憂鬱な朝も吹き飛ぶ
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ちょっぴり寝坊をしてしまった。なんだかふわふわした良い気持ちで朝の身支度もやる気が出ない。起き上がりもせずに天蓋を見つめる。
「おはようございます。お嬢様」
わたしの様子を見にきたメイドがまだ部屋着姿のわたしを見て目を見開く。お加減がよろしくないのですか?お休みされますか?心配かけてごめんね。元気だよ。
メイドに手伝ってもらって制服に着替える。名のある家の娘しか通えない私立白桜学園の制服はセーラーカラーもスカートも白いセーラー服だ。ちなみにカラーとスカートの裏地は紫色。
「髪型はどうされますか?」
「毛先ワンカールで」
「かしこまりました」
メイドがコテの電源を入れて、櫛とドライヤーを持った。髪型を整えてくれる様子を鏡越しにに見ながら、なんとなく気持ちが上がらないでいた。
身支度を整え終わり、朝食を取りに向かう途中兄とすれ違った。
「寝坊か?」
「ちょっとだけ寝過ごしちゃった」
「夜更かしするなよ」
兄は小言を言って去って行く。多分もう兄は高校に向かうんだろう。
今日の朝食はエッグベネディクト。気分じゃない、パス。
「パンケーキがいいわ。バニラとチョコレートのアイスが乗ってるやつ」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
朝食を変更なんてしたら遅刻確定コースだけれど、好きなものをゆっくり食べたい欲を優先した。
「今日は遅れるってじいじに伝えといて」
わたしのじいじ、祖父は学園の理事長だ。じいじに言っておけば必要な人に伝わる。
「ごめんよ、なまえ。じいじも今日遅刻なんだ」
祖父はおはようと挨拶してテーブルについた。ええ、どうしよう。
「校長にラインしとこうね」
ラインでいいんだ。知ってたけど緩いなあうちの学園。
「今日はどうしたんだい?あんまり学校行きたそうじゃないね」
そうだわたし、あんまり学校行きたくないんだ。学校嫌いなわけじゃないけど。好きでもないし。制服は好きだけれど。
「うん…」
じいじは鋭いなぁ。
「なんかね、お友達に会うのが面倒に感じちゃって」
「おやおや」
「なんだろう、他人が煩わしく感じるの。変かなぁ。お友達のこと嫌いなわけじゃないのよ」
「うーん。お天気がいいから薔薇園でじいじとお茶してお話ししようか。今日はテストも無いだろう」
パンケーキを食べて、薔薇園に移動する。お茶とお菓子はもう用意されていた。フィナンシェ、カヌレ、フルーツのタルト、マカロン、クッキー、フライドポテトまである。
クッキーに手を伸ばした。
「お友達と何かあったわけではないんだよね?」
「うん」
「他人が煩わしい時もある。みんなと無理に仲良くしなくてもいいし、学校に行かなくてもいい。じいじはねなまえが楽しく生きてくれればそれでいいよ」
「うん…」
「なまえには学校に行かなくても一生離れないでくれる人がもういるしね」
「うん?」
誰のことだろう。じいじはにっこり微笑んだ。
「そろそろ来る頃じゃないかな」
「君、何してんの」
「恭弥くん!?」
じいじが密かに呼び出していたのは懇意にしているお家の恭弥くんだった。
黒髪に艶やかで涼しい目元の彼は機嫌良さげに笑っている。
「やあ」
「どうしてうちに?学校は?」
「君がそれ言うかい?」
「う…」
「僕は授業に出なくても問題ないからね、中抜けしてきたんだ」
じゃあ、と恭弥くんはじいじを見た。じいじは更ににっこり。
「ほら、行くよ」
「えっ待って」
恭弥くんに手を取られて温室を後にした。振り返るとじいじが微笑んだまま手を振っていた。
学校用の鞄を持って恭弥くんについて行く。玄関前に停められていたのは恭弥くん愛用のバイクだった。
「学校行くよ」
鞄を奪われてヘルメットを渡される。大人しくかぶると腰を掴まれてバイクに乗せられた。力強さにきゅんとくる。
「捕まって」
「…うん」
恭弥くんの腰に捕まって背中に身体を寄せる。恭弥くんはノーヘルのまま発進した。ずるいわたしもヘルメットなしで風を感じたい。
いつも車で通学する道もバイクで通ると全然違うものに見えた。海ってこんなに綺麗だったかな。
涼しい風を感じながら、恭弥くんの体温が心地よかった。
信号で止まるたびに恭弥くんに掴まる力を少し強めると彼は振り返ってわたしを見る。怒るかな?って思ったけど全然そんなことなかった。優しい表情でわたしを見る。
細いけれどしっかりした恭弥くんの広い背中にもうちょっとくっついていたかったのに。もう学園についてしまった。校門前でバイクから降ろされる。
ヘルメットを脱ぐのに手間取っていたら、恭弥くんが上からゆっくり外してくれた。
「高校は並盛にすればいいのに」
そうしたら僕がいろいろ融通してあげるのに、と言いながら恭弥くんはヘルメットを脱ぐ時に引っかかって浮いてしまった髪を直してくれた。そしてそのまま頭を撫でるように髪を梳く。
「並校だったら毎日一緒に登校できる?」
「君が早起きするなら毎朝迎えに行くよ」
早起きはつらいなあ。恭弥くんが髪を梳いてくれていた手でわたしの背中を押す。
「ほら、行っておいで」
「行ってきます」
教室に入るとちょうど休憩時間で、友人達が凄い勢いで寄ってきた。
「さっきのバイクの彼はだれ?」
「恋人?」
「まさか朝帰りして遅刻したの?」
「…そんなわけないでしょ。うちに迎えにきてくれて送ってくれたの」
女子校の校門に男の子が現れたときの恒例行事だ。彼氏?お兄様?紹介して!彼氏じゃないけどいやよ。だって彼はわたしの大事な人だもの。
彼が雲雀恭弥だと言うと皆は一瞬固まった。
「あれが雲雀家の…」
「すごく乱暴な人だって聞いたけれど」
「なまえには優しそうだった」
「ちょっと素敵じゃない?」
「ちょっとじゃないわ。とっても格好良かった」
そうよ恭弥くんって格好いいのよ。皆が口々に彼を褒めるのを聞いてそうでしょうそうでしょうと自慢げな気持ちになる。
ごめんね、恭弥くん。こうやって皆が恭弥くんを褒めるのが気持ちいいから高校も並盛には行かないわ。でもまた今日みたいにわたしを校門まで送って欲しいし、いつか放課後迎えに来て。制服でデートしましょ。
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