真昼の星




「別に無理に答えてくれなくていいよ。それじゃ」
「父が…」
何度も諦めの言葉を胸の内で繰り返し、やっと言った別れの挨拶。だがアスランの声に遮られることで、キラの健気な努力は水泡に帰した。
「え?」
「あの人はああいう人だから、俺が子供の時から世間一般に言われているような、父親らしいことなど一切しなかった」
「うん」
といってもよくは知らないが。顔合わせの時一度会った印象は、確かに子煩悩タイプには思えなかった。いつも人を品定めしているような、酷薄な瞳でキラを見ていたような気がする。
「その父が何の気紛れか、一度だけ家族旅行に連れて行ってくれたことがあるんだ」
「へえ」
なんだ、僕はそんなの経験したこともないと妬ましく思ってもよかったのに、不思議とそんな感情は湧いてこなかった。話すアスランの声が少しだけ人間らしい感情を伴っているように感じたからかもしれない。

「その時に見た星空の美しさが忘れられない」
ポツリと続いた言葉は無愛想。でも何故かキラには解った。
振り向いてくれないから、顔は見えないが、アスランは照れているのだ。
子供の頃の父親との思い出を、今だに後生大事にしている自分が恥ずかしくて。

その照れ隠し。




「そ。だから星が好きなんだね」


何でも持っていて、それを当り前のように受け入れている男。一体自分を何様だと思っているのか、プライドばかり高くて、キラを見下す言動を隠しもしない。本来ならこんな男はキラの方から願い下げなのだ。

でも意外過ぎる一面を知ってしまって、迂闊にも心が温かくなってしまった。


キラが母親の記憶を辿っていた間、彼も父親との楽しい思い出に縋っていただなんて。



それが、どうしてだか嬉しくて仕方ない。




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