婚約




「…済まない。ちょっと言い過ぎた」
「どうして謝るの?きみらしくないんじゃない?――よくは知らないけど」
「いや…」
「きみの言う通り揶揄ってるだけかもしれないよ?少なくとも今僕は、ひょっとしたらきみが馬鹿なんじゃないかって思ってる」
やはりそうだったのかという忸怩たる思い。
しかし“成金”の何が悪いのだ。高貴な血筋がそんなに偉いとでもいうのか。そんなもの所詮人間が決めたものでしかないのに。
ならば蔑まれる云われなどない。

そうハッキリ言ってやって、もうこんなくだらない茶番は終わりにしようとアスランが口を開きかけた時。
キラから先に出た台詞は予想しないものであった。
「僕は僕の都合できみと婚約するんだってこの間言ったよね?まだそんなに日も経ってないのに忘れちゃうなんて、馬鹿だって思われても仕方ないでしょ?」
「…―――は?」


そしてキラは視線を壁に移した。そこには立派な額に入れられた絵画が所狭しと飾られている。
「僕だってこんな絵になんか興味ない。有名どころの作者くらいは言えるけどね。それだって偉そうに解説出来るほどのもんじゃない。案内しろって言われたから連れて来たけど、きみに色々紹介しなかったのは、僕もこの屋敷のことを余り知らないからだ」
「…?どういう意味だ?」


アスランにしてみれば至極当然の疑問だったのだが、キラはそこで初めて表情を変えた。
「だって僕もこの邸に住んだことはないからね」

「………………」




その後キラから聞かされた話は、アスランにとっては寝耳に水のことばかりであった。




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