naked kiss
『っ…はぁ…』
いつも同じ夢を見る。
ベッドの上で零と2人。
頬を紅潮させて喘ぐ零の首筋に僕は顔を埋める。
背中に爪を立てられる感覚も、しっとりと濡れた肌の感触も妙にリアルだ。
『零。』
零がどんな表情をしているのか見たくて、僕は顔を上げる。
「………」
同時に綴じられていた瞼が開いて、そこで夢はおしまい。
起き抜けのぼんやりとした意識の中で、牧生は真っ白な天井を視界に捉える。
周囲を覆うベージュのカーテンが、窓から射し込む光を和らげながら小さく揺れていた。
(今、何時だろ…)
軽い目眩に襲われ、保健室で休んでいたらいつの間にか眠ってしまった。
カーテン越しに人の気配は感じられない。
無機質な部屋の中で何とも言えない寂しさに襲われる。
「すー…すー…」
(ん?)
ふいに小さな寝息が耳に入り込んでくる。
意識がはっきりした今だからこそようやく気がついた。
(でも、どこか…)
「!?」
叫びそうになる声を両手でグッと抑えつけ、牧生は天井を凝視する。
同じベッドの上、横目に入った左側の状況が理解出来ず頭の中がパニックになる。
(な、なんで零がいるの?)
身体を硬直させ、ただでさえ狭いベッドでさらに身動きが取れなくなる。
零は牧生の方に身体を傾け、横向きにまるまって眠っていた。
肩の近くに見える触れそうで触れない零の指先。
1㎝も満たない、2人の距離。
高まる鼓動を深呼吸で落ち着かせ、牧生は零と向き合うようにそっと身体を傾けた。
(キレイ…)
牧生はまじまじと零を見つめる。
長いまつげ、整った鼻筋、小さな唇。
なだらかな肌質や細い身体つきは淑やかな女性のように見えた。
(零がこんなに華奢だったなんて気づかなかった。)
大きく華やかで絶対的な存在の零は、過呼吸で倒れたあの日、抱き寄せた牧生の腕の中に収まっていた。
夢を見るようになったのはそこから。
今にも起き出すかもしれない緊張感の中で、募る想いは誘惑に勝てず牧生は手を伸ばす。
頬を包み込むように手を添えて、半開きになっている唇を親指でゆっくりとなぞっていく。
生温かい息がふわりと指にかかる度、身体の内側がゾクゾクと震える。
(何だろ…この気持ち…)
牧生は零の背中に腕を回して身体を引き寄せると、頬に触れていた手で顎を持ち上げる。
「ん…」
そっと触れるように零の唇に自らの唇を重ねていく。
人口呼吸と分かっていても忘れられなかった、しっとりと柔かな唇の感触。
力が抜けるような甘く心地の良い感覚が全身を支配していた。
(零……)
唇の隙間から覗く歯列を割って、牧生は舌を滑り込ませる。
「っ……!」
ねっとりと絡みつく熱い舌の感触に、眠っている零の身体がピクリと反応を示した。
「……ちゅ…ん、ふぅ…ちゅむ……はぁ、うん…むむむ…」
貪るように口内を掻き回し、角度を変えて何度もキスを繰り返す。
その度に、零の背中は弓なりに仰け反り牧生に押しつけるように体が密着する。
力の入らない指が牧生の胸元を必死に掴む仕草が可愛くて、堪らず零を強く抱き締めた。
(早く起きて…じゃないと、僕…)
心の奥底で秘めた感情がふつふつと沸き上がり、徐々に加速していく。
キスで唇を塞いだまま牧生は零の体をベッドへ押し倒すと、腰元からゆるゆるとシャツの中に手を忍ばせ始めた。
「っ!?」
一瞬にして、天地がひっくり返るとはこの事だろうか。
視界が反転し、牧生は仰向けにベッドへ押しつけられる。
顔の真横にある細い腕を天井に向かい辿っていくと、冷たく光る視線とぶつかり思わず息を飲んだ。
放たれる危うさと艶を纏ったオーラは、初めて出会った時の零そのものだった。
「れ…」
「って、お前か!!」
馬乗りの状態で悔しそうに叫ぶ零のギャップに、牧生は豆鉄砲をくらったようにきょとんとなる。
零は頭をクシャクシャと掻きむしりながらあくびをすると、そのまま牧生の横に寝転がりブツブツと文句をいい始める。
「くそっ…俺、てっきり…」
「てっきり?」
「何でもねぇ。それより、お前なんで俺にキスしたんだ?」
「え、あの、……死んだように眠ってたから心配になって(嘘)みたいな。」
「は?また人口呼吸?」
「ごめん…」
「あ~~男相手に感じたとかマジねぇわ。」
納得いかず不機嫌な態度を見せる零は、牧生に背を向けるように寝返りを打つ。
牧生は拗ねた小さな背中を見つめ、恐る恐る問いかけた。
「したの、覚えてる?」
「お前、腹立つくらい上手すぎるんだよ。」
その言葉に、牧生の視線が揺れ動く。
『おい、牧生。お前が俺に人口呼吸したのか?』
『気づいてなかったの?』
『気づいてねぇよ。お前、こっちは死にそうだったんだよ。』
無意識に綻ぶ口元を慌てて袖で隠すのがやっとだった。
「…そう。」
「なに?」
「別に。そう言えば、何で隣にいたの?」
「今日、キラ風邪で休みだろ。会いに行くってメールしたらサボったらダメって断られてさ。つまんねーから、お前の見舞いついでに寝に来た。」
「あぁ、成る程。」
牧生はおもむろに零の体にきゅっと身を寄せその背中に顔を埋めると、長く細い指に自分の指を絡ませた。
「来てくれてありがとう。」
「誤解されるからあんまりくっつくな。」
言葉とは裏腹に、やれやれと小さくため息をついて零は牧生を受け入れる。
「バイトの時間まで体力温存しておくか~…」
午後の授業開始のチャイムが鳴る頃には、背中越しに再び小さな寝息が聞こえ始めた。
牧生は寝起きに見せた零の一瞬の表情を思い出す。
僕の好きな零。
僕が求める零。
寝ても覚めても探し続けていた。
君は今も眠っている。
僕が必ず目覚めさせてあげるから。
――君を、誰にも渡さない。――
end.
いつも同じ夢を見る。
ベッドの上で零と2人。
頬を紅潮させて喘ぐ零の首筋に僕は顔を埋める。
背中に爪を立てられる感覚も、しっとりと濡れた肌の感触も妙にリアルだ。
『零。』
零がどんな表情をしているのか見たくて、僕は顔を上げる。
「………」
同時に綴じられていた瞼が開いて、そこで夢はおしまい。
起き抜けのぼんやりとした意識の中で、牧生は真っ白な天井を視界に捉える。
周囲を覆うベージュのカーテンが、窓から射し込む光を和らげながら小さく揺れていた。
(今、何時だろ…)
軽い目眩に襲われ、保健室で休んでいたらいつの間にか眠ってしまった。
カーテン越しに人の気配は感じられない。
無機質な部屋の中で何とも言えない寂しさに襲われる。
「すー…すー…」
(ん?)
ふいに小さな寝息が耳に入り込んでくる。
意識がはっきりした今だからこそようやく気がついた。
(でも、どこか…)
「!?」
叫びそうになる声を両手でグッと抑えつけ、牧生は天井を凝視する。
同じベッドの上、横目に入った左側の状況が理解出来ず頭の中がパニックになる。
(な、なんで零がいるの?)
身体を硬直させ、ただでさえ狭いベッドでさらに身動きが取れなくなる。
零は牧生の方に身体を傾け、横向きにまるまって眠っていた。
肩の近くに見える触れそうで触れない零の指先。
1㎝も満たない、2人の距離。
高まる鼓動を深呼吸で落ち着かせ、牧生は零と向き合うようにそっと身体を傾けた。
(キレイ…)
牧生はまじまじと零を見つめる。
長いまつげ、整った鼻筋、小さな唇。
なだらかな肌質や細い身体つきは淑やかな女性のように見えた。
(零がこんなに華奢だったなんて気づかなかった。)
大きく華やかで絶対的な存在の零は、過呼吸で倒れたあの日、抱き寄せた牧生の腕の中に収まっていた。
夢を見るようになったのはそこから。
今にも起き出すかもしれない緊張感の中で、募る想いは誘惑に勝てず牧生は手を伸ばす。
頬を包み込むように手を添えて、半開きになっている唇を親指でゆっくりとなぞっていく。
生温かい息がふわりと指にかかる度、身体の内側がゾクゾクと震える。
(何だろ…この気持ち…)
牧生は零の背中に腕を回して身体を引き寄せると、頬に触れていた手で顎を持ち上げる。
「ん…」
そっと触れるように零の唇に自らの唇を重ねていく。
人口呼吸と分かっていても忘れられなかった、しっとりと柔かな唇の感触。
力が抜けるような甘く心地の良い感覚が全身を支配していた。
(零……)
唇の隙間から覗く歯列を割って、牧生は舌を滑り込ませる。
「っ……!」
ねっとりと絡みつく熱い舌の感触に、眠っている零の身体がピクリと反応を示した。
「……ちゅ…ん、ふぅ…ちゅむ……はぁ、うん…むむむ…」
貪るように口内を掻き回し、角度を変えて何度もキスを繰り返す。
その度に、零の背中は弓なりに仰け反り牧生に押しつけるように体が密着する。
力の入らない指が牧生の胸元を必死に掴む仕草が可愛くて、堪らず零を強く抱き締めた。
(早く起きて…じゃないと、僕…)
心の奥底で秘めた感情がふつふつと沸き上がり、徐々に加速していく。
キスで唇を塞いだまま牧生は零の体をベッドへ押し倒すと、腰元からゆるゆるとシャツの中に手を忍ばせ始めた。
「っ!?」
一瞬にして、天地がひっくり返るとはこの事だろうか。
視界が反転し、牧生は仰向けにベッドへ押しつけられる。
顔の真横にある細い腕を天井に向かい辿っていくと、冷たく光る視線とぶつかり思わず息を飲んだ。
放たれる危うさと艶を纏ったオーラは、初めて出会った時の零そのものだった。
「れ…」
「って、お前か!!」
馬乗りの状態で悔しそうに叫ぶ零のギャップに、牧生は豆鉄砲をくらったようにきょとんとなる。
零は頭をクシャクシャと掻きむしりながらあくびをすると、そのまま牧生の横に寝転がりブツブツと文句をいい始める。
「くそっ…俺、てっきり…」
「てっきり?」
「何でもねぇ。それより、お前なんで俺にキスしたんだ?」
「え、あの、……死んだように眠ってたから心配になって(嘘)みたいな。」
「は?また人口呼吸?」
「ごめん…」
「あ~~男相手に感じたとかマジねぇわ。」
納得いかず不機嫌な態度を見せる零は、牧生に背を向けるように寝返りを打つ。
牧生は拗ねた小さな背中を見つめ、恐る恐る問いかけた。
「したの、覚えてる?」
「お前、腹立つくらい上手すぎるんだよ。」
その言葉に、牧生の視線が揺れ動く。
『おい、牧生。お前が俺に人口呼吸したのか?』
『気づいてなかったの?』
『気づいてねぇよ。お前、こっちは死にそうだったんだよ。』
無意識に綻ぶ口元を慌てて袖で隠すのがやっとだった。
「…そう。」
「なに?」
「別に。そう言えば、何で隣にいたの?」
「今日、キラ風邪で休みだろ。会いに行くってメールしたらサボったらダメって断られてさ。つまんねーから、お前の見舞いついでに寝に来た。」
「あぁ、成る程。」
牧生はおもむろに零の体にきゅっと身を寄せその背中に顔を埋めると、長く細い指に自分の指を絡ませた。
「来てくれてありがとう。」
「誤解されるからあんまりくっつくな。」
言葉とは裏腹に、やれやれと小さくため息をついて零は牧生を受け入れる。
「バイトの時間まで体力温存しておくか~…」
午後の授業開始のチャイムが鳴る頃には、背中越しに再び小さな寝息が聞こえ始めた。
牧生は寝起きに見せた零の一瞬の表情を思い出す。
僕の好きな零。
僕が求める零。
寝ても覚めても探し続けていた。
君は今も眠っている。
僕が必ず目覚めさせてあげるから。
――君を、誰にも渡さない。――
end.
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