むらさきの初夏
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梅雨の晴れ間に紫陽花を見にきている。
田舎の寺院だが、平日にもかかわらずそこそこ人手があった。女学生から主婦層、老夫婦まで幅広い客層だ。広いので人混みに酔うこともない。観覧ルートに従いさまざまな色の紫陽花を堪能する。
「恭弥と来たかったなぁ」
「嘘がつけないなら口を閉じていなさい」
「やっば」
老人に扮した六道骸が冷たい口調で言い放ったことでわたしが全く仕事に集中していないことに気づいた。だって梅雨って体調が芳しくないし、ずっと幻覚を使ってれば偏頭痛だか幻覚酔いだかわかんない痛みに襲われるのだ。うそだ。梅雨の不調はあるけど幻覚酔いはしたことがない。そういう強さを買われて今ここにいる。六道骸はやれやれという空気は隠さないが、周りからは妻に連れられて紫陽花を見に来たおじいちゃんをきちんと演じている。わたしはお花と自然が大好きな婦人を演じないといけないのにぼおーっとしてしまっている。自分より明らかに格上の人間がバディだと気を抜きまくってしまう。紫陽花は普通に綺麗だし。
「本当にきれいね」
「そうですね」
「ヨッ。六月男」
「余計なことを言うなら黙っていてください」
なぜ六道骸と紫陽花を見に来ているか皆さん疑問に思うだろう。あれだ、よくある同盟ファミリーの令嬢の護衛任務である。正直わたし一人でも務まるが、明らかにシークレットサービスっぽいのはお断りだとのことで。なんせお連れのご友人は一般人である。そこで幻覚使いである六道骸がなぜか名乗りをあげたので一緒に来ている。六道骸が積極的に任務に参加しようとするのはあやしすぎるし、わたしはこいつの見張り役でもある。わたしが六道骸に次ぐ幻覚を見抜く実力の持ち主だからだ。六道骸のように戦闘しながら幻覚を展開することはできないので、六道骸が怪しい行動をしたら実力行使で止めて良いことになっている。てか、格闘のできる術師なんて邪道だ。極限に苛つかせて集中力を削ればいいのか!?
「移動しますよ」
「はぁい」
山の中にある寺院は隠れる場所や死角になる場所が非常に多い。この後雨の予報なので今日は誘拐にはうってつけの日だ。証拠が残りにくい。
「めっちゃ楽しそう。わたしもダブルデートしたい」
「雲雀恭弥は嫌がるでしょう」
「そうなんだよね。明らかな群れだもん」
某ファミリーのご令嬢は大学の仲間たちと楽しげにセルフィーを撮っている。それSNSに上げないよね? 大丈夫だよね? そんなに歳の差はないはずだけど最近の学生の流行はよくわからない。
特に事件は起きず、ご令嬢は無事帰宅して行った。そして、わたしも。自分の帰る場所に。
「紫陽花、きれいだった」
「そう。うちにもあるよ」
「しばらく帰ってないじゃん。いつも地下アジトの方に来るんだから」
「毎年この頃には花がついてるはずだ」
「それもいいけど、たくさん紫陽花がある場所はなんか違うの。そこに恭弥と行きたいんだよ」
「そんなことよりあいつは」
「六道骸? ピンピンしてたよ。あやしい挙動もなくてつまんなかった。獄寺さんに報告しといた」
今日は机仕事だったらしい恭弥は本を読みながらわたしと会話する。着流し姿の恭弥と紫陽花、絶対絵になるのにな。
「……わたしのおばあちゃん家の方がたくさん紫陽花あるよ。山だし」
「それ僕も行っていいの」
「いいんじゃないかな」
恭弥が本から顔を上げてこちらを見る。二畳半の距離でごろごろしていたわたしも動きを止めた。
「僕のことなんて紹介するつもり」
「えっ」
どうしよう特に何も考えてなかった。なんだか恥ずかしくなって顔に熱が集まる。わたしが固まっていると、恭弥がこちらにやってくる。
「どうする」と、顔を近づけてくる恭弥に「……どうしよ」と呟く。
おばあちゃんへ。今度大切な人と一緒に遊びに行きます。
#復活夢版ワンドロライ1本勝負
お題「アジサイ」に参加させていただきました。
田舎の寺院だが、平日にもかかわらずそこそこ人手があった。女学生から主婦層、老夫婦まで幅広い客層だ。広いので人混みに酔うこともない。観覧ルートに従いさまざまな色の紫陽花を堪能する。
「恭弥と来たかったなぁ」
「嘘がつけないなら口を閉じていなさい」
「やっば」
老人に扮した六道骸が冷たい口調で言い放ったことでわたしが全く仕事に集中していないことに気づいた。だって梅雨って体調が芳しくないし、ずっと幻覚を使ってれば偏頭痛だか幻覚酔いだかわかんない痛みに襲われるのだ。うそだ。梅雨の不調はあるけど幻覚酔いはしたことがない。そういう強さを買われて今ここにいる。六道骸はやれやれという空気は隠さないが、周りからは妻に連れられて紫陽花を見に来たおじいちゃんをきちんと演じている。わたしはお花と自然が大好きな婦人を演じないといけないのにぼおーっとしてしまっている。自分より明らかに格上の人間がバディだと気を抜きまくってしまう。紫陽花は普通に綺麗だし。
「本当にきれいね」
「そうですね」
「ヨッ。六月男」
「余計なことを言うなら黙っていてください」
なぜ六道骸と紫陽花を見に来ているか皆さん疑問に思うだろう。あれだ、よくある同盟ファミリーの令嬢の護衛任務である。正直わたし一人でも務まるが、明らかにシークレットサービスっぽいのはお断りだとのことで。なんせお連れのご友人は一般人である。そこで幻覚使いである六道骸がなぜか名乗りをあげたので一緒に来ている。六道骸が積極的に任務に参加しようとするのはあやしすぎるし、わたしはこいつの見張り役でもある。わたしが六道骸に次ぐ幻覚を見抜く実力の持ち主だからだ。六道骸のように戦闘しながら幻覚を展開することはできないので、六道骸が怪しい行動をしたら実力行使で止めて良いことになっている。てか、格闘のできる術師なんて邪道だ。極限に苛つかせて集中力を削ればいいのか!?
「移動しますよ」
「はぁい」
山の中にある寺院は隠れる場所や死角になる場所が非常に多い。この後雨の予報なので今日は誘拐にはうってつけの日だ。証拠が残りにくい。
「めっちゃ楽しそう。わたしもダブルデートしたい」
「雲雀恭弥は嫌がるでしょう」
「そうなんだよね。明らかな群れだもん」
某ファミリーのご令嬢は大学の仲間たちと楽しげにセルフィーを撮っている。それSNSに上げないよね? 大丈夫だよね? そんなに歳の差はないはずだけど最近の学生の流行はよくわからない。
特に事件は起きず、ご令嬢は無事帰宅して行った。そして、わたしも。自分の帰る場所に。
「紫陽花、きれいだった」
「そう。うちにもあるよ」
「しばらく帰ってないじゃん。いつも地下アジトの方に来るんだから」
「毎年この頃には花がついてるはずだ」
「それもいいけど、たくさん紫陽花がある場所はなんか違うの。そこに恭弥と行きたいんだよ」
「そんなことよりあいつは」
「六道骸? ピンピンしてたよ。あやしい挙動もなくてつまんなかった。獄寺さんに報告しといた」
今日は机仕事だったらしい恭弥は本を読みながらわたしと会話する。着流し姿の恭弥と紫陽花、絶対絵になるのにな。
「……わたしのおばあちゃん家の方がたくさん紫陽花あるよ。山だし」
「それ僕も行っていいの」
「いいんじゃないかな」
恭弥が本から顔を上げてこちらを見る。二畳半の距離でごろごろしていたわたしも動きを止めた。
「僕のことなんて紹介するつもり」
「えっ」
どうしよう特に何も考えてなかった。なんだか恥ずかしくなって顔に熱が集まる。わたしが固まっていると、恭弥がこちらにやってくる。
「どうする」と、顔を近づけてくる恭弥に「……どうしよ」と呟く。
おばあちゃんへ。今度大切な人と一緒に遊びに行きます。
#復活夢版ワンドロライ1本勝負
お題「アジサイ」に参加させていただきました。
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