五条悟の従姉妹に生まれた
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「七海!」
「お誕生日!」
「「おめでとうー!!」」
いつもより豪勢な土産物が畳に並んでいる。今日は七海の誕生日だ。
麗は二級だから、単独任務がちらほら入る。悟に連行されるときもあるが。
1年生揃っての任務がしばらくなく、非番が重なった夜などはお土産の交換会をするのが日課になっていた。
「こないだのお土産美味しかったよ」
「これもおいしい」
「ハズレのお土産なんて、たまに五条さんが買ってくる変なものだけでしょう」
「まあ、そうなんだけど」
暑い夏がやって来た。
冷たいものが美味しい季節だ。
「あっついね」
「暑いねー」
「声に出すと余計暑くなりませんか」
でも暑いから仕方がないよね、と顔を見合わせる麗と灰原。
「アイス食べたいなぁ」
高専の一番近くでアイスを確保できる店から、寮へ戻ってきて食べるとなると確実に溶ける。涼しい間に買いだめしておけばよかったと麗は後悔した。
「あ! アイスと言えば昨日の夜に夏油さんと食べたハーゲンダッツ美味しかったなぁ。五条さんのだけど。夏油さんが『内緒だよ』ってくれたんだ」
「いーなーー!」
「高専の冷蔵庫って治安悪いですよね」
悟が術式を使った瞬間移動で買ってきたアイスは、早いもの勝ちとばかりに狩られている。留守にすることが多い悟は、まだ気付いていない。
「あ、そういえば2人に手伝って欲しいことがあるんだけど」
きゅるんと、効果音がつきそうな顔で麗は同級生を見上げる。
「え、何? いいよ」
用件を聞く前に快諾する灰原を七海が信じられないものを見る目で見ている。碌なことではなかろうか。麗に悪意有らずとも巻き込まれるのは嫌なななみだった。
果たしてお願いとは。
「寮のお部屋、模様替えしてるんだけど、家具が重くって。具体的にいうと冷蔵庫の上に板乗せて、その上に電子レンジ置きたいの」
「なんだ、そんなことですか」
「じゃあサクッと済ませちゃおうか。今から行くよ」
「ありがとう〜」
笑顔で礼をいう麗にニコニコする灰原。本来1人で済む用事だったが、七海も付いて行くことにした。五条家の周辺は曰くがついて回る。2人きりで密室に入っただけで言い掛かりをつけられれば灰原が不憫だ。
そんな七海の不安はよそに夕飯が楽しみだとか、夏油の持ち呪霊な乗せて楽しかっただの語り2人は廊下を進む。七海も灰原も女子寮に入るのにはちょっとだけ抵抗があった。ちょっとだけ。上の学年が自由過ぎるので、まあいいか、と敷居をまたぐ。
「ここがわたしのお部屋でーす♪」
そうして麗が外開きの扉を開け、どうぞと2人を案内する。「お邪魔します」と足を踏み入れ、灰原が玄関マットに足を乗せた瞬間のことだった。
ビーッ ビーッ
けたたましいアラームが鳴り響いた。
何事かと動揺する一同。音源は麗の部屋の入り口周辺だ。冷静に周囲を見渡せば、玄関マットからはコードが伸びていて、コンセントに刺さっている。
「あ、なーんだ。君らか」
廊下から声がかかる。
沙希が自分の部屋から顔を出していた。
どうやら仮眠をとっていたようで、部屋着だ。彼女は、よいしょっ、と掛け声をかけながらドアの上側に付いていたスイッチを切る。アラームが鳴り止んだ。
「……なんですかこれ」
「防犯用アラート。登録した体重以外の人間が乗るとなる仕組み」
「なるほど」
灰原は未だ固まっている。驚いていた麗は「何それ聞いてない」と零した。
「この際だから灰原と七海も登録しとくよ。どうせ何も起きないでしょ。2人なら」
何も起きないとは、まあ、そういうことなんだろう。麗の貞操の話である。
「というか、なぜ2人揃って麗さんの部屋に」
「電子レンジ動かしてもらおうと思って」
「そうですか。おやすみなさい」
そのまますたすたと沙希は部屋に戻っていく。
「そういえばこのマット、沙希が引っ越し祝いってくれたんだった。どうして電気がいるのか今までわからなかった。防犯用だったんだ」
いや、納得するところではない! 七海は突っ込みたい気持ちを抑えた。悟から常々手を出すな、と言われているが麗を襲おうと思って襲える人間は限られる。しかも、麗に無断で設置してある。呪力による結界でないのは残穢でバレるからだろう。悟と硝子、沙希と麗本人、自分たちは登録してあるとして残りは夏油だけではなかろうか。夏油だったら、こんなブービートラップみたいなもの引っ掛からない。五条家は、特級である夏油を引き入れる算段があるのかもしれない。
七海の不安なんて、全く知らず、麗と灰原は家具の移動を済ませた。
◇
「傑? 秋といえば」
「そうだね、交流戦だね」
「まあ、今年もぉ? どうせ俺らが勝つんだけどぉ?」
「まぁね。片手もいらないだろうね」
「俺たち優しいからさぁ」
「うんうん」
「というわけで、京都の高専との交流会対策としてお前らを鍛えてやります! はい拍手!」
誰ひとりとして拍手しなかった。
静まり返る2年と1年。
「お前らノリ悪くね?」
「拍手してあげて、悟は情緒が小学生以下なんだ」
そこでようやっと拍手が鳴る。灰原が嬉々として拍手している。結婚式、新郎新婦入場の勢いだ。
「どういうことだよオマエら。俺は無視で傑のいうことは聞くのかよ」
「そういうことだろ」ボソリと硝子がいう。「夏油さんのいうことですから」と灰原。火に油を注ぐな。
「あー! 灰原オマエ、走り込み追加だかんな!」
「望むところです」
「悟、悟。そういう非効率なのしないから。灰原は体力は大丈夫。攻撃回避と打撃に呪力乗せる練習していこう」
「はい!」
「だーかーらー」
無意識に煽る傑に悟の機嫌が急降下していく。硝子は気だるげにしている。
麗は暑いなぁしか考えていない。七海はさっさと始めてさっさと帰りたかった。
「麗ちゃんは悟と組み手だね」
「ええ? 夏油さんがいいなぁ」
「悟、作戦変更。私が麗ちゃんを鍛えるから」
「傑の方こそ真面目にやれよ。麗、可愛く言っても手加減無用だからな」
「七海と灰原は基本的な体術を一通りと、応用の仕方、私の手持ちの呪霊と戦ってもらうよ。やっぱり実践形式が1番だからね」
「オイ! 無視すんな!」
「おまえらうるさい。さっさとしろ」
硝子が容赦なく言い放つ。これぞ鶴の一声。
当初予定されていた夜蛾の提案通りの強化メニューがスタートした。
七海は体力の強化、打撃の正確性の強化。
灰原は体力は問題なく、呪力出力と打撃の掛け合わせの訓練。
麗は悟に散々付き合わされている黒閃へ向けて練習を始めた。
「頑張ったやつはアイスな。麗はサボったら五条と空中散歩だ」
「えっ! 絶対やだ! 夏油さんの呪霊にのる方がいい」
「それじゃ罰ゲームにならないだろ」
「俺を罰ゲーム呼ばわりすんな」
麗は悟の空中散歩に付き合わされるのが嫌いだった。だって手を離されたら落ちるのだ。高専の敷地内でなら重力を呪力で相殺できるが、着地地点を破壊することになる。信用に値する相手でないと命は預けられないが悟は落とすフリをしてくるからタチが悪かった。
傑は後輩を落とすなんて絶対にしないし、怖いなら掴まってていいよ、なんなら手を繋いでいようか? となどと言ってくれる。喜んで飛びつくというものだ。
「では私達、一般家庭出身組も頑張るとしよう。暑いから適度に休憩は入れるよ」
「はい!」
「はい」
彼らは悟と麗が組み合うのを遠目に見ながら位置決めをする。
「麗って、体術苦手だっていうけど、強いですよね?」
御三家の2人の華麗な体捌きをみて灰原が問う。それには七海も思うところがあった。
「比較対象が悟だからね。自己評価も低くなるというものさ」
夏油もそちらを見遣りながら応える。そして一瞬俯き、なんでもないように笑顔で振り返った。
「さあ、始めようか」
◇
「だからぁ、蒼はこう!」
「わかんない!」
「この前できただろ!?」
「あれまぐれだもん!」
汗みずくの麗と違って悟は涼しい顔をしているが、双方苛立ちが隠せない。そろそろ頃合いか、と硝子は立ち上がる。
「休憩〜!」
暑いと頭に血が上りやすくなり、苛立ちも大きくなる。苛立ちが大きくなれば判断も鈍るというものだ。
そうして彼らは任務の合間に修行を積んでいった。
そして迎えた交流戦本番。特級2人は力を温存し、七海と灰原に花を持たせる形で東京校が勝利を収めた。これで1年生2人は昇級の推薦を得る。本来なら1年生は出ないが、今は近年稀に見る呪術師大豊作世代の教育が優先された。
「疲れたぁ」
「お疲れ様」
「夏油さんこそ」
残暑が遠のき、やっと涼を得られる時期になってきた。夏油は遠方の任務からの帰りで、麗は東京都内の任務帰りだった。寮の入り口で出会した2人はそのまま食堂へ向かう。外に食べに出てもよかったが、それよりも早く身体を休めたかった。
「食事がひとりじゃないっていうのは嬉しいね」
「わたしもです」
夏油は自分で移動できるので、補助監督と食事をする機会も少ない。麗はひとりだとまともに食事を摂らない。
2人とも寮母さんの作った暖かい味噌汁を啜った。
食事が終わって、シャワーを浴びるにしてもまだ早い時間帯。他の生徒たちはそれぞれ任務で不在だった。
「麗ちゃん。夜景、見に行く?」
「え、行きます」
2人して高専の結界を抜け、夏油の呪霊に飛び乗る。高度を上げれば気温は下がる。夏油が身震いする麗に上着を貸そうとすると、麗が夏油の上着の内側に手を入れてくる。だいぶ密着した状態だが、これで暖を取るつもりだろうか。あざといが過ぎる。ぎゅう、とくっついてくる麗をまんざらでもない気持ちで抱き返しながら、秋の澄んだ空に登る。人目につかぬよう注意をはらって。
東京は空気が曇っているから、ものすごく綺麗とはいかなかったけど。ちなみにこの夜景コース、悟と硝子も通過済みである。
「久しぶりにこういうことしたなぁ」
「ふふ。私も。……この東京の何処かで、今も呪霊が発生してて私達が祓いに行く。私達呪術師が護っている夜空だ」
「そうですね。そうだったらいいな」
2人とも自分に言い聞かせるように呟きながら、夜でも明るいほうを眺めていた。
2022.02.14.
「お誕生日!」
「「おめでとうー!!」」
いつもより豪勢な土産物が畳に並んでいる。今日は七海の誕生日だ。
麗は二級だから、単独任務がちらほら入る。悟に連行されるときもあるが。
1年生揃っての任務がしばらくなく、非番が重なった夜などはお土産の交換会をするのが日課になっていた。
「こないだのお土産美味しかったよ」
「これもおいしい」
「ハズレのお土産なんて、たまに五条さんが買ってくる変なものだけでしょう」
「まあ、そうなんだけど」
暑い夏がやって来た。
冷たいものが美味しい季節だ。
「あっついね」
「暑いねー」
「声に出すと余計暑くなりませんか」
でも暑いから仕方がないよね、と顔を見合わせる麗と灰原。
「アイス食べたいなぁ」
高専の一番近くでアイスを確保できる店から、寮へ戻ってきて食べるとなると確実に溶ける。涼しい間に買いだめしておけばよかったと麗は後悔した。
「あ! アイスと言えば昨日の夜に夏油さんと食べたハーゲンダッツ美味しかったなぁ。五条さんのだけど。夏油さんが『内緒だよ』ってくれたんだ」
「いーなーー!」
「高専の冷蔵庫って治安悪いですよね」
悟が術式を使った瞬間移動で買ってきたアイスは、早いもの勝ちとばかりに狩られている。留守にすることが多い悟は、まだ気付いていない。
「あ、そういえば2人に手伝って欲しいことがあるんだけど」
きゅるんと、効果音がつきそうな顔で麗は同級生を見上げる。
「え、何? いいよ」
用件を聞く前に快諾する灰原を七海が信じられないものを見る目で見ている。碌なことではなかろうか。麗に悪意有らずとも巻き込まれるのは嫌なななみだった。
果たしてお願いとは。
「寮のお部屋、模様替えしてるんだけど、家具が重くって。具体的にいうと冷蔵庫の上に板乗せて、その上に電子レンジ置きたいの」
「なんだ、そんなことですか」
「じゃあサクッと済ませちゃおうか。今から行くよ」
「ありがとう〜」
笑顔で礼をいう麗にニコニコする灰原。本来1人で済む用事だったが、七海も付いて行くことにした。五条家の周辺は曰くがついて回る。2人きりで密室に入っただけで言い掛かりをつけられれば灰原が不憫だ。
そんな七海の不安はよそに夕飯が楽しみだとか、夏油の持ち呪霊な乗せて楽しかっただの語り2人は廊下を進む。七海も灰原も女子寮に入るのにはちょっとだけ抵抗があった。ちょっとだけ。上の学年が自由過ぎるので、まあいいか、と敷居をまたぐ。
「ここがわたしのお部屋でーす♪」
そうして麗が外開きの扉を開け、どうぞと2人を案内する。「お邪魔します」と足を踏み入れ、灰原が玄関マットに足を乗せた瞬間のことだった。
ビーッ ビーッ
けたたましいアラームが鳴り響いた。
何事かと動揺する一同。音源は麗の部屋の入り口周辺だ。冷静に周囲を見渡せば、玄関マットからはコードが伸びていて、コンセントに刺さっている。
「あ、なーんだ。君らか」
廊下から声がかかる。
沙希が自分の部屋から顔を出していた。
どうやら仮眠をとっていたようで、部屋着だ。彼女は、よいしょっ、と掛け声をかけながらドアの上側に付いていたスイッチを切る。アラームが鳴り止んだ。
「……なんですかこれ」
「防犯用アラート。登録した体重以外の人間が乗るとなる仕組み」
「なるほど」
灰原は未だ固まっている。驚いていた麗は「何それ聞いてない」と零した。
「この際だから灰原と七海も登録しとくよ。どうせ何も起きないでしょ。2人なら」
何も起きないとは、まあ、そういうことなんだろう。麗の貞操の話である。
「というか、なぜ2人揃って麗さんの部屋に」
「電子レンジ動かしてもらおうと思って」
「そうですか。おやすみなさい」
そのまますたすたと沙希は部屋に戻っていく。
「そういえばこのマット、沙希が引っ越し祝いってくれたんだった。どうして電気がいるのか今までわからなかった。防犯用だったんだ」
いや、納得するところではない! 七海は突っ込みたい気持ちを抑えた。悟から常々手を出すな、と言われているが麗を襲おうと思って襲える人間は限られる。しかも、麗に無断で設置してある。呪力による結界でないのは残穢でバレるからだろう。悟と硝子、沙希と麗本人、自分たちは登録してあるとして残りは夏油だけではなかろうか。夏油だったら、こんなブービートラップみたいなもの引っ掛からない。五条家は、特級である夏油を引き入れる算段があるのかもしれない。
七海の不安なんて、全く知らず、麗と灰原は家具の移動を済ませた。
◇
「傑? 秋といえば」
「そうだね、交流戦だね」
「まあ、今年もぉ? どうせ俺らが勝つんだけどぉ?」
「まぁね。片手もいらないだろうね」
「俺たち優しいからさぁ」
「うんうん」
「というわけで、京都の高専との交流会対策としてお前らを鍛えてやります! はい拍手!」
誰ひとりとして拍手しなかった。
静まり返る2年と1年。
「お前らノリ悪くね?」
「拍手してあげて、悟は情緒が小学生以下なんだ」
そこでようやっと拍手が鳴る。灰原が嬉々として拍手している。結婚式、新郎新婦入場の勢いだ。
「どういうことだよオマエら。俺は無視で傑のいうことは聞くのかよ」
「そういうことだろ」ボソリと硝子がいう。「夏油さんのいうことですから」と灰原。火に油を注ぐな。
「あー! 灰原オマエ、走り込み追加だかんな!」
「望むところです」
「悟、悟。そういう非効率なのしないから。灰原は体力は大丈夫。攻撃回避と打撃に呪力乗せる練習していこう」
「はい!」
「だーかーらー」
無意識に煽る傑に悟の機嫌が急降下していく。硝子は気だるげにしている。
麗は暑いなぁしか考えていない。七海はさっさと始めてさっさと帰りたかった。
「麗ちゃんは悟と組み手だね」
「ええ? 夏油さんがいいなぁ」
「悟、作戦変更。私が麗ちゃんを鍛えるから」
「傑の方こそ真面目にやれよ。麗、可愛く言っても手加減無用だからな」
「七海と灰原は基本的な体術を一通りと、応用の仕方、私の手持ちの呪霊と戦ってもらうよ。やっぱり実践形式が1番だからね」
「オイ! 無視すんな!」
「おまえらうるさい。さっさとしろ」
硝子が容赦なく言い放つ。これぞ鶴の一声。
当初予定されていた夜蛾の提案通りの強化メニューがスタートした。
七海は体力の強化、打撃の正確性の強化。
灰原は体力は問題なく、呪力出力と打撃の掛け合わせの訓練。
麗は悟に散々付き合わされている黒閃へ向けて練習を始めた。
「頑張ったやつはアイスな。麗はサボったら五条と空中散歩だ」
「えっ! 絶対やだ! 夏油さんの呪霊にのる方がいい」
「それじゃ罰ゲームにならないだろ」
「俺を罰ゲーム呼ばわりすんな」
麗は悟の空中散歩に付き合わされるのが嫌いだった。だって手を離されたら落ちるのだ。高専の敷地内でなら重力を呪力で相殺できるが、着地地点を破壊することになる。信用に値する相手でないと命は預けられないが悟は落とすフリをしてくるからタチが悪かった。
傑は後輩を落とすなんて絶対にしないし、怖いなら掴まってていいよ、なんなら手を繋いでいようか? となどと言ってくれる。喜んで飛びつくというものだ。
「では私達、一般家庭出身組も頑張るとしよう。暑いから適度に休憩は入れるよ」
「はい!」
「はい」
彼らは悟と麗が組み合うのを遠目に見ながら位置決めをする。
「麗って、体術苦手だっていうけど、強いですよね?」
御三家の2人の華麗な体捌きをみて灰原が問う。それには七海も思うところがあった。
「比較対象が悟だからね。自己評価も低くなるというものさ」
夏油もそちらを見遣りながら応える。そして一瞬俯き、なんでもないように笑顔で振り返った。
「さあ、始めようか」
◇
「だからぁ、蒼はこう!」
「わかんない!」
「この前できただろ!?」
「あれまぐれだもん!」
汗みずくの麗と違って悟は涼しい顔をしているが、双方苛立ちが隠せない。そろそろ頃合いか、と硝子は立ち上がる。
「休憩〜!」
暑いと頭に血が上りやすくなり、苛立ちも大きくなる。苛立ちが大きくなれば判断も鈍るというものだ。
そうして彼らは任務の合間に修行を積んでいった。
そして迎えた交流戦本番。特級2人は力を温存し、七海と灰原に花を持たせる形で東京校が勝利を収めた。これで1年生2人は昇級の推薦を得る。本来なら1年生は出ないが、今は近年稀に見る呪術師大豊作世代の教育が優先された。
「疲れたぁ」
「お疲れ様」
「夏油さんこそ」
残暑が遠のき、やっと涼を得られる時期になってきた。夏油は遠方の任務からの帰りで、麗は東京都内の任務帰りだった。寮の入り口で出会した2人はそのまま食堂へ向かう。外に食べに出てもよかったが、それよりも早く身体を休めたかった。
「食事がひとりじゃないっていうのは嬉しいね」
「わたしもです」
夏油は自分で移動できるので、補助監督と食事をする機会も少ない。麗はひとりだとまともに食事を摂らない。
2人とも寮母さんの作った暖かい味噌汁を啜った。
食事が終わって、シャワーを浴びるにしてもまだ早い時間帯。他の生徒たちはそれぞれ任務で不在だった。
「麗ちゃん。夜景、見に行く?」
「え、行きます」
2人して高専の結界を抜け、夏油の呪霊に飛び乗る。高度を上げれば気温は下がる。夏油が身震いする麗に上着を貸そうとすると、麗が夏油の上着の内側に手を入れてくる。だいぶ密着した状態だが、これで暖を取るつもりだろうか。あざといが過ぎる。ぎゅう、とくっついてくる麗をまんざらでもない気持ちで抱き返しながら、秋の澄んだ空に登る。人目につかぬよう注意をはらって。
東京は空気が曇っているから、ものすごく綺麗とはいかなかったけど。ちなみにこの夜景コース、悟と硝子も通過済みである。
「久しぶりにこういうことしたなぁ」
「ふふ。私も。……この東京の何処かで、今も呪霊が発生してて私達が祓いに行く。私達呪術師が護っている夜空だ」
「そうですね。そうだったらいいな」
2人とも自分に言い聞かせるように呟きながら、夜でも明るいほうを眺めていた。
2022.02.14.