真昼の星




◇◇◇◇


案の定観覧席には他に客はいなかった。完全に貸し切り状態だったが、すぐ隣に座るのも躊躇われて、間に一つ空席を挟んだシートに身を沈める。座る瞬間アスランはチラリと一度だけ視線を寄越したが、キラが彼を見るより先にまだ上映前の天井を見上げてしまった。
所在なくて明るい場内を見回してみても、キラとアスラン以外に観客はいない。遊びが氾濫する世の中で、やはりプラネタリウムなど流行らないということなのだろう。



「!」
と、何の前触れもなく場内の明かりが落とされた。当たり前のことなのに、咄嗟にビクリと身体を揺らしてしまった。
幸いアスランには気付かれなかったようでホッとする。


暗いのは嫌いだ。
まだ子供の頃、仕事から帰ってくる母をずっと独りで待っていた時の心細さを思い出す。

彼女はキラに惜しみない愛情を注いでくれたし、それを疑うわけではない。だが暗闇の中、独りポツンと残されるのは軽いトラウマになる程度には辛いものだった。


もう、母が帰って来ないのではないかと。



特に自分がなさぬ仲の元に生まれたのだと理解してからは、一層恐くなった。



だから今でも苦手だ。
あの時の不安な気持ちが蘇るから。



だけどいい年をして暗闇が怖いなんて、アスランには絶対知られたくなかった。


(いい年か…)

そういえば今日はキラの誕生日。思わぬアスランの登場で、落ち込みそうになっていた気分も吹き飛んでしまっているのに気付く。

(………。それだけでも感謝してやってもいいかな)


見上げた作り物の星空は、意外なくらい美しいものだった。




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