顔合せ




それは青天の霹靂以外のなにものでもなかった。


「男……ってどういう意味ですか?」
「お前は男の意味も知らないで今まで生きて来たのか?成績だけはいいと思っていたのだが」



件の初顔合わせ当日(見合いだとは絶対に認めたくない)。
海外の賓客が宿泊する時に使われることもある、国内でも最高級のホテルのティールーム(因みに個室の貸切)。
横にはパトリック、斜め前にはアスハ家当主のウズミ、そして常識から考えれば正面には自分の相手が座っている筈だ。
多分。

アスランはパトリックの刺のある台詞などまるで耳に入らなかったように、まじまじと正面の人物を眺めた。


小さな顔に大きすぎるのではないかとさえ思う透き通った紫の瞳。小ぶりだが低くはない鼻。艶やかな唇。
同い年だと聞いたがどこか幼い印象を受けるのは、全体的に小柄だからかもしれない。
どちらかといえば綺麗な女ばかりが群がるアスランの周囲にはいなかったタイプだ。

いや、そんなことよりも…。


どれだけ可愛いかろうがブスだろうが、今アスランの前にいるこの人物は。


間違いなく“男”に見えるのは絶対に気のせいではない。




「初めまして。キラ・ヤマトと申します」
声だって少し高めではあるものの、男のものであることは疑いようもない。しかもヤマト?アスハではないのか!?

挨拶さえ返せないアスランを苦笑と共にフォローしたのは、意外にもウズミであった。
「お聞き及びではなかったようだね。さぞや驚かれたであろう」
落ち着いた声にハッとしたアスラン。慌ててぎこちなくそれでも頭を下げた。
「し・失礼しました!アスラン・ザラです」
「うん。きみは現在大学で経済学を学んでいるようだが…」


物静かとも取れるウズミの語り口調。
結局彼からのアスランへの質問に終始し、顔合せの場はお開きになったのだった。




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