secret
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今まで知らないふりをしてきた。
どこで、何してる人なのか。
わたしに与えられる高価な贈り物の財源がなんなのか。
黒いスーツ黒いネクタイ。俳優よりもいい顔。モデルみたいに長い手足。今まで出会ったどんな男より素敵なひと。
抱きしめられたときの火薬のにおいに目を見開いてしまったとき、見つめあった彼が微笑んだから。黙って唇を受け入れた。
賢いねと頭を撫でてくれる大きな手に甘えるのが好きだった。
あのまま知らないでいられれば幸せだった。
ほんとうに、そう?
◇◇◇
「雲雀恭弥は知り合いか?」
「え……?」
街中で声をかけられて、いつも通り無視しようとすれば聞き覚えのある名前に足が止まる。ガタイの良い黒いスーツに黒いネクタイの男がわたしに問いかけていた。返事も待たずにその男は、恭弥とはまるで違う優雅さのかけらもない仕草でわたしの後方に指示を飛ばした。ごつりとわき腹に重たくて冷たい感触。いやな汗が流れてうまく息ができなくなる。
「付いてこい」
悲鳴を上げる余裕などなかった。
◇◇◇
「ああ、よかった。無事だね」
捕らえられた建物の下階から轟音がして、様子を見に行った怪しい男たちは次々と姿を消した。最後の一人は今しがた屠られた。まるで紙を千切るような手軽さでそれを行ったひとは汚れていない方の手をわたしに差し出す。
「立てるかい」
「きょう、や……」
「ひどいことされなかった?」
縄の痕のついたわたしの手首をさする手は、床に転がった男を肉塊に変えたのと同じものだとは到底信じがたい。けど、けれど、何よりも安心できる体温にしがみ付く。恭弥が何者なのか知りたくなかった。知ってしまったら好きでいられる自信がなかったから。そんなことどうだってよかったのに。ずっと触れずにきたけど、今ならもう、大丈夫。
「縛られただけ、」
「そう」
「あの、あのね。あなたが何ものなのか、教えてくれる?」
そうたずねれば恭弥はわらった。ほんとうにうれしそうな顔で。
ワンライに参加させていただいた時のものです。
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