誤解




◇◇◇◇


「……ア‥スラ・ン…?」
突然倒れ込んできた華奢な身体を咄嗟に支えていたレイは、キラの全身が強ばるのを感じた。思わず至近距離で覗き込んだキラは、肩越しに自分の更に後方を目を見開いて凝視している。
体を捻ってそちらを振り向くと、明らかに意図を持ってこちらを見ている男が一人。


どうやらキラの知り合いらしいその男は、一見しただけで極上の部類だと分かる人物だとレイは分析した。

長身で細身だが決して貧弱な印象はない体型。白皙の美貌にサラリとかかる宵闇色の髪。通った鼻筋も少し薄めの唇も、計算しつくされたかのように配置されている。
何よりその翡翠を嵌め込んだかのようなエメラルドの瞳が秀逸だった。

そして明らかにその辺にいるどの人間とも、醸し出す空気が違っていた。




アスランと呼ばれた男は最初こそ驚いたようにこちらを見ていたが、やがてゆっくりとその表情を消して無表情になった。


「往来でラブシーンか。見かけによらず、とんだ恥知らずなんだな」

「―――え?」


だがアスランはキラの疑問を黙殺した。
「成る程、そういう事か」
一人納得したように唇を歪めて笑うアスランを、レイから離れることも忘れてただ茫然と見ているしかないキラ。
言葉を継ぐことも出来ないそんな彼を、まるで揶揄うような口調でアスランが続けた台詞は、思ってもみない内容だった。


「俺に何人愛人がいたって構わないなんて言ったのも、自分に恋人がいたからなんだな」




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