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「おかえり、隼人」
「ああ…」
「大丈夫?」
「あぁ……」
ほんとに?としつこく聞いてもまともな答えは帰ってきそうにない。玄関に入って靴を脱いだ途端、動きはゆっくりしたものとなった。いつも大切に抱えている仕事道具の入ったカバンは床から数センチというところで指から滑り落ち、ごとんと重そうな音を立てる。
「今回は何徹?」
「徹夜じゃねぇ。仮眠とった。十五分」
「わー…」
それ仮眠っていうのかな。一週間くらい帰ってこなかったから、どんなに忙しかったか想像に難くない。ねみぃ、と目を閉じかける隼人のジャケットを預かってリビングへと背中を押した。
「あらあら」
寝てる。ジャケットをハンガーにかけてからリビングに向かったら、ソファで横になっていらっしゃる。机にPCが開かれている上に、顔には手帳が乗っていた。帰ってからも仕事をするつもりだったらしい。隼人は頑張りすぎるところがあるから時々心配になる。顔に乗っかっている手帳を取り上げて、開かれたページが変わらないようにテーブルに置いた。
「ふふ」
すやすやと寝息を立てるいとおしい人。髪の毛と同じ銀色のまつげをこの時だけ存分に見つめることができる。なんてかっこいいんだろう。濃いくまは隼人が頑張った証なんだろうな。ふいに隼人がん、とうなって眉間にシワが寄った。見つめすぎちゃった。慌てて離れようとすると膝立ちになったわたしの腰を隼人の手が引き寄せた。すっと高い鼻先がお腹に埋まる。瓜が甘える時みたいに頭をすり寄せられて思わず仔猫にするように頭を撫でてしまった。寝ぼけてるのかな。かわいい。一瞬だけ、澄んだ翡翠の目が薄らと開かれ、閉じられる。それと同時にわたしを引き寄せた手からも力が抜けていった。……ゆっくり寝てね。お腹にそっとブランケットをかけてソファを離れる。何かお腹に優しくて、栄養のとれる食事を作ろう。
コトコト。
じゃがいものポタージュが焦げ付かないように優しくかき混ぜていると、起きてきた隼人がのそりと背後に立った。
「おはよう」
「………すげー…美味そうなにおいがする」
腹減った、と隼人の顔が肩に乗った。まだ眠そう。あくびを1つしてわたしのお腹に腕を回す。滅多にされない料理中の構ってに隼人の疲労を感じた。
「もうすぐできるよ。ゆっくりしてて」
「ん…じゃあシャワー浴びてくるか」
「うん。どうぞ」
「あぁ……。ん」
「え、ちょ」
片腕をお腹から離した隼人が今度はわたしの側頭部を抱えた。今、料理中という抗議をする間も無く。こめかみに優しく唇が落ちた。
「ただいま」
「お、おかえり」
そう返せば満足げに表情がゆるめられた。穏やかな目。少し面食らったわたしをよそに隼人はサラダのベーコンをつまんでネクタイを緩めはじめた。明日明後日休みだぜとか言いながらリビングを出て行く。
そう、おやすみなの。それなら休みの間はわたしが甘えさせてもらおうかな。とびきりの癒しをあげなくちゃね。
2020.07.20.
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負
お題「甘える」に参加させていただいたときのものにほんの少し加筆しました
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