多分恋
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「わたし冨岡のこと好きかも知れない」
わたしが障子の和紙を眺めながらぽつりとこぼすと好き勝手な方向を見ていた同僚がバッとこちらを向いた。
「はァ?お前男の趣味悪すぎだろ」
「お前がどんな男を好きになろうが俺には関係ない。だが、冨岡はないだろ」
同じ年の同僚2人は呆れた顔をして冨岡を貶す。
今日は柱合会議で、最初に集まったのがわたしと不死川と伊黒だった。
「お前考え直せよ。他の男紹介してやるから」
「不死川にそんな紹介の当てがあるとは思えないんだけど、あんた友達とか居る?」
「うるせェ!こっちは親切で言ってやってんだぞ!!」
「認めたくはないが不死川と同意見だ。俺も他の男を紹介してやるから冨岡はやめておけ。せめて悲鳴嶼さんにしろ」
「あらあら、楽しそうですね。なんのお話ですか?」
「胡蝶!」
「コイツが冨岡のこと好きかもしれないとか言うから」
しのぶちゃんだ…。良く冨岡と組んで仕事してて冨岡とわりと仲良いし、もしかしたらデキてるかも。気まずい。
「あらぁ」
しのぶちゃんは口元に手を当てて目を見開いた。そしてとてつもなく可哀想なものを見る目でわたしを見た。
「どこか具合が悪いんですか?具体的には目が悪いとか?」
「ううん、しのぶちゃんのまつ毛の一本一本までバッチリ見える」
「では頭でしょうか?最近頭部を強打したりしませんでした?」
「してないよ」
「…冨岡さんを好きだなんてどうしてそう思ったんです?」
「冨岡を見てると、動悸がして体温が上がって…目眩がする」
「それ病気じゃありません?会議が終わったら蝶屋敷まで来てくださいね」
病気の心配をされてしまった。いや、でもしのぶちゃんのことだし実は冨岡のことが好きだから恋敵にはこっそり釘を刺しとこうとかそういうのかもしれない。
「しのぶちゃんこそ、冨岡を見てときめく事ない?」
「ありません」
ものすごくにこやかに答えられた。
「ありません」
念を押された。
「本当にありえません」
「うん、わかった。ごめん」
笑顔を近づけられて断言された。そこまで否定されると逆に怪しい。しのぶちゃんが恋敵だった場合敵う気がしない。美人で可愛いし賢いし物腰柔らかくて女の子らしいし人を支える才能がある。
「でも、しのぶちゃんってよく冨岡と組まされるでしょ?いい男だなって思ったりしない?」
「まっっっったく思いません」
「そっか…」
「なんだ?色男の話か?つまり俺か?」
「宇髄さん、お疲れ様です」
「こんにちは。違いますよ、なまえさんがとみっ」
「とみ?」
「富にあふれた男っていいよねって話です」
しのぶちゃんの口を塞いで適当に誤魔化した。宇髄さんに知られるのは若干面倒くさい。それにそろそろこの話題を打ち切らないと、冨岡本人の耳に入りかねない。
「お前…柱の給料でも物足りないのか?」
なんてわがままなやつだ、と宇髄さんに呆れられてしまった。だが、奥さんが3人もいる宇髄さんにわがままとか言われたくない。お給料には満足している。豪遊しない限り問題ない。お金はあればあるほど嬉しくはあるけど。
「ちげぇよ、なまえが冨岡のこと好きとか言うから」
なんで言っちゃうの?空気読んでよ不死川。
「お前、そんなに男に飢えてたのか…。俺の4人目の嫁になるか?」
「いえ、遠慮させていただきます」
「話は聞かせてもらった!」
「あちゃあ…煉獄くんも聞いちゃったか」
「よもや…」
煉獄くんが哀れむような眼差しで私を見る。だからなんでみんな可哀想なやつ扱いするの!
「わ、私も聞いちゃった…。きゃーっ!なまえさんってそうだったのね!!私、応援するわね!」
「蜜璃まで?え?ちょっと冨岡は聞いてないよね?来てないよね?大丈夫だよね?」
「冨岡はまだ来ていない」
「悲鳴嶼さん!と、時透くん」
いつものように数珠をじゃらじゃらさせた悲鳴嶼さんとその悲鳴嶼さんの影から時透くんが現れた。時透くんはこちらを興味なさげに一瞥して畳に座った。
「冨岡なら屋敷のそばで見かけた。猫と見つめあっていた」
「ぐぅっ…!」
「なまえ!?」
「なまえさん!!」
な、なんだそれかわいい。つい胸を押さえて畳に突っ伏してしまう。わたしも冨岡と見つめ合いたい。
「オイ!なまえ!!しっかりしろォ!正気に戻れ!」
「イタタ!わたしじゅうぶん正気だよ不死川!ちょっ、やめ」
肩を掴んで起き上がらせられたかと思ったらそのまま揺さぶられる。助けて!と伊黒を見たけど目を逸らされた。蜜璃以外には冷たいやつだ。
「うえ〜ん、しのぶちゃん。助けて」
「不死川さん、離してあげてください。柱合会議が終わったら私も蝶屋敷で説得しますから」
「俺も行く」
不死川はしのぶちゃんの一言でカッと目を見開いてピタリと止まった。うぇっ。揺すられすぎて気持ち悪い。
◇◆◇
「どうしたんだい?なまえ」
「えっ?」
お館様の言葉にわたしに注目が集まる。わたしはというと冨岡が現れた時からどうしても冨岡の方を見たくてたまらない。だからと言って見てしまうと動悸・赤面・目眩の症状に襲われる。そんな自分を押さえ付け正面を向き平静な顔を装っているつもりだった。動悸は全くおさまってないけど。
「なんだか、様子がおかしいみたいだから。何か悩みがあったら言うんだよ」
「お館様…ありがとうございます。なんてお優しい」
「うん。本日は以上。解散としよう。半年後も君たち全員と会えることを祈っているよ」
そうしてお館様は退出された。会議の途中関係ないことでお館様のお時間を頂いてしまったことと注目を浴びてしまったことに申し訳なさと恥ずかしさでお館様の消えた方向をぼうっと見ていたら、しのぶちゃんの手がそっと額に当てられる。
「熱がありますね…」
「えっうそ!」
「蝶屋敷でしっかり診察しますから、すぐいらしてください。歩けますか?」
「うん、大丈夫っ」
そう言って立ち上がると立ちくらみがした。持ち前の運動神経で耐えたけど。
「誰かに運んでもらった方が良さそうですね」
「え、いいよ。大丈夫歩ける」
「冨岡さーん!」
「ちょっ、しのぶちゃーん!」
やめて待ってちょっとそこは別の人に…ああでも冨岡に運ばれるの悪くないな。
「冨岡さんこの後暇ですよね」
「………」
「冨岡さーん。聞こえてますか?なまえさん、体調が悪いみたいなので蝶屋敷まで運んで差し上げてください」
「胡蝶、冨岡の野郎じゃなくて俺が運ぶ。どうせ俺も行くからなァ」
「不死川さんは無駄に揺らしそうなのでダメです」
「なんだと!」
不死川としのぶちゃんが口喧嘩を始めてしまった。しのぶちゃんに勝てるわけないんだから不死川もやめとけばいいものを。
冨岡はそんな2人を横目で見てこちらへ近づいてくる。そして私に背を向けて屈んだ。
「乗れ」
はわ。
◇◆◇
冨岡の背に負われて蝶屋敷へ向かう。大人しく背負われて冨岡の首元に頰を寄せた。当たり前だけど冨岡の匂いがする。がっしりした暖かい背中に乗せられてどきどきする。あんまり揺らさないように移動してくれているのも優しさを感じて幸せな気持ちになる。
「(はぁ、すき)」
本当にどきどきする。目眩もする。世界が回っていてしあわせ…。
「(本当に具合が悪そうだな)」
背に負ったなまえの俺の首に掴まっていた手から力が抜け、重みが増した。首に寄せられた頰が熱い。
「胡蝶」
「はい?」
「なまえが気絶したようだ」
「えっ!?あらまぁ」
「急ぐぞ」
「冨岡お前指図すんな」
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