キラはふとコンビニの前で足を止めた。
幸い懐はあったかい。
普段はやらないが頑張っている自分へのご褒美として、デザートの類でも買い込んでみようかと思案していた時だった。



「ヤマト先輩?」
突然名を呼ばれてびっくりしたキラは、文字通り飛び上がりそうになった。

跳ねる胸を押さえて声の方を振り返るが、数人の通行人の中に知った顔は見付けられない。だがその内の一人の若い男が、にこやかに近付いて来るのは辛うじて認識出来た。




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