誤解




それなのに最近ふと我に返ると彼のことが頭を占めている。その事実に苛立つのだ。
そんなキラの存在は、退屈だがそれなりの暇潰しで満足しようとしていた今までのアスランの努力を、あっさりと覆えそうとしている。


望んでも手に入らない何か。ならば最初から欲しがらなければいい。
そうすれば思い通りにならなくても、泣くようなことにはならないから。



諦めたものが何だったのかさえ、もう忘れてしまったが。




(…―――ん?)

キラのことを考えていたからか、不意に彼の耳にすんなり馴染むあの甘い声が聞こえた気がした。サッと周囲に視線を巡らせるも、知った顔はない。声がよく似た別の人間だったのかと再び歩き出したが、引き止めるかのように声はまた耳に届いた。
しかも何事か言い争っているような口調だ。


立ち止まり、もう一度声の聞こえた方向に、注意深く目を凝らす。そこに認めたのは肩まで伸ばした金髪の男の後ろ姿で、やはりキラとは違ったらしい。
第一キラが居たところで、アスランには関係ないことだ。

(何をやってるんだ、俺は)
馴染みになりつつある自嘲の笑みを溢し、もういい加減帰ろうかと腕時計を眺めた時。

先刻の金髪の男の様子が変わった。気配に気付いて再度何気なく目を向ける。
男の陰になっていて気付かなかったが、どうやらもう一人連れが居たらしく、その小柄な人物が男に縋りついたようだった。


他人のラブシーンを出歯亀するほどアスランも粋狂ではない。お世辞にも柄のいい場所ではなかったから、人目を気にせずそういう事をする輩がいても珍しくもない。それだけなら記憶にも残らなかっただろう。


そう。



金髪の男の胸に縋ったのが、自分の許婚者でさえなければ。




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