SnowWhiteHoney

「……やられた」
リヴァイは眉根に深い皺を寄せ、小さく舌打ちする。
「何イラついてんのよリヴァイ、ただのイベントじゃな~い☆」
ケラケラと笑うハンジの言葉に、リヴァイはさらに苛々を募らせる。
「そう言えば、てめぇ昨日のポルターアーベントでクソみたいな機械を持ってきてたな」
「あの自動皿投げ機は最高傑作だね~☆全ての不幸は消え去り、2人を隔てる障害は、もう何もない……っっっ!!!」
「バッティングの練習じゃねぇぞ」
人類最強の蹴りをひらりとかわし、ハンジはスキップしてエルヴィンの背後にまわると、ふふふ☆とほくそ笑む。
「チッ…」
「あれは豪快で悲惨な皿割りだったな、お前の神経質な片付けにつき合わされてエレンが不憫だったが…」
「ふざけるな、新築に何て事しやがる」
目の前にある新築一戸建てのドアには、無惨に割れた皿の傷やヘコミの跡がしっかりと残っていた。
「リヴァイ、東洋に存在していた『日本』という国は繊細で潔癖なお前の性格にマッチしていたと思う、……生まれた場所が悪かったな」
気の利いた言葉も思い浮かばず、ただただ苦笑いを浮かべるしかないエルヴィン。
リヴァイは小さく溜め息をつくと、気持ちを切り替えたのかエルヴィンを問い詰め始めた。
「エルヴィン、エレンをどこへやった」
質問の意図に気づき、エルヴィンは目を細める。
「何の話だ?」
「この俺の目を潜って、あいつを誘拐出来るのはお前ぐらいだ」
「花嫁を見つけるのがお前の仕事だろう?私に聞く前に、早く探しに行きなさい」
隙を見せない優しい微笑みに、リヴァイは舌打ちをする。
「1つだけヒントをあげよう、エレンを隠した場所は……」
「あいつが行きたがる場所くらい、言われなくても分かってる」
リヴァイはポツリと呟くと、エルヴィンとハンジに背を向けツカツカと歩き出した。
「早くしないと、日が暮れて花嫁が風邪を引いてしまうよ」
「行ってらっしゃーい☆」
風習にも従順なリヴァイが可愛くて仕方なく、2人は目を合わせてクスクスと微笑った。
「やはり、ここか」
旧調査兵団本部。
エレンと過ごした懐かしい古城の最上階で、ベッドに横たわり小さな寝息をたてる花嫁がそこにいた。
「無防備な顔して寝てやがる、……魔女に狙われたらどうするんだ」
エレンの眠るベッドの横に立ち、片膝をつける。
右手薬指に光る永遠を示す銀色のリングを見つけ、リヴァイはその手に触れた。
「ん……へいちょ…」
突然名前を呼ばれ、リヴァイは一瞬ドキッとする。
再びスースーと聞こえてきた寝息に、思わず顔が綻んだ。
「……さっさと起きろ」
幼く柔らかいエレンの口唇に、優しいキスを落とす。
「ん……」
程なくして、エレンの長い睫毛がゆっくりと立ち上がり始めた。
「よう」
夢現でぼんやりとした意識は、愛する人を瞳に宿し、低く静かな声に引き寄せられる。
「!?うわわわ兵長っっ!!!」
鼻先でじっと見据えるリヴァイの漆黒の瞳に、エレンは顔を真っ赤にして慌て蓋めく。
そんなエレンの様子に、リヴァイはやれやれと溜め息をついた。
「わざわざ迎えに来てやってるのに、お姫様は眠ってりゃ良いんだから楽な身分だよな」
「え?姫?」
エレンは上半身を起こしながら、きょとんとした目をリヴァイに向ける。
「エレン、知ってるか?ここの古城は、中世ヨーロッパのアルカサルをモデルに建築されているんだ」
「アルカサル?」
「白雪姫のモデルになった城だ」
「へ~ロマンチックですね!」
キラキラと目を輝かせるエレンの口唇に、リヴァイはそっと人さし指を押し当てた。
「白雪姫は王子のキスで目覚める、……だろ?」
「…っ…!!」
夢だと思っていた甘い記憶は、リヴァイの微笑みで現実のものとなり、エレンの頬を桜色に染めた。
恥ずかしそうに俯くエレンを横目に、リヴァイはおもむろに立ち上がる。
バルコニーから見える雄大な景色に目を細めた。
「お前が、エルヴィン達に頼んだそうだな」
リヴァイの言葉に反応し、エレンは哀しそうに微笑んだ。
「はい、どうしてもここへ来たくて….」
4人の優しい笑顔が脳裏に浮ぶ。
「………グンタさん、エルドさん、オルオさん、ペトラさん、……ただいま」
最上階から見える古城の外観と地平線の彼方まで広がる森を目の前にし、懐かしさと切なさで胸の奥が締めつけられた。
エレンを横目で見下ろしながら、リヴァイはポツリと呟く。
「….…泣かないんだな」
「泣かないって、決めたんです」
再びリヴァイを見上げにっこりと微笑んだエレンの瞳に、もう迷いはなかった。
「お前にしては、上出来だ」
エレンの頭に手を添え、リヴァイは優しく髪を撫でた。
その時、
「エーレーン!!」
「兵長ーー!!!」
遠くの方から聞こえてきた自分の名前を呼ぶ声に、エレンは思わずキョロキョロと部屋を見渡す。
ドアの向こうが俄かに騒がしい。
「ハンジさん…?アルミン…?え?え?」
「ようやく宴の準備が出来たようだな」
「兵長…?」
「小人どもがお待ちかねだ」
「うわぁああっ!!!」
動揺するエレンをよそに、リヴァイは軽々とエレンをお姫様抱っこする。
「へ、へいちょ、降ろして下さい~~っっ!!!」
「こういうのも、たまには良いだろう」
顔を真っ赤にしながら腕の中で暴れ回りムードをぶち壊すエレンに対し、リヴァイは小さく舌打ちをする。
「エレン」
「は、はい!…ひゃっ…!」
不意におでこにキスをされ、エレンは恥ずかしさのあまりあっという間に大人しくなった。
「エレン」
「は、はい…」
「愛してる」
愛しい人の腕の温もりを感じて、エレンの胸の奥がじんわりと温かくなる。
「俺もです、兵長」
エレンはリヴァイの胸に頬を寄せ、その優しく穏やかな余韻に目を閉じた。
どこからともなく1枚の小さな白い羽根が、寄り添うようにエレンの肩に舞い落ちた。

end.
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