岩男腐向け短編まとめ

(加速陰)
お疲れ気味のシェードと、肝心なところは言い逃さないターボの話。過去作『悪癖ヴァンパイア』とうっすら繋がっています。


周波数はそのままで


 談話室のソファ、端にちょこんと男が座っている。いつもはひらり広々伸びる蝙蝠の羽が、いまは彼を守る盾のように畳まれきって、さながら安心毛布だった。

「随分コンパクトになっているな」

 ターボは男のすぐ横に腰を下ろす。重みで沈んだ座席につられ、男──シェードの身体は簡単に傾く。争うことなくそのままターボの方へ凭れた。

「場所を取らないスリム設計です」
「邪魔な時は隙間に収納?」
「使い勝手が良いでしょう」
「はあ、邪魔な時なんかないがね」
「…………」

 ターボは大きな掌でわしわしとシェードの頭部を撫でた。
 セブンスに長身大柄なロボットが多いことは否定しないが、スペースに困るほど実家(うち)が狭いわけでもない。そして普段は自信過剰な(とりわけ歌のことに関して譲らない)シェードがこうなっているのであれば、ふむ、事態はほど悪く深刻と見える。

 しかし談話室にいるだけ良かった。この男ときたら印象操作がうまいのだから、自室に篭られてしまえば気づくことさえできないのだ。
 以前に彼へ『許可』を与えたことがプラスに働いたようだった(“吸血鬼は許可なく他者の領域に入ることができない”。そういう習性なのだ。彼は誤って自身の性質にそれを組み込でしまった)。

「あまり根詰めすぎるな。ただでさえお前の仕事量は異常だ」
「あなたが言うんですか?」
「おれは仕事を選んでる」
「そう……」

 ラジオが流す音楽は彼ら好みでなかったが、穏やかな空間に似合ってゆったりと進行している。パーソナリティ・ロボットの小気味よいトークは、けれども耳に引っかからず滑り落ちていく。

「……ああ、いや、言い方が悪かった。皆が仕事を選べているのはお前のおかげだよ。感謝してる……いなくなられては、困る」

 事実である。ターボがレースで稼いだ賞金の管理も、燃費の悪いために時間のかかる整備やメンテに関連した書類事務だってシェードの仕事だ。元商業用のアドバンテージである。とにもかくにも助けられっぱなしだ。

 言えば、シェードはようやくフと笑って、更に体重をかけた。くるりと尻尾が引き寄せるように巻き付いて甘えだす。

「もう、揃いも揃って自由人なんですから……わたしがいなかったら、うちの業務はどうなってることやら」
「本当にな」
「優秀なわたしがしーっかりサポートしてあげますから、ちゃんと稼いできてくださいね。うちの稼ぎ頭さん」

 わずかに機嫌を取り戻したシェードが、ラジオミュージックに合わせて音痴な鼻歌を遊みだす(これでも昔よりは上手くなった)。
 畳まれた羽が開くにはまだ当分時間がかかりそうである。その綻びを見届けるまでは良いだろうと休息にふける。撫で続ける手はそのまま、周波数もそのままに。
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