序章




「まぁまぁいーじゃない」

取り巻き連中の中でも顔と体はピカイチの女が、馴々しくアスランの肩に手を触れる。
ちょっと寝たくらいで何を勘違いしているのか「自分がアスランの彼女だ」と吹聴している女だった。
アスランの機嫌が更に降下するのに全く気付かない彼女は、たっぷり媚びを含んだ上目遣いで知ったげに付け加える。
「どうせ形だけの婚約者なんでしょ?放っとけばいいのよ」
言われなくてもそのつもりだ。
無言で女の手を払いのけたアスランは、これからも面白可笑しく過ごす日常を手放す気などさらさらなかった。
手を払われたことに女は不満そうに鼻を鳴らしている。この女と寝たことは失敗だったと冷めた頭でアスランは思った。ここらで身の程を思い知ってもらう必要を感じる。

「気やすく触るな」
「え?」
「別にお前のものになったつもりはない」
「ひど…」
「非道いのはどっちだ。勝手に周囲に有りもしない作り話を撒き散らされて、迷惑してるのは俺の方だが」

女の顔がみるみる内に醜く歪んでいく。本当のことを言われたくらいで、すぐ化けの皮が剥がれるのはどの女も同じこと。
全くつまらない生き物だ。

「なっなによ!サイテー!!」
顔色一つ変えないアスランに、やはり他の女と同じような一方的な捨て台詞を叩きつけ、彼女は教室を駆け出していった。



「あ~あ。可哀想に。彼女結構イイ線いってたじゃん」
「ホントですよ。まさしく鬼畜のすることですね」
途端に友人たちから受ける非難の言葉。
よくもそんなことが言えたものだとアスランは呆れた。




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