本音




◇◇◇◇


楽しげに会話をする友人たちを残して、別段彼らに断ることもなく店を後にするアスランと彼女。友人たちもそんな二人を気に止めた様子もない。
きっとこんなことは珍しくないからだろう。

だが誰も気付かなかったが、今夜は僅かに違っていたのだ。


物陰から彼らを見つめるキラの姿があったから。




彼らが店内に現れた時、本当ならキラがオーダーを取りに行かなければならなかった。しかし思いも寄らないアスラン本人の登場に動揺し、先輩の黒服仲間に頼み込んでそれを変わって貰った。多くの女を侍らせて来店したアスランに会っても、どんな顔をすればいいのか分からなかったし、それでなくても見下げられている身だ。キラのアスハ家に対するせめてもの意地から派生したものであっても、そんなことを知る筈もないアスランが、アルバイトなどしている自分を見てどう思うかなんて明白だ。

キラは咄嗟にアスランから隠れることしか頭に浮かばなくて、本来なら一番の下っぱがやらなければならない仕事だと知っていながら、先輩である黒服にそれを変わってもらうよう頼んだ。一週間しか働いてないが、どんな仕事を言われても嫌な顔ひとつせずに黙々とやっていたキラの必死の形相に折れ、彼がオーダー取りを引き受けてくれた後も、別の仕事をこなしながらずっと彼らの会話を聞いていた。



ショックだった。
派手な女遊びをする男だと分かっていた。
全く気にならないと言えば嘘だが、自分も男である以上、逆立ちしたってザラ家の跡継ぎは生めないのだからと無理矢理納得させていた。




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