婚約




振り返ったキラが眉を寄せるのを見て、ああやっぱりと思う。
「確かに美術品の説明なんか受けても下賎な俺には何のことやら分からないが、芸術に造詣が深ければそんなに偉いのか?」
「何を言って…」
「俺なんかに誰それの描いた絵画だなんて説明するのも無駄だと、そう言いたいんだろう?」
“成金”の自覚があるアスランに、それは痛切な仕打ちだった。相変わらずキラは眉を寄せたままで、何を思ってか怪訝そうにアスランを見つめている。それが侮蔑の視線のように受け取れて、益々頭に血が上った。
「何が気に入らないのか知らないが、そんなに嫌ならそっちから断ればよかっただろう!?それとも俺を蔑んで面白がっているのか?だったら他の奴でやってくれ!俺だってお前みたいなのと婚約なんて冗談でも嫌なんだからな!!」

一方的なアスランの台詞にも、キラは反論しなかった。だが何故だか少しだけ瞳のアメジストがさっきより色を増した気がした。


至近距離で向かい合うこと数分。それがアスランには永遠のように長く感じたのだった。




「………それがきみの本心?」
やっとポツリと零れた言葉は、一瞬アスランの中で意味を成さなかった。
「僕“みたいなの”とか…。分かっててもまともに言われたら結構ショックだよね」

別にキラは辛そうにした訳ではない。淡々と言った言葉だったのに、それはアスランの胸の深い場所を抉った。

あれほど多くの女たちを泣かせてきたアスランにとって、自分でも説明のつかない出来事だった。




2/4ページ
スキ