岩男腐向け短編まとめ

(加速陰)
吸血鬼の伝承に影響を受けているシェードの話。ふんわりほのぼの。


悪癖ヴァンパイア


 奇妙な男だと思っていたが、実際奇妙なことをしていると殊更気にかかるというものである。

 ひとつ上の兄、シェードマンが床にしゃがみ込んで念仏のようになにか唱え続けている。いつもの慇懃無礼な笑顔はなく、俯き、うつろな目のままにゆらゆらと指先を床に向けて……ネジだ。ネジを見つめていた。

「何をしている?」

 尋ねてから、すぐそばのプラスチックケースに気がついた。ビーズやピアスをしまうような細かい仕切りつきのケースだ。これの中にネジがしまわれていて、落とした拍子に散らばってしまったのだろう。相当の量である。
 ターボの声にハッとしたシェードはすぐさまネジをかき集めて乱雑に箱へ詰めて閉じきる。すくりと立ち上がって目線が近づいた時、彼はすでにいつもの力強い眼差しを取り戻していた。

「すみません。お見苦しいところを……」
「数えていたのか」
「え、ええ。その……困るでしょ? 在庫が合わないと……」

 シェードはどこか言い訳がましく言った。ターボは目をそらさない。じいっと見つめると、シェードは勘弁してほしいと恨めしげに眉を顰めた。が、詳細を話さなければ解放されないと悟ったのだろう、やがて再び口を開く。

「ちょっとした誤学習で。恥ずかしい話ですがね」
「誤学習」
「吸血鬼の伝承なんです。細かいものを見つけると数を数えたくなるっていう……こだわり屋の吸血鬼についたイメージのひとつと思ってください。わたしはこういった形(なり)ですから、人格形成の際に強い影響を受けまして」
「……元はお化け屋敷のアトラクション用だと言っていたな」
「そうそう。恐怖の権化に忠実になろうとした結果がコレです。だけど珍しい話でもないでしょう、モチーフ元の欠点を継ぐなんて?」

 特にウチ(DWN)では。そう付け足すシェードは、けれど相応に参っているようであった。習性に振り回されるのも愉快な気分でないのだろう。

「なにも廊下のど真ん中で数える必要もなかろう。今の時間は談話室の机だって空いている。そこで数えればいい」
「連れて行ってくださいます?」
「……それも習性か?」
「吸血鬼は許可なく他者の領域に入れない……そうですね、これも。マ、別に入れるんですよ。居心地が悪いだけ」
「問題だな」

 ああ問題だ。ターボはシェードの抱える箱をひょいと奪うとそれを左手に持ち、空いた右手でシェードの手を取った。誘うように一度腕を引き、そのまま歩き出す。
 荷物を奪われたシェードはポカンと牙を見せた。ふた拍おいて状況を理解し「ちょっと!」と箱を取り返そうとするが、比較的細身な彼ではターボの膂力に敵うわけがない。

「手伝うさ。あまり時間をかけるとまたアルビィ(ワイリー)がとやかく言い始めるからな」
「別にそんな……暇なんですかあなた」
「クイックに約束をすっぽかされて」
「あら……」

 フ、と排気ひとつ。冗談めいた声色でターボは笑った。
 今朝の通信でセカンドナンバーズに緊急招集がかかったことはシェードも知っている。それで予定が潰れてしまったのだな。

 でも、だったら単独で訓練でもすれば良いのに、なんだってわざわざ。ひとりが苦になる質でもないだろうに。
 訝しんだが、しかし先に『連れていってほしい』と頼んだのはシェードの方であって……。
 ひとまず浮かんできた文句は一度忘れてしまうことにした。目元しかない弟の表情から真意を窺おうというのは無謀であったのだ。一緒に数えてくれるなら、そのときゆっくり尋ねれば良いのだ。お礼だってなんだってゆっくり言えば良いのだった。
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