中学生
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出会った時のことなんて覚えているわけがない。僕は1歳に成り立たてで、あの子達は乳児だったのだから。
ただ覚えているのは、幼い頃から双子は名家の令嬢とは思えない程自由に振舞っていたことだ。あの2人にとって反抗できない僕はきっといい玩具だったことだろう。
暑い。アイスコーヒーが飲みたい。見回りから帰った僕は応接室の冷蔵庫を開ける。コーヒーもなければ氷もなかった。いい獲物も得られなかったし、僕はイラつきながら冷蔵庫を閉め自販機に向かった。
並中の自販機はこんなに品揃えが悪かっただろうか。微妙なものしか無い。自販機のボタンの前で指を彷徨わせていると軽い足跡と共によく知った香りが近づいてきた。敢えて見ないようにしていたが、白くて細い指が「えい♡」とレモンティーのボタンを押した。
「ありがとう恭弥くん」
「ああ、うん」
笑顔で僕を振り返るレイラ。いいって言ってないけどまあいい。
「マイカは何にする?」
「いいの?」
「いいよ」
レイラと一緒に近づいてきて姉の犯行を見守っていたマイカにも何か買ってやらねば。姉妹には平等にって言うだろ。マイカはミルクティーを選んだ。僕はアイスティーにした。自分のアイスティーと一緒に双子の分も取り出して渡してやる。彼女達は結露したペットボトルをハンカチで受け取った。
「君たちまだ帰ってなかったの?」
「今日は部活見学してたの」
「ふぅん」
「バレー部と美術部とー、家庭科部と、あと野球部!」
「なんで野球部?」
「山本くんがね、マネージャー募集してるから見に来ないかって」
山本武か。なんのつもりか知らないが、この双子は他人の世話なんてできない。
「いろいろ見て回ったらお腹空いちゃった。恭弥くんなんかお菓子ない?」
「私もお腹空いたなぁ、甘いもの食べたい」
4つの目がじっと僕を見つめる。無表情の僕を見て眉尻を下げる双子。だからそれが僕に通用すると思うなよ。
「美味しい!」「美味しいぃ」
「ああ、そう。よかったね…」
気がついたら、僕が自分用に密かにとっておいた高級果物ゼリーを双子に与えていた。今度から双子用にケーキでも用意しておこうか。
「食べ終わるまではいてもいいけど、静かにね。僕は仕事がある」
「「はーい」」
しばらくして。静かにね、と言ったはいいが本当に静かになった。子供がやけに静かになった時は良からぬことをしていると聞く。双子を見やると、マイカがレイラに寄りかかって寝息を立てていた。レイラの様子はここからでは伺えない。
音を立てないように近づくとレイラも目を閉じていた。そもそもレイラは息が静かだから寝ているかどうか判断しづらい。
急に押しかけてくるし、菓子は強請ってくるし、……寝るし。なんなんだ自由過ぎないか。こんなことして許されるの君たちだけだからね。
環境の変化に疲れたのかもしれない。しょっちゅう応接室に来るのは昔から知り合いの僕がいるからだろうか。
レイラはわがままに振舞っていても繊細なところがある。レイラの顔にかかる髪を払いのけようと手を伸ばしたけど、我に帰ってやめた。変態みたいだ。
ずっと眠っててくれればいいのにと邪気のない寝顔を見て思う。足丸出しで眠りこける双子の膝に学ランをかけてやる。草壁に言ってブランケットでも買って来させよう。
どうせ双子はまた来るだろうから。