岩男腐向け短編まとめ

(凍原独楽)
片想い相手のことで片っ端から電話相談するツンドラ集。タップは終始不在です。だいたいギャグ。


聞いてよ彼が世界で一番



(プルルル……)





 聞いてよヒューズ。彼ったら本当に困ったひと!

 異国のスケートリンクで出会ったんだ。彼の素性を何も知らなかった。名前を聞き出すだけでどれだけ時間がかかったか! 顔もね、最初はオーバーコートを着ていてよく見えなかった。ファー付きのフードに隠れてて。いや、隠してて?
 色々あったけど、ようやく約束できるまでになったのに……。

 とにかく遠いのさ。ぼくは本業で極地にいて、いまは夢のために世界のあちこちを飛び回ることもある。……世界を巡っているのは、ある意味彼も同じかな。
 スケジュールが合わないんだよ。本当に! ありえないくらい!
 それだけで寂しいってのに、彼はどんどん会う時間を減らそうとしている!

 わかるさ! 完全に善意だ! ああ知ってる!

 ……自分でも思うよ。ぼくって結構、無茶苦茶かも。
 ぜんぶ叶えたくなっちゃうんだ。そして全部叶えられちゃう。技術と才能と努力の結晶、ぼくだからできるし、その力を存分に使いたくなっちゃう。

 彼はそんなぼくにずっと怯えてる。ぼくがいつか彼に飽きるんじゃないかって。こんな熱意があるのは最初だけで、無茶は長続きしなくって、そのうち疲れて諦めるんじゃないかと本気で考えているんだよ。
 困った。本当に困る。善意だろうが完全に見くびられているね。

 ねえ、イポーニャ(日本)に星のお祭りってあるでしょう。夏の……ああ、そうそれ。七夕。キタイ(中国)発祥だったっけ。
 そんなふうになっちゃったらどうしよう。足りないよ。全然、もっと彼のこと、たくさん……。





 聞いてよアシッド。彼って本当に臆病なんだ。

 ぼくが怖いもの知らずすぎるって? ……そうかも。だってこの高鳴りをどうやって無視しろっていうの? 恐怖のために憧れを止めるだなんて勿体ないじゃないか。
 ギアの影響じゃないってば。ずっと考えていたんだ。改造を始めてから、昔っから、ずうっと! このぼくが……美しいぼくの才能が、人気のない氷の中に閉じ込められっぱなしだなんて、とんでもない損失だろう?

 彼だってそうさ。あんなに美しいひとが悪のロボットだって? 誰が彼のスピンにブーイングを浴びせられると言うんだい。ぼくの認めた彼が、彼自身を良しとしないでいる。そんなのあんまりだと思わない?
 本当は引きずってでも一緒に舞台に立ちたいくらいさ。……そんなことじゃ彼の美しさは引き出せないけど。
 彼の一番の魅力は、ダンスを楽しむ才能といっても過言じゃないんだから。ちょっと調子が良すぎる性格だって最高級のハーブだ。

 なのに、あんな楽しげな顔しているのに、次に考えているのは明日の任務のこととか、ぼくといるときにはあと何回で会えなくなるだろうかとか、きっとそんなことばかりだ。彼の少し曇った横顔、あれで隠せているつもりなのかな?
 でもね。そういうとこともかわいらしくって、大好きで……。

 アシッド? ちょ、ちょっと、待って待ってまだ切らな──。





 聞いてよラバー! 彼ってばぼくのことずうっと子供扱いするんだから!

 そりゃあ知ってるよ。実際ぼくと彼は製造年がXつも離れているし、おまけに用途も経歴も全然違う。分かってるよ……。
 でもやっぱり納得いかない! ぼくだってずっと北極で仕事してきたんだよ!? 危険な調査だってあったし、最近はアイスダンスの公式大会にも出てる! それを彼は……!

 ……分かってるよ。彼、ご兄弟のことが大好きなんだもの。弟が3機もいる。後輩だってたくさんだ。煽られてるだけじゃなくて、彼の素の癖が混ざっているんだろう。知ってるけど……。
 本当はもっと対等なところにいたいんだ。恋人でも好敵手でも良いけど、彼がそう思おうとしてくれてるって、そうさ、理解っているのに……。

 どうしたら本気になってくれるかな。ぼくはずっと本気だって、どうしても伝えたいんだ。

 ……あの、きみまで子供扱いしないでくれない? ほぼ同期じゃんぼくら。こら、ねえ、ちょっと……頭を撫でないで! 刺さるでしょ飾りが!
 そこで笑わないでくれないか!?





 ……聞いてくれる? 彼のことが好きなんだ。うん。そうだよ。愛してるんだ。

 もう何度も気持ちは伝えてる。あとは彼次第さ。……いつか絶対にうなずかせてみせる。もう彼以外は考えられないよ。
 あとひと押しだと思うのだけど。……勘違いでなければね。

 博士にはまだ相談したことがないんだ。兄さんたちにも。秘密にしてもらえるとうれしいな。
 あ、いや、スカルにはバレてるかも。誘拐の件から結構話すようになって。意外と変化に聡いでしょう。でも相手のことまでは分からないはずだよ。
 そこまでバレてたら? うーん、すごくまずいよね。ぼくも彼も。……今度こそ勘当かも。そしたら彼のところで働いちゃおうかな。
 ウソ、冗談。魅力的な妄想ではあるけどさ。

 そっちはどう? 研究は順調? ……よかった。お友達の話もまた聞かせてほしいな。
 そういえば卒業後はうちの勤めになるの? ……研修は外部へ? 本当に? じゃあそれ次第か。
 博士に反対されたんじゃないかい。うん。……やっぱり。押し切っちゃうところがすごいところだけれど、ふふ!

 応援するよ。体にだけは気をつけて。お願い。

 ……そろそろ通信を切るね。
 おやすみお嬢様。今夜はいい夢になるよ。このぼくが保証しよう。





 助けてトーチ! 彼は……いや違う! ぼくが! 彼を見くびっていた!

 全部手加減だったんだ。ずっと他所行きの彼だった。ぼくは知っているようで見落としていた。
 彼は身内に甘いんだよ。……ぼくは確かに彼に身内扱いされている! ようやく! 本気を知ることができた!
 ……彼は……スピードギアを持っていないんだよね? パワーギアも? 信じられなくなってきた。

 本気の愛情と本気の熱意──殺意かもな──いっぺんに向けられているんだ。あんな強烈な目線で見抜かれてしまったら……嗚呼!
 良い変化だよ。全く良い。良すぎて困っている。

 このままだとぼくは近い将来狂って、真夜中に絶叫しながら外に飛び出して、最後にはハスキー犬とかになっちゃうかもね。とっても美しい毛並みの。
 すごい困る。犬になったら彼と踊れないもの。

 え? なに? 滝行……? 確かにきみそんな話してたね……うん、うん……。……ヒューズに? ……ああ、なるほどね? スクランブルサンダー……。
 それだよトーチ。名案だ!
 一発かましてもらってくる! ありがとう! また今度遊ぼう、電流で頭が冴えたらまた連絡するから、食べたいもの決めておいて! ぼくの奢りってことで!





(ツー、ツー、ツー……)
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