序章




金持ちの子息やご令嬢が通うことで有名な大学。
中でもアスラン・ザラは群を抜いて有名人だった。
彼の父親が一代で築いたザラ・カンパニーは知らない人間がいないほど。その一人息子であるアスラン自身も聡明な上に母親似の眉目秀麗な顔立ちをしていたから、これで周囲が放っとくわけがない。
斯くして二回生である彼の周りは多くの友人たちに取り囲まれて、常に賑やかで華やかなものだった。

そんな何もかもに恵まれ過ぎている本人が、少々難のある性格に育つのも致し方ないのかもしれない。




◇◇◇◇


「はぁ!?婚約者~!?お前に!?」
友人が驚くのも無理はない。何せお世辞にもアスランの女グセはいいとは言えなかったからだ。
正に来るもの拒まず、去るもの追わず。
時には一夜を共に過ごした相手の顔はおろか名前すら覚えてない有様だった。

「まぁ…分からなくもないか。お前の女遊びを心配したんだろ」
「余計なお世話だ。ちゃんと後腐れのないような相手を選んでる」


父・パトリックがそろそろ後継者としてのアスランの素行を心配し始めているのは知っていた。子供の内なら誤魔化せることも、20歳を過ぎてからでは言い訳も立たない。どこの馬の骨とも分からない女に訴えられでもしたら、一大スキャンダル。アスランの傷だけでは済まなくなる可能性だって否定出来ないのだ。
企業人としては比類ない才能を持つパトリック・ザラだが、時々突飛なことをやらかすと既に知っている友人たちは、こうして適当に婚約者をあてがうことで、アスランの愚行がなくなると本気で信じているのだろうと妙に納得した。彼のやりそうなことだった。




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