真昼の星




いつもなら飛び付くはずの割りのいいバイトにも、キラはらしくなくあっさりと断りをいれた。他の日なら良かったのにと少しだけ恨めしく思ったのも事実だが。
でも普段頑張る代わりに、この日だけは休もうと決めていた。それはもう何年もキラの中だけで存在するルールで。
母が逝ってからはお祝いの言葉すら言って貰えるアテもないが、だから余計に休みにしたかったのだともいえる。



5月18日。



例え誰も知らなくても、今日はキラがこの世に誕生した日なのである。

(いや、知ってる人はいるか)
忘れているだけだ。
大学の友人ではない。彼らとは一定以上親しくならないようにしている。うっかり身の上なんか知られたら、楽しくないことまで詮索されかねないからだ。誕生日を教えあう間柄の相手など、最初から作る気もなかった。
少女のように可愛らしいキラは、適当に話を合わせ笑っているだけで、充分交友関係など円滑に進む。誰もキラの本心が“他人など煩わしいだけだ”と思っているなんて気付きもしないのだ。


この日の意味を知っている人物とは、かつては会うこともないだろうと思っていた“家族”。
やたらめったら名門で、遺伝子でも共有してなければ、全然別世界の人間たちだ。
キラはその名家の当主・ウズミの実子。
但し妾腹だ。そして姉・カガリ。彼女はれっきとしたウズミの正妻の娘で、キラの腹違いの姉になる。
ただ本当のトコロはどっちが姉だか兄だか判らない。


何の運命の悪戯か、キラとカガリは同じ年同じ日にこの世に生を受けたのだから。




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