不可侵ワールド
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破顔して男に飛びつこうとした女の背から銀色の刀が飛び出した。女は何が起こったかよくわからないという反応で、目の前の愛しい男の顔を見上げて、見上げようとして、力を失い項垂れた。眼に自身の血液が映し出され、だんだんと光を失っていく。くちびるを『どうして』という形にゆっくりと動かして、男に抱きすくめられるようにして、その女は絶命した。
二人で観ていた映画のワンシーンだ。この死んだ女に似てると言われた、とDVDを持って帰ってきた本人はあろうことか途中から僕に寄りかかって寝落ちている。一緒に観ようと言ったのは彼女なのに。恨みがましく見つめていれば、映画の中で男がなんだか叫び始めた。さそのうるささに、ハッと気づいたように長いまつ毛をふるわせて彼女は目を覚ました。
「わたし寝てた……?」
「うん」
「うそ、やだ。何がどうなってこの子死んだの」
「色々あって好きな男に刺された」
「なにそれぇ……」
観直すのもめんどう、ねむい、そういい放って後ろに倒れ込み、こたつの布団を引き寄せる。彼女がもぞもぞとしている間にも映画は進んでゆくが、ヒロインの顛末以外には興味がないらしい。
「白蘭がね、この映画のこの子がわたしに似てるって言ってたの。似てた?」
僕らは新婚で、二人きりで過ごす冬休みな訳だが、他の男の薦めてきた映画を観るのってどうなんだろうか。
「雰囲気は似てるんじゃない。あと髪型」
「髪型かぁ。……あ、怒んないでね。白蘭のおすすめ持ってきたからって。白蘭ってわたしよりわたしの死に際に詳しいから。貴方にも知っていて欲しくて。ほんの少しでも」
そう言う彼女の表情は華奢な手と布団に隠されていて見えない。
数年前、未来に飛ばされた時、彼女は死んでいたらしい。ほとんどの世界で死ぬ運命にあると白蘭は言った。世界経済に君臨する家系の令嬢で、やんごとなき血筋を引く彼女はあらゆる世界の頂点と接点がある。そんな彼女は僕らの闘いとは関係なく白蘭とも接点をもったらしかった。そして白蘭がいらない世話を焼いているようだ。大人しくあのフニフニした洋菓子でも焼いておけばいいのに。
「何にせよ、死に方が似るなんてことはないだろ」
「そう?……そうね」
僕が彼女を手にかけるなんてこの世界ではあり得ない。何百人と言う人間が彼女を恨み、命を狙っていたとしても。僕だけはあり得ない。だからこそのこの無防備な状況だ。武器も防具もなく、SPもいない。
「貴方の側なら安心して眠れる」
「それはよかったね」
僕が至らない夫であれば刺し殺せと懐剣を父に持たされているはずだが出る幕は無さそうだ。
「お昼寝するわ」
「じゃー もういいよね。この映画」
映画の再生を止めて、DVDを取り出す。適当にケースに戻したらピシッと音が出た気がしたがまあいい。
「僕も寝る」
無防備でいられるこの空間が一般的に幸せと呼ばれるんだろう。少しだけこたつ布団を譲ってくれた彼女の隣に寝転がる。お互い多忙の身だ。今日だけ、もう少しこのまま。………いや、死が二人を分つ時まで、だったかな。
2022.8.22
#復活夢版ワンドロライ1本勝負
に参加させていただきました
お題「無防備」
二人で観ていた映画のワンシーンだ。この死んだ女に似てると言われた、とDVDを持って帰ってきた本人はあろうことか途中から僕に寄りかかって寝落ちている。一緒に観ようと言ったのは彼女なのに。恨みがましく見つめていれば、映画の中で男がなんだか叫び始めた。さそのうるささに、ハッと気づいたように長いまつ毛をふるわせて彼女は目を覚ました。
「わたし寝てた……?」
「うん」
「うそ、やだ。何がどうなってこの子死んだの」
「色々あって好きな男に刺された」
「なにそれぇ……」
観直すのもめんどう、ねむい、そういい放って後ろに倒れ込み、こたつの布団を引き寄せる。彼女がもぞもぞとしている間にも映画は進んでゆくが、ヒロインの顛末以外には興味がないらしい。
「白蘭がね、この映画のこの子がわたしに似てるって言ってたの。似てた?」
僕らは新婚で、二人きりで過ごす冬休みな訳だが、他の男の薦めてきた映画を観るのってどうなんだろうか。
「雰囲気は似てるんじゃない。あと髪型」
「髪型かぁ。……あ、怒んないでね。白蘭のおすすめ持ってきたからって。白蘭ってわたしよりわたしの死に際に詳しいから。貴方にも知っていて欲しくて。ほんの少しでも」
そう言う彼女の表情は華奢な手と布団に隠されていて見えない。
数年前、未来に飛ばされた時、彼女は死んでいたらしい。ほとんどの世界で死ぬ運命にあると白蘭は言った。世界経済に君臨する家系の令嬢で、やんごとなき血筋を引く彼女はあらゆる世界の頂点と接点がある。そんな彼女は僕らの闘いとは関係なく白蘭とも接点をもったらしかった。そして白蘭がいらない世話を焼いているようだ。大人しくあのフニフニした洋菓子でも焼いておけばいいのに。
「何にせよ、死に方が似るなんてことはないだろ」
「そう?……そうね」
僕が彼女を手にかけるなんてこの世界ではあり得ない。何百人と言う人間が彼女を恨み、命を狙っていたとしても。僕だけはあり得ない。だからこそのこの無防備な状況だ。武器も防具もなく、SPもいない。
「貴方の側なら安心して眠れる」
「それはよかったね」
僕が至らない夫であれば刺し殺せと懐剣を父に持たされているはずだが出る幕は無さそうだ。
「お昼寝するわ」
「じゃー もういいよね。この映画」
映画の再生を止めて、DVDを取り出す。適当にケースに戻したらピシッと音が出た気がしたがまあいい。
「僕も寝る」
無防備でいられるこの空間が一般的に幸せと呼ばれるんだろう。少しだけこたつ布団を譲ってくれた彼女の隣に寝転がる。お互い多忙の身だ。今日だけ、もう少しこのまま。………いや、死が二人を分つ時まで、だったかな。
2022.8.22
#復活夢版ワンドロライ1本勝負
に参加させていただきました
お題「無防備」
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