爪先のひみつ
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恋人が変わると香水を変えるのはよく聞く話だ。
でもこいつの場合はそうじゃないのだと酒の席で聞いたことがある。
「あたしはー、爪の色変える。足の」
暗殺者は気配を消すのも仕事のうちだから、香水の管理って面倒で、と続けながらグラスを傾ける親指はシャンパンゴールド。話に出てきた爪先は、その時はパンプスに隠されていた。
ヴァリアーに属するあいつとは、他の荒くれどもとは比較的コミュニケーションがとりやすいことからお互いに書類のやり取りの代表として度々会う。が、暗殺者は自然に沿った生活習慣とはかけ離れた生活を送っているらしく、寝ている部屋に押し掛けることもあった。
今日もそんな調子で部屋のドアを叩けば、眠そうな返事をして寝起きの顔のまま出てくる。化粧をしていない幾分かあどけなく見える女の足元は裸足だった。これもいつものことだ。日本で育ったこの女は部屋の中だけは土足厳禁にしているらしい。ぺたぺたと冷たい床を叩く爪の先は赤。
「起こして悪いな」
「いいよ。仕事じゃん」
ボンゴレがヴァリアーに依頼をすることは基本的にないが、情報のやり取りは頻繁に行なっている。ふぁ、とあくびをして、手渡した書類の封を切って寝ぼけ眼が文字を追う。
獄寺はなんとなく足の指先に目をやった。
「また男変わったのか」
「え?」
「爪」
「ああ、うん。よく見てるね」
この間はアイスグレーだった。1か月前に見たときも赤だった。でも、以前とは違う赤だ。
「ベルとかも意外とみてて、『ヨリ戻したのかよ』って昨日顔合わせた時に言われたな」
「あ? 前とは違う男じゃねえのか? この間のと違うだろ」
そう言うと、目の前の女は目を見開いてこちらを見上げてきた。
「おっどろいた。本当によく見てるね。そ、この間のはシャネル。今つけてるのはー、京子ちゃんがくれた日本のブランドの」
くすくす笑う女は書類で口元を隠す。
「よく気づいたついでに教えてあげる。赤の時はあたし、フリーだよ」
じゃあね、と手を振ってドアを閉めた女の頬には赤が滲んでいた。
2020.12.17
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負
お題「ペディキュア」に参加させていただきました
でもこいつの場合はそうじゃないのだと酒の席で聞いたことがある。
「あたしはー、爪の色変える。足の」
暗殺者は気配を消すのも仕事のうちだから、香水の管理って面倒で、と続けながらグラスを傾ける親指はシャンパンゴールド。話に出てきた爪先は、その時はパンプスに隠されていた。
ヴァリアーに属するあいつとは、他の荒くれどもとは比較的コミュニケーションがとりやすいことからお互いに書類のやり取りの代表として度々会う。が、暗殺者は自然に沿った生活習慣とはかけ離れた生活を送っているらしく、寝ている部屋に押し掛けることもあった。
今日もそんな調子で部屋のドアを叩けば、眠そうな返事をして寝起きの顔のまま出てくる。化粧をしていない幾分かあどけなく見える女の足元は裸足だった。これもいつものことだ。日本で育ったこの女は部屋の中だけは土足厳禁にしているらしい。ぺたぺたと冷たい床を叩く爪の先は赤。
「起こして悪いな」
「いいよ。仕事じゃん」
ボンゴレがヴァリアーに依頼をすることは基本的にないが、情報のやり取りは頻繁に行なっている。ふぁ、とあくびをして、手渡した書類の封を切って寝ぼけ眼が文字を追う。
獄寺はなんとなく足の指先に目をやった。
「また男変わったのか」
「え?」
「爪」
「ああ、うん。よく見てるね」
この間はアイスグレーだった。1か月前に見たときも赤だった。でも、以前とは違う赤だ。
「ベルとかも意外とみてて、『ヨリ戻したのかよ』って昨日顔合わせた時に言われたな」
「あ? 前とは違う男じゃねえのか? この間のと違うだろ」
そう言うと、目の前の女は目を見開いてこちらを見上げてきた。
「おっどろいた。本当によく見てるね。そ、この間のはシャネル。今つけてるのはー、京子ちゃんがくれた日本のブランドの」
くすくす笑う女は書類で口元を隠す。
「よく気づいたついでに教えてあげる。赤の時はあたし、フリーだよ」
じゃあね、と手を振ってドアを閉めた女の頬には赤が滲んでいた。
2020.12.17
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負
お題「ペディキュア」に参加させていただきました
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