真昼の星




「見たところ、一人のようだし。俺と同じで講義が休講になったかなんかで、その暇潰しなんだろ?」
戸惑うキラに気付かなかったのか、相変わらず会話は噛み合わない。これはキラが諦めるしかなさそうだった。
「じゃ、お金払うから」
「生憎と金だけはあるから、そのくらい奢られとけ。……そろそろ上映が始まるな。中へ入ろう」
チラリと腕時計に視線を落とすと、勝手に決めてスタスタと建物の中へ行ってしまうアスラン。びっくりしてキラは背中に声をかけた。
「って!ホントに一人!?誰かと待ち合わせなんじゃないの?」
足を止めてキラを見たアスランは訝しげに眉をひそめる。
「あ、いや…ほら、きみほどの人なら、当然連れがいると思うじゃない」
キラのバイト先へ来た時も、大勢一緒だった。キラが認めるまでもなく、彼は誰から見ても魅力的な男には間違いないだろうから。

いつも独りの自分とは正反対だ。
そうなりたいとは思わないが、反目しながらも惹かれてしまうキラには誰よりそれがよく分かった。



「いや…」
怪訝な表情のまま、アスランは無愛想に答えた。
「ここへ来るのは一人でと決めてる。それに大勢で煩いのも、元々あまり好きじゃない」
「はぁ…そうですか」
キラからすれば贅沢な話。
だが孤高の存在のアスランというのも、似合う気がするから不思議だ。


「じゃあ僕もいない方がいいんじゃない?」

至極当たり前の結論ではあったが、何故かアスランは奇妙な顔つきに変わって絶句した。
驚いているような。

(そんな変なこと言ったかな、僕)
自分で言ったのではないか。
“一人でと決めてる”と。

煩くするつもりはないが、あれは話し掛けるなとかそういう意味じゃない。

傍に他人の存在があることが、煩わしいということだろう。



「あ、えーと…」
何と言っていいか分からず困惑した呟きに、ハッと我に返ったアスランは、再びキラに背中を向けて中へと歩き出してしまった。


(放置ですか…)
だけど来るなとは言わなかった。買ってもらったチケットは未だキラの手の中にある。


迷った末に、キラはアスランの後を付いて行くことに決めたのだった。




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