本音




昨日遅くに帰宅した父・パトリックの、木で鼻をくくったような対応を苦々しく思い出した。

アスハの“二番目”で、男でしかも妾腹。


全部を納得した上で、パトリックはアスランに「彼を娶れ」と“命令”したのだ。そしていつもの威圧的な調子で「違えることは許さない」とも。

パトリックがキラでいいと決めた瞬間から、何もかもがもう走り出しているのだ。
そこにアスランの口を挟む余地は、ない。


分かっていたことだ。




黒服が用意した強い酒を、苦い気分を流すかのように、一息に煽る。
「おいおい、大丈夫か?」
「煩い。この程度で酔えるものか!」
酒には強い。事実、液体は喉を焼いただけで、忸怩たる思いを流すどころか、一時の慰めにすらなってくれそうになかった。


流石のアスランもこれだけの侮辱を受けて、普段のクールな仮面など被っていられる訳などない。
苛々と感情のまま周囲にあたるアスランを、いつもは余り好意的ではない友人が珍しく口を出した。
「なんだ。気に入らない相手なのか?」
何かにつけて突っ掛かってくる相手だ。名をイザークという。普段はお調子者の友人であるディアッカと、対極の性格の割に一緒にいることが多い。
アスランとは少し違うが整った顔をしていて、実家もザラ家に並ぶ金持ち。これで仲良くしろという方がおかしいし、アスランも何となく牽制している。
だが揶揄するような言い方も、彼のポースなのだ。今はそれが意図した挑発で、アスランの本音を聞き出そうとしてくれているのだということも分かっていた。
だからといって相容れる相手ではないが、慰めあうだけが友人ではない。

彼はそういう存在だった。




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