五条悟の従姉妹に生まれた
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硝子の誕生日は皆が必死で予定を合わせて祝った。怪我をするたびお世話になるし、クールなようで楽しいひとだから皆彼女が好きだ。
「ありがとう」と笑う彼女にみんな幸せな気分になった。
悟の誕生日会は悟本人が任務に駆り出されていて、主役不在で開催された。プレゼントは最後まで高専に居残る硝子に預けて各々就寝したり、任務に出掛けていったりした。おめでとうは会った時に言うスタイルだ。
師走は忙しくあっという間にクリスマスになった。高専にクリスマスを祝う習慣なんてないが、悟がケーキを食べたがったので寮でクリスマスパーティーが開催された。それっぽい食事を寮母さんが用意してくれて、朝から深夜まで任務から解放される瞬間を狙って戻ってきた面子がオードブルから好きなものを食べていく。クリスマスプレゼントはそれぞれに宛てたのをソファの上に積んでおき、ついでに任務帰りのお土産もあったので机の上に積み、贈り物でみちみちだった。灰原は終始楽しそうであったが、七海はうわ……という顔を隠さなかった。
ソファにはプレゼントが積まれているのに、麗は自分宛てのを回収してソファの上で丸くなって寝ている。
夜になって酒を持ち出してきた硝子と一緒に夏油がやってきて、灰原が歓迎する声で麗は目覚めた。
「麗ちゃん。ヤドリギの話知ってる?」
「おい。やめろ」
気分良く酔った夏油が寝起きの麗に近づこうとするのを酒瓶で遮った硝子はタバコにも火をつけ始めた。
食事は灰原と夏油の胃に着々と消えていき、日付の変わる1時間前にやっと悟が帰ってきた。
「飯ほとんどねーじゃん」
「早いもの勝ちさ。帰ってくるのが遅いのが悪い」
「五条さんの分確保してあります!」
灰原がサッと皿を取り出した。いい後輩だ。お腹が空いていたのだろう悟もモリモリ食べた。
「灰原、そんなことわざわざしなくてよかったのに」と一堂の目が語っている。
「あ、コレうめ〜! 麗食った?」
「たぶん?」
半分寝ぼけた麗の口に悟がローストチキンをねじ込む。お腹が空いていれば美味しかったかもしれないが麗は満腹で眠たかったし、この後ケーキが待っていた。渋々食べた。口の周りにソースが着いた。食事に夢中になっている悟は机に戻っていってしまった。微妙な顔をする麗に気づいた七海がティシュを持ってくる。
「ありがとう。気が効くね」
「先輩たちよりは、そうですね」
悟が食事を終えた時点で、最後に残しておいたホールケーキを冷蔵庫から七海と灰原が出してくる。
「私の小さめで」
「私のも」
すでに飲酒している硝子と夏油だ。
「じゃあわたしも」
「なんでだよ。麗は食えよ」
「えっ」
「麗!紅茶ミルク入れる?」
「うんお願い」
切り分けられたケーキの大きさはバラバラだった。悟の分がいちばん大きい。
食べ盛りの高専生たちだからあっという間にケーキはなくなった。
◇
年末年始は、時期をバラしてそれぞれ実家に一時帰宅した。これから繁忙期だ。振袖なのにお腹いっぱいになるまで食べされられて機嫌の悪そうな麗と逆に機嫌の良さそうな悟の写メが夏油のケータイに送られてきていた。
2月の頭、鬼役をした夏油に向かって皆全力で豆を投げた。呪力を込めて豆を投げようと悟の指導のせいで、ほぼ修行のようになり最終的に喧嘩になった。教室の窓が割れ、扉は外れ、冷たい風の吹き込んでくる中、夜蛾に怒られることとなった。
その直後から皆が夏油に対してよそよそしい態度を取り始める。今度はなんの悪戯だ、と思っていたが忙しいのであまり気に留めて居なかった。答えはすぐにわかった。
修繕された教室に飾り付けがしてあり、黒板にデカデカと「お誕生日おめでとう」の文字があったからだ。教室に隠れていた後輩たちがクラッカーを鳴らし、硝子が軽く拍手する。
「傑〜! 誕生日おめでと!!」
ついさっきまで任務で居なかったはずの悟がケーキを持って教室に入ってきた。
「ろうそく消して! 早くフーってしろよ。食いたい」
「わかったわかった」
「夏油さん! 本当におめでとうございます!」
「ありがとう」
夏油が蝋燭を消すと硝子がサクサクとケーキを切り分けていき紙皿に乗せた。ちょっと待てそれメスじゃないか? アホかナイフだよ。
「夏油せんぱい…さん。あの、プレゼント雪で配達が遅れてて……ごめんなさい。今度お部屋に持っていきますね」
申し訳なさそうにする麗にいいよと返してケーキを頬張る。クリスマスケーキの方が味が良かった気がした。1年生達はケーキを紅茶で流し込むように食べて任務に出て行ってしまった。慌ただしい誕生日会だ。悟は夜にマリカをしようと誘ってくるが、疲れていたので断った。が、とてもしつこかったので硝子と一緒にタバコを吸いながら悟が満足するまで付き合うことになった。
バレンタインは一応女子から男子へと贈られた。
「手作りじゃねーの?」と悟が文句を言う。
「そんな暇あるか」と硝子が返す。
睡眠時間削らないと手作りなんてする暇はなかった。例年と比べて呪霊の発生数が多く、しかも東京校に振られる任務数が明らかに増えていた。
3月、終了式は一応日付としては決まっているが、みんな任務で居なかった。
「夜蛾先生! 学長就任おめでとうございます」
「ありがとうな灰原、麗。でもまだだ」
「えっ」
そんな春、新しい1年生を迎えた。伊地知潔高くんだ。明らかに気の弱そうな子で悟にいじめられそうだな〜と麗は他人事のように思った。去年みたいに新入生歓迎会を行ったが、なんかかわいそうな感じになった。たくましく生きてほしいと思う。
◇
その年の夏は大変忙しかった。バラバラに任務を請け負ううちに麗は準一級に昇格していた。
「想像していたより家が多いですね」
山間部の割に民家がぽつぽつ存在している。七海は窓の外を眺めながら思案した。久方ぶりの3人での任務、移動用の車内のことである。
「この先が件の温泉街で、近年栄えているようですよ」
運転席の補助監督が返答する。灰原も対向車線側から景色を伺った。隣の麗は疲れ果ててうつらうつら船を漕いでいる。五条家の令嬢として優遇されているとはいえ忙しい日々を過ごしていた。この夏の呪霊発生件数は異常に多く、交流戦対策が後回しになっているくらいである。悟と傑が居るからどうせ今年も圧勝だろうが。
「あっベンツだ」
「先ほどはアウディ、今度はアルファロメオ、ポルシェ」
田舎だから土地代が安いのか、豪奢な家造りに高級車が目立っていた。
「ポルシェって珍しいの?」
目を覚ました麗が問うと、補助監督が苦笑いした。
「新車で買おうとすると高いですよ」
「そうなんだ……」
「麗さんお疲れですね。今夜は現地の方からのご厚意で温泉宿に泊まれますから、ゆっくり休まれて下さいね。私もご一緒します」
「はぁい」
返事にも噛み殺しきれない欠伸が混ざっている。麗は姿勢を正そうと伸びをした。ところで、ゾッと悪寒が走る。夏風邪だろうか。呪霊の気配だろうか。身を震わせた麗を心配気に右を向いた灰原は、七海と共に同じものを見た。
「湖ですか」
そんなに大きくはない。向こう岸がはっきり見える。青いような黒いような水面が、空を鈍く反射している。このような場所に珍しくもない鳥居もある。この山道で、大小様々な鳥居を確認していた。補助監督が補足する。
「厳密には沼のようです。少なくともここらの住民は沼と呼んでいます」
今回の案件は、少女行方不明事件を発端とした呪霊捜索と討伐である。毎年、夏になるとこの街を訪れた少女が行方をくらましている。発覚したのは、窓の青年が恋人と蜜月を過ごそうとこの温泉街の宿を予約し、観光地途中に彼女が行方知れずになったことからである。確かに人ならざるものの気配を感じ取ったし、警察にも捜索依頼を出したのに、監視カメラにも地元住人の目撃情報も得られなかったという。悲しみに暮れる暇もなく彼は近年の事件の捜索まで行い、毎年同じように少女が行方不明になっていることがわかった。どれもこれも事件として取り上げられず、地元警察も相手にしてくれない。そこで、いよいよ怪しいと呪術高専に依頼が舞い込んできたのだ。
「そろそろですよ」
沼を通り過ぎて5分ほど、湯気に煙る温泉街に入った。
「コンビニ寄りますか?」
宿に着く前に休憩を、と補助監督の気遣いで立ち寄ることになった。この補助監督、五条家の息のたっぷりかかった女性である。麗の泊まりがけ任務の際に引率することの多い人だ。未成年の生徒を生徒だけで宿泊させるわけにはいかない。暑いだろうとスポーツドリンクを奢ってくれた。実際の戦闘の際、肌を守る為に作られている高専の制服は暑い。
「ようこそいらっしゃいませ」
任務の拠点とする旅館に着くと主人が恭しく迎え入れてくれた。麗たち一行は一旦ここに荷物を預けて作戦会議をする。部屋割りは男子2人と、補助監督と麗が一緒だ。
ひとまず男子の部屋に集まる。お茶菓子を食べながら、お茶を飲む。
「5年前から、12歳から19歳の少女が1人ずつ年にいちど姿を消しています」
事件のおさらいだ。この内容は窓の青年が執念と努力で集め、呪術的視点から考察を加えたものである。
「この村には大正時代まで、人身御供の噂がありました。ですが、当時は外部の人間ではなく、村の中で行われていたことなので詳細は分かりません。龍神を祀る神社があるようですが、」
補助監督が話しているとほとほと扉が叩かれる。灰原がさっと立ち上がり、戸を開ければ、おかみさんが差し入れをくださった。
愛嬌たっぷりに灰原がおかみさんに訊ねる。
「龍神様を祀られているお社があるそうですね」
「ええ、弟が神主をしております。すぐご案内できますよ」
「ではぜひ」
今すぐにでもと一同立ち上がりかけるのをまあまあと座らせて、おかみさんは言った。
「お嬢さんもいらっしゃることですから」
おかみさんの手には色浴衣もあった。あれよあれよと麗は着替えさせられ。髪も結い上げてもらった。
「明日お祭りだから今日から屋台とかやってるのよ。できた。ほぅらかわいい」
おかみさんがにこやかに麗の手を握る。
「研究の手伝いでいらしたんでしょう? でも、せっかくですから楽しんで」
「……はい」
2023.7.28
「ありがとう」と笑う彼女にみんな幸せな気分になった。
悟の誕生日会は悟本人が任務に駆り出されていて、主役不在で開催された。プレゼントは最後まで高専に居残る硝子に預けて各々就寝したり、任務に出掛けていったりした。おめでとうは会った時に言うスタイルだ。
師走は忙しくあっという間にクリスマスになった。高専にクリスマスを祝う習慣なんてないが、悟がケーキを食べたがったので寮でクリスマスパーティーが開催された。それっぽい食事を寮母さんが用意してくれて、朝から深夜まで任務から解放される瞬間を狙って戻ってきた面子がオードブルから好きなものを食べていく。クリスマスプレゼントはそれぞれに宛てたのをソファの上に積んでおき、ついでに任務帰りのお土産もあったので机の上に積み、贈り物でみちみちだった。灰原は終始楽しそうであったが、七海はうわ……という顔を隠さなかった。
ソファにはプレゼントが積まれているのに、麗は自分宛てのを回収してソファの上で丸くなって寝ている。
夜になって酒を持ち出してきた硝子と一緒に夏油がやってきて、灰原が歓迎する声で麗は目覚めた。
「麗ちゃん。ヤドリギの話知ってる?」
「おい。やめろ」
気分良く酔った夏油が寝起きの麗に近づこうとするのを酒瓶で遮った硝子はタバコにも火をつけ始めた。
食事は灰原と夏油の胃に着々と消えていき、日付の変わる1時間前にやっと悟が帰ってきた。
「飯ほとんどねーじゃん」
「早いもの勝ちさ。帰ってくるのが遅いのが悪い」
「五条さんの分確保してあります!」
灰原がサッと皿を取り出した。いい後輩だ。お腹が空いていたのだろう悟もモリモリ食べた。
「灰原、そんなことわざわざしなくてよかったのに」と一堂の目が語っている。
「あ、コレうめ〜! 麗食った?」
「たぶん?」
半分寝ぼけた麗の口に悟がローストチキンをねじ込む。お腹が空いていれば美味しかったかもしれないが麗は満腹で眠たかったし、この後ケーキが待っていた。渋々食べた。口の周りにソースが着いた。食事に夢中になっている悟は机に戻っていってしまった。微妙な顔をする麗に気づいた七海がティシュを持ってくる。
「ありがとう。気が効くね」
「先輩たちよりは、そうですね」
悟が食事を終えた時点で、最後に残しておいたホールケーキを冷蔵庫から七海と灰原が出してくる。
「私の小さめで」
「私のも」
すでに飲酒している硝子と夏油だ。
「じゃあわたしも」
「なんでだよ。麗は食えよ」
「えっ」
「麗!紅茶ミルク入れる?」
「うんお願い」
切り分けられたケーキの大きさはバラバラだった。悟の分がいちばん大きい。
食べ盛りの高専生たちだからあっという間にケーキはなくなった。
◇
年末年始は、時期をバラしてそれぞれ実家に一時帰宅した。これから繁忙期だ。振袖なのにお腹いっぱいになるまで食べされられて機嫌の悪そうな麗と逆に機嫌の良さそうな悟の写メが夏油のケータイに送られてきていた。
2月の頭、鬼役をした夏油に向かって皆全力で豆を投げた。呪力を込めて豆を投げようと悟の指導のせいで、ほぼ修行のようになり最終的に喧嘩になった。教室の窓が割れ、扉は外れ、冷たい風の吹き込んでくる中、夜蛾に怒られることとなった。
その直後から皆が夏油に対してよそよそしい態度を取り始める。今度はなんの悪戯だ、と思っていたが忙しいのであまり気に留めて居なかった。答えはすぐにわかった。
修繕された教室に飾り付けがしてあり、黒板にデカデカと「お誕生日おめでとう」の文字があったからだ。教室に隠れていた後輩たちがクラッカーを鳴らし、硝子が軽く拍手する。
「傑〜! 誕生日おめでと!!」
ついさっきまで任務で居なかったはずの悟がケーキを持って教室に入ってきた。
「ろうそく消して! 早くフーってしろよ。食いたい」
「わかったわかった」
「夏油さん! 本当におめでとうございます!」
「ありがとう」
夏油が蝋燭を消すと硝子がサクサクとケーキを切り分けていき紙皿に乗せた。ちょっと待てそれメスじゃないか? アホかナイフだよ。
「夏油せんぱい…さん。あの、プレゼント雪で配達が遅れてて……ごめんなさい。今度お部屋に持っていきますね」
申し訳なさそうにする麗にいいよと返してケーキを頬張る。クリスマスケーキの方が味が良かった気がした。1年生達はケーキを紅茶で流し込むように食べて任務に出て行ってしまった。慌ただしい誕生日会だ。悟は夜にマリカをしようと誘ってくるが、疲れていたので断った。が、とてもしつこかったので硝子と一緒にタバコを吸いながら悟が満足するまで付き合うことになった。
バレンタインは一応女子から男子へと贈られた。
「手作りじゃねーの?」と悟が文句を言う。
「そんな暇あるか」と硝子が返す。
睡眠時間削らないと手作りなんてする暇はなかった。例年と比べて呪霊の発生数が多く、しかも東京校に振られる任務数が明らかに増えていた。
3月、終了式は一応日付としては決まっているが、みんな任務で居なかった。
「夜蛾先生! 学長就任おめでとうございます」
「ありがとうな灰原、麗。でもまだだ」
「えっ」
そんな春、新しい1年生を迎えた。伊地知潔高くんだ。明らかに気の弱そうな子で悟にいじめられそうだな〜と麗は他人事のように思った。去年みたいに新入生歓迎会を行ったが、なんかかわいそうな感じになった。たくましく生きてほしいと思う。
◇
その年の夏は大変忙しかった。バラバラに任務を請け負ううちに麗は準一級に昇格していた。
「想像していたより家が多いですね」
山間部の割に民家がぽつぽつ存在している。七海は窓の外を眺めながら思案した。久方ぶりの3人での任務、移動用の車内のことである。
「この先が件の温泉街で、近年栄えているようですよ」
運転席の補助監督が返答する。灰原も対向車線側から景色を伺った。隣の麗は疲れ果ててうつらうつら船を漕いでいる。五条家の令嬢として優遇されているとはいえ忙しい日々を過ごしていた。この夏の呪霊発生件数は異常に多く、交流戦対策が後回しになっているくらいである。悟と傑が居るからどうせ今年も圧勝だろうが。
「あっベンツだ」
「先ほどはアウディ、今度はアルファロメオ、ポルシェ」
田舎だから土地代が安いのか、豪奢な家造りに高級車が目立っていた。
「ポルシェって珍しいの?」
目を覚ました麗が問うと、補助監督が苦笑いした。
「新車で買おうとすると高いですよ」
「そうなんだ……」
「麗さんお疲れですね。今夜は現地の方からのご厚意で温泉宿に泊まれますから、ゆっくり休まれて下さいね。私もご一緒します」
「はぁい」
返事にも噛み殺しきれない欠伸が混ざっている。麗は姿勢を正そうと伸びをした。ところで、ゾッと悪寒が走る。夏風邪だろうか。呪霊の気配だろうか。身を震わせた麗を心配気に右を向いた灰原は、七海と共に同じものを見た。
「湖ですか」
そんなに大きくはない。向こう岸がはっきり見える。青いような黒いような水面が、空を鈍く反射している。このような場所に珍しくもない鳥居もある。この山道で、大小様々な鳥居を確認していた。補助監督が補足する。
「厳密には沼のようです。少なくともここらの住民は沼と呼んでいます」
今回の案件は、少女行方不明事件を発端とした呪霊捜索と討伐である。毎年、夏になるとこの街を訪れた少女が行方をくらましている。発覚したのは、窓の青年が恋人と蜜月を過ごそうとこの温泉街の宿を予約し、観光地途中に彼女が行方知れずになったことからである。確かに人ならざるものの気配を感じ取ったし、警察にも捜索依頼を出したのに、監視カメラにも地元住人の目撃情報も得られなかったという。悲しみに暮れる暇もなく彼は近年の事件の捜索まで行い、毎年同じように少女が行方不明になっていることがわかった。どれもこれも事件として取り上げられず、地元警察も相手にしてくれない。そこで、いよいよ怪しいと呪術高専に依頼が舞い込んできたのだ。
「そろそろですよ」
沼を通り過ぎて5分ほど、湯気に煙る温泉街に入った。
「コンビニ寄りますか?」
宿に着く前に休憩を、と補助監督の気遣いで立ち寄ることになった。この補助監督、五条家の息のたっぷりかかった女性である。麗の泊まりがけ任務の際に引率することの多い人だ。未成年の生徒を生徒だけで宿泊させるわけにはいかない。暑いだろうとスポーツドリンクを奢ってくれた。実際の戦闘の際、肌を守る為に作られている高専の制服は暑い。
「ようこそいらっしゃいませ」
任務の拠点とする旅館に着くと主人が恭しく迎え入れてくれた。麗たち一行は一旦ここに荷物を預けて作戦会議をする。部屋割りは男子2人と、補助監督と麗が一緒だ。
ひとまず男子の部屋に集まる。お茶菓子を食べながら、お茶を飲む。
「5年前から、12歳から19歳の少女が1人ずつ年にいちど姿を消しています」
事件のおさらいだ。この内容は窓の青年が執念と努力で集め、呪術的視点から考察を加えたものである。
「この村には大正時代まで、人身御供の噂がありました。ですが、当時は外部の人間ではなく、村の中で行われていたことなので詳細は分かりません。龍神を祀る神社があるようですが、」
補助監督が話しているとほとほと扉が叩かれる。灰原がさっと立ち上がり、戸を開ければ、おかみさんが差し入れをくださった。
愛嬌たっぷりに灰原がおかみさんに訊ねる。
「龍神様を祀られているお社があるそうですね」
「ええ、弟が神主をしております。すぐご案内できますよ」
「ではぜひ」
今すぐにでもと一同立ち上がりかけるのをまあまあと座らせて、おかみさんは言った。
「お嬢さんもいらっしゃることですから」
おかみさんの手には色浴衣もあった。あれよあれよと麗は着替えさせられ。髪も結い上げてもらった。
「明日お祭りだから今日から屋台とかやってるのよ。できた。ほぅらかわいい」
おかみさんがにこやかに麗の手を握る。
「研究の手伝いでいらしたんでしょう? でも、せっかくですから楽しんで」
「……はい」
2023.7.28