夏の宵闇
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「お風呂が沸きましたよ」
部屋に戻ってそう告げれば恭弥さんは目線だけで返事してみせた。先程まで蚊取り線香の煙を鼻先で追っていたロールはどこだろう。彼の手元に居ないのなら、机に匣が乗っていたから戻されてしまったのかもしれない。
灯を落とした部屋の前、縁側に腰かけた彼の隣に座る。ついでに冷凍庫から持ってきたみぞれを開けると恭弥さんがこちらを凝視した。さっき聞いた時はいらないと言ったくせに。何1人で食べてんのと言わんばかり。
「いけませんか」
「何も言ってないよ」
口に運べば冷たい氷があまくとける。なおも見つめづけられて、気まずくてそちらを向けば灰色の目とかち合った。
「食べます?」
「うん」
しゃり、と木さじですくって口元へ持っていく。けれど、なぜか恭弥さんは口を開けなかった。気まぐれすぎて困ってしまう。
「あの…」
口を開けてくださらないと食べさせられないのだけど。口をひき結んだ彼はふ、と笑ってみせた。何ですかもう。溶けてしまう。
「ぁ」
木さじを戻そうとしたけど遅かった。溶けた氷菓がべしゃりと手のひらに落ちて、腕をつたい袖を汚した。濡れた皮膚をぬるい風が撫でていく。
「こぼしたね」
「あなたの、せいで」
「僕のせいなの」
他に誰がいるの。わたしですか。
非難するような目でみれば、ふうんとわたしから木さじを奪った恭弥さんはそれを盃の上に乗せた。空いたわたしの手を引く。腰のあたりで空になった徳利がからんと転がる音がした。膝が当たって、恭弥さんを見上げる。熱をはらんだ瞳に見下ろされ、観念して目を閉じた。ふれた唇と舌のあついこと。
「ーー……ふ、ぁ」
口の中の甘さを奪われる。指を絡められた手に縋ると、手のひらの間でこぼした氷菓がべたつく感触がした。
「ん……お風呂、入らないんですか」
「野暮なこと言うね。この季節だ。そうそう冷めないよ」
氷は溶けるけどね、と手のひらを舐める恭弥さんは低い声で「あまい」と言う。そうでしょうね。
「お風呂に入ればいいのに」
「後でいい」
今度はもう片方の手でうなじを引き寄せられる。唇を重ねたまま髪留めが外されて、彼に身をゆだねることにした。
「……あつい」
「君の口の中はつめたい」
「さすがにもう冷たくはないでしょう」
「まだ少しつめたいよ。この辺りとか」
「ん…、そこは口の中じゃ、ひぁ」
喉に口付けられて、首をのけぞらせた。かくり。落ちかける頭を大きくて強い手がつかまえる。
「あ、の…ここで、ですか」
「今更だろう。誰も来ない」
「蚊が来ます」
「そのための蚊取り線香だ」
「もう虫の息ですよ、ぁ」
すっかり短くなってしまった蚊取り線香。これではすぐに切れてしまう。だから、せめて室内でとお願いしてみた。でも恭弥さんは「じゃあ早く終わらせないとね」と裾を開く。布地の間から見える自分の足が、暗闇の中白く浮いて見えてめまいがした。
汗ばんだ太ももをするすると撫でて、内腿を進んでいく指に気を取られていると、鎖骨の下に吸い付かれた。着物の合わせを噛まれて、しょうがなく自分で開く。もっと触ってほしいとせがんでいるみたい。実際そうだけれど。
「は、ぁ…ん、ん」
「なまえ」
足の付け根まで進んだ指が、湿って滑りの悪くなった下着の上から優しくなぞって、思わず唇を噛む。すると上を向かされて、咎めるように唇を舐められた。わたしを見下ろす灰色の目にな情欲に塗れた女が映っている。どちらからともなく唇を重ね、下着の横から入り込む指がもたらせる快感に期待して目を閉じた。
2020.06.23
ついったにあげてたもの
2020.07.24
追記
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