真昼の星




「夜の予定もなくなったか」
勝手にキラの心拍数を上げておいて、アスランは一人そんなことを呟いている。きっと大勢いる友人や女の子たちに連絡を付けようと思案しているに違いない。

キラはそっとそんな彼との距離を空けた。
「じゃあね。そういうことだから」
「おい?」
「さよなら」


急いでも何の予定もなかったが、キラは踵を返すと一目散に駅へ向かって歩き始めた。キラの知らない誰かのことを思うアスランは、ついさっきまで父親との思い出を大事にしているクセに、強がっている彼とはもう違う人になってしまった気がして。

落胆した自分など、認めたくない。
それを寂しく感じたなんて。




充分な距離が空いた所で一度振り返ると、丁度アスランがキラに背中を向けて反対方向へ歩き出したのが目に入った。

(何だよ。誘ってくれたらお茶くらいしたのにな)
ふと考えてしまって、キラは必死で否定した。
(て!僕は何を考えてるんだ!?あいつはアスラン・ザラだよ!今のなしなし!!)


意識的に勢いよく歩いた上着のポケットからカサリと音がする。確かめようと入れた手の指先に紙片が触れた。

それはプラネタリウムのチケットの半券。



(そっか…いいよね。これも勝手に誕生日のプレゼントにしちゃっても)
それをもたらした相手がアスラン・ザラだというのが微妙なトコロではあるが。


降って湧いたような偽装星空の時間は、神様がくれたプレゼントだと思うことにした。
独りの誕生日は虚しいと思っていた時だったから。


それに―――…



(珍しい真昼の星を見せてもらったからね)




キラは何となく大事に、再び半券をポケットに戻したのだった。




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