豚ロワイヤル優勝者への捧げものたち……

「市民プールの幽霊の話、知ってる?」
二回目の、岩鳶との合同練習を終えた後のことだ。
「鮫柄と岩鳶の間くらいに、去年つぶれちゃった第七市民プールってあるでしょ。あそこ幽霊、出るらしいよ」
すらり、と履きこなした制服のズボンのベルトをきちっと閉めながら渚が言った。
「つぶれちゃった、ではなく、移転のようですけど」
「そんなのどっちだっていーの! それでね、そこに幽霊が出るって話なんだけど……そいつが、ただの幽霊じゃないんだって」
午後六時。外では、まだ蝉の鳴き声がしていた。今日は珍しく、プールに残る部員がいない。それでも時たまプールで揺れる水の音だけが、ちゃぽん、かぽんと空間を伝って聞こえてきている。
「ただの幽霊じゃなくてね、そいつ、」
渚は、ふふふん、と笑ったかと思うと、今度はやたらおどろおどろしい顔をしつらえて、話を続けた。
「……未来の自分の姿、なんだってさ」
しんとロッカールームが静まり返る。それぞれが怪訝な顔をして、頭の中に送り込まれた情報を整理している音が聞こえた気がした。その理解しがたい話のしっぽをいち早くつかんだのは、怜だった。
「それは、幽霊と言うんですか? ドッペルゲンガーとか、そういうものの方が近いんじゃないですか?」
「だって……そういう噂なんだもん!」
僕に文句、言わないでよ、と渚が怜に言う。
「ほんとだって! 第七市民プールの五十mプールにね、零時ピッタリに行くと、大人になった自分が幽霊になって現れるんだって。見た人もいるって言うし!」

いつもの光景。凛はその景色を背中越しに感じながら、わしゃり、と髪の水気をふき取った。じんわり、とタオルに水気が移っていく。段々と、水分が何かに奪われていく。こうやって、水から陸に上がったことを実感する瞬間は、そう嫌いではない。もう感覚を研ぎ澄ませる必要のなくなった、ゆるいゆるい感じ。

第七市民プールは、岩鳶町の隣の市にある屋外型の市民プールだった。確かに位置的には、鮫柄と岩鳶のちょうど中間あたりにあった気がする。随分昔からあったので、老朽化で移転ということになってもそうおかしくないのだろう。このプールには、‘第五プールも第六プールもないのになぜか存在する第七プール’というそもそもの謎めいた要素があり、そのせいか、やれ流れるプールで足を引っ張られただの、プールができる前は墓場だっただの、小中学生のかっこうの怪談の的にされてきた場所だ。だからこそ、

「ね、見に行こうよ。幽霊の自分」

不思議とその話に、魅力的な信憑性が出てきてしまうのだろう。常日ごろ面白いことを探している人間には、特に。渚は、自分に必要なものを、ちゃんとわかってる人間だった。楽しいものでも、受け止めなくてはいけないものでも、なんでもそう。嗅ぎ分けて、ちゃんと自分で判断を下す。必要だと思ったものに対しては、一歩も引かない。

「見に行くって言っても……」
だから、一旦言い出したら、ちょっとやそっとじゃ諦めないのだ。
「二十三時半に、市民プールの近くのコンビニで待ち合わせね! 怜ちゃんは僕の家に泊まってくことにすれば家抜け出さないで済むでしょ」
「か、勝手に決めな――」
「ね、みんなも、行くよねー?」
バタン、とロッカーを閉める音と共に、渚がさっきまでより声を張って、言った。
「俺はパス。寮抜けらんねーし」
みんな行くよね? の‘みんな’、という単語には自分も含まれているだろうと容易に想像がついた。早めに面倒事から抜けさせてもらう。こういうノリが、嫌いなわけではないのだ。ただ、寮を抜け出すことが骨になるのは本当のことで、その対価を支払ってまで、何もなさそうな場所に行く気にはさすがにならなかった。ロッカーに鍵をかけると、「ほら、帰るぞ」と声をかける。もう残っているのは、自分と鮫柄の四人だけだ。似鳥は学年主任に呼ばれ、先にプールを辞去していた。呼び出し、というよりは何か頼まれごとだろうなと思う。
「はるちゃんは、行くよね?」
「市民プール……泳げるのかな」
「泳げないよ!」

四人のやり取りを横目にしながら、ぶるりと震えた携帯電話を取り出した。明日の天気予報が配信されたらしい。
「ねーまこちゃんは行くでしょ?」
「え、俺は……」
明日の天気。九月十七日。天気、くもり。最高気温二十六度。最低気温、十七度。「行かなきゃ、男じゃないよ!」渚が真琴に発破をかけている。うーん、とうなってはいるが、なんだかんだで着いて行ってやるんだろうなぁ、と思った。

午後六時半。とっくに日が、暮れている。秋の夕暮は、早い。

去り際に、自転車に跨った渚が言った。
「凛ちゃんも、たまには寮抜け出すくらいしないと、いつか大きいチャンス、逃しちゃうよ」
「いや、普通に余計なお世話だけど」
返事を聞いた渚はふふん、と笑い、じゃあまたね、と自転車を漕いでいった。ぎゅっとしっかりペダルを踏んで、迷いなく走り出す。まっすぐに、よどみなく廻る渚の自転車の車輪。




その夜、夢を、見た。大きな穴に落ちてしまう夢だ。直径も深さも五mはありそうな巨大な穴に。ここは砂漠、だろうか。べちょべちょと、汗ばんだ肌が砂をすいよせた。空には月が見えた。なんだか変な月だと思ったら、タロットカードがそのまま、浮かんでいた。大きな大きなタロットカード。The moonと書かれたタロットカードが、さかさまに浮かんでいる。しばらくすると、誰かが穴をのぞきこんできた。目を凝らしてみるけれど、顔はよく見えない。ただ、この正体不明の人影に対しての恐怖感は、不思議とわかなかった。ちゃんと、知っている人のような気がしたから。助けて、と言おうとした。けれど声が、出ない。でもきっと、助けてくれる。この穴から引っ張り出してくれて、なんでこんなところに凛がいるのか、しっかり、丁寧に説明してくれるに違いないのだ。そう願って凛はその人影を見つめ続けた――なのに。その人物はあろうことか、凛の落ちた穴に、自分から飛び込んできたのだ。着地音は、しなかった。ごくごく当たり前のように、ふわりと穴の中に落ちてきた。月明かりが大穴に、少しだけ降り注いだ。顔が少し、見えるようになった。その顔は、「――真琴?」

そう声を発した瞬間、凛は現実の世界へと戻ってきていた。枕元にある携帯が震えている。メールの着信なんかで目を覚ましてしまったようだ。随分と、はっきりした夢だった。眠りが浅かったのかもしれない。砂のじっとりとした感じをまだ、覚えている。夢の中に出てきた、自分以外のたった一人の登場人物のことも。
メールがあったことを知らせるランプの点灯が眩しくて目を細めながら、携帯電話を開く。新着メール一件。渚だった。
‘なんにもなかった’
涙の絵文字と共に、それだけ打ってあった。なにもなかったって、何がだろう? しばらく逡巡して、ようやく練習後の渚の話を思い出した。
――第七市民プールに幽霊なんて、いなかったのだ。
「そりゃ、そうだろ」
残念がってむくれる渚と、まあまあ、とそれをなだめる真琴の姿が浮かんで、思わずくすりと笑ってしまう。真琴を真っ先に思い浮かべたのは、たぶん、さっきの夢のせいだろう。ふぁ、とあくびが出てきて、このまま眠りに入ろうと思ったときに、また、メールの着信が入った。どうせ渚だろうから、適当に内容を確認したらそのまま寝てしまおうと思っていたのに、
「送信者:橘 真琴」と表示されていた画面を確認して、凛は、がばり、と上半身を起こした。ちょっとだけ、さっきの夢を思い出しながら、でもそれを振り切るように、勢いよく、起きる。くだらねぇ用だったら承知しねぇ、という心のつぶやきが、心の中なのに、なんだか上ずってしまった、気がする。

‘明日の夜、一緒に第七プールに行かない?’

「……は?」

ぼんやりと、真琴のことを考えた。もしかして渚が、「明日も再チャレンジ!」とかなんとか、言い始めたのかもしれない。怖がりな真琴は、第七市民プールの雰囲気にあてられてしまって、不参加だった凛を、ずるい、と思って、今度こそはと誘ってきた。の、かも、しれ、ない。いまいち納得できない説に、続いて届いた真琴からのメールが追い打ちをかけた。
‘二人で’
「二人で?」
思わず大きな声を出してしまい、上の段で似鳥が「ううん」と、寝返りを打ったのが聞こえた。
「あー……」
目線を左に、右上に、と動かしながら、返信を考える。何も思いつかなくて、結局、ストレートな疑問をぶつけた。

‘なんで俺?’

返事が来るのに、一分とかからなかった。

‘凛がいいから’

「んだよ、それ……」

真琴にはたまに、こういうときがあるのだ。いつもは遙にべったりなくせに、ふとした時に、「これは凛がいい」と言い出すこと。でも本当に、稀と言っていい頻度だ。だからこそ、真琴のたまのお願いを、凛が拒めたことはなかった。

‘わかった’

たった四文字の言葉に、顔文字付きで「ありがとう!」と返信が来た。おおかた待ち合わせは今日と同じだろう。夜に寮を抜け出すルートを、頭に思い浮かべた。今まで使ったことのない道たち。第七市民プールまで行くならば、自転車を、学校の外に出しておかなきゃな、と思う。気が付くと渚から「再チャレンジは明後日!」と連絡がきていたけれど、それは見なかったことにした。
目が冴えてしまった、と思っていたのに、いつの間にか眠りに入っていた。今度は夢は、見なかった。





「ごめん、遅れた?」
「遅ぇよ」
真琴が待ち合わせ場所のコンビニに到着したのは、二十三時二十七分だった。だから遅刻ではない。なのに凛の文句に対して真琴はただただ笑って、ごめんごめん、と言った。
遠足ではない。特に幽霊見物に乗り気なわけでもない。だからお菓子だとかジュースだとか、そういう浮ついたものには目をくれずに、すぐに、出発した。ペダルに足を乗せてぐっと踏み出そうとした瞬間に、「はぁー、夜はちょっと、涼しくなったね」と真琴が凛に言った。雲の隙間からほんの少しだけ出ていた月の明かりに照らされた、真琴の姿。凛はそれをまじまじと見つめてしまった。見つめてしまって、それで、
「昨日、夢で――」
とほとんど無意識に口に出てしまっていた。
「夢?」
「……なんでもねぇ、行くぞ」
別に大した夢じゃない。だから言ってもいいはずなのに、なんとなく、夢の内容を話すことは憚られた。
あんな夢を見る心当たりは、なかった。でも心当たりがないだけに、なんだかいけない夢を見ていたような錯覚に、陥った。
自転車のペダルは、重かった。少し錆びついているのが原因かもしれない。そういえばここ最近、空気もちゃんと入れていないから、力を入れてこいでも、なんだかしゃんと走れない気がした。


プールのそばの木陰に、自転車を停めた。真琴は小さい懐中電灯を持っていた。そんな、持ち物だとか準備だとかそういうこと、何も考えてなかったな、と凛は思う。
市民プールは、当然のように暗闇だった。手入れも行き届いていないわけで、心霊スポットに君臨するには十分な貫禄を、たった一年で手に入れてしまったように見えた。いつもはこんな場所に進んで足を踏み入れたがらない真琴だけれども、珍しく、「行こう」と言ってから、颯爽と、歩いて行ってしまった。
「おい、待てよ」
「あ、ごめん」
ようやく凛を振り返ると、
「あのフェンスのすぐ向こうに見えるのが、五十mプールね。そこの非常ドア開けたら、すぐだから」と真琴が言う。今度は凛の横に並んで歩く。
(なんか、話すこと、ねぇな)
黙って二人で、夜の道を歩く。真琴といると、こんな沈黙も、少なくない。二人だと、沈黙が‘成り立っている’、という感じがしていた。だからその感覚が、嫌いではなかった。ちょうど、水から陸にあがるときみたいに。
「あのね、なんで凛ちゃん誘ったかって言うとね」
真琴がぽつりと話し出す。
「ちゃん付けすんじゃねぇよ」
「ごめん。あの、昨日の夜プールに来たときにね、」
ごめん、と言うとき、やっぱり笑うんだよなぁ、こいつ、と、関係ないことを考えてしまった。懐中電灯で照らされた道。非常ドアまで、もうすぐだ。
「凛ちゃん、信じてくれないと思うんだけど、」
――それで、ごめん、て謝っといて、同じこと、また繰り返すんだよな、凝りもせずに。
凛は、真琴の横顔を見つめた。
「俺さ、実は、見たんだよね」
「は? 幽霊?」
真琴は黙ってしまうと、非常ドアのノブを握った。握ってそのまま、考え込んでしまったように見えた。
「幽霊、なのかな」
「だって渚はなんもなかったって」
「たぶん見たの、俺だけだから」
「なんでそれ、渚に言ってやんなかったの?」
「だってさ、その幽霊――」
「とりあえず、歩きながら話そうぜ」
真琴の手を上から握り、そのままノブを回す。ほんの一mm、ドアを開けた時だった。
ビーーーーーーーーーーーー―――
びくり、と二人の体が跳ねた。幽霊が出たから、ではない。非常ドアを開けた瞬間、警報機が鳴ったのだ。
「うっわやっべ……」
「……走っていったん逃げよ」
真琴が踵を返した。凛もそれに続く。でも、背後からゆらりと自分を包み込んだ光に気付いて、振り返らずには、いられなかった。素早く後ろを見やったつもりなのに、なんだかとても、時間の流れがゆっくりな気がした。振り返りきって、そこにあった光景に、凛は目を、見張った。
そこは、春だった。プールの横には、たくさんの桜が咲いていた。たくさんの桜の花びらがはらはらと、水面を埋めていった。ふわりと春の風が吹いて、凛の体をぬるく温めた。誰かに手を引かれて、そのプールから出ていく自分の後ろ姿が見えた。誰だろう、と目を凝らす感覚に、覚えがあった。これは確か、昨日の夢の中でも――。そう感付いたとき、手を引く誰か、の正体が、凛にはわかってしまった。たぶん、あれは。
確かめたい、そう思って歩こうとするけれど、体が動かなかった。たくさんのものが目の前で動いているのに、音すら聞こえない。すべての音がこの世から、消え去ってしまったみたいに。

「凛!」

真琴の声で、我に返った。世界の音が、凛に戻ってくる。
「人来ちゃったから、早くいこ」
――あそこに、お前がいた。そのセリフが胸に留まったまんまの凛の手を、真琴はつかんだ。そのまま、走っていく。凛は後ろを振り向いたけれど、そこには初秋の風に吹きさらしになっている五十mプールがあるだけだった。


「はあ、はあ、はあ……」
「てめ、なに、息あがってんだよ」
「りんちゃん、だって」
三分ほど、走ったのだろうか。自転車を回収する暇がなくて、ついそのまま、走ってきてしまった。日ごろ鍛えてるとはいえ、急な全速力はさすがに堪えた。息を、整える。つないだままの手が、汗で冷たい。だいぶ落ち着いてきて、深呼吸をして、顔を上げると真琴と目があった。その顔がとても情けなくて、さっき、自分を引っ張って行った真琴とは別人みたいで、
「ふ……ふふ、はは……」
「ちょ、……凛、なに?!」
「はは、はははは……!」
必死だったんだなぁと思うと、なんだか笑いがこみあげてきてしまった。
「おま、めっちゃ、ひっでー顔……はは、!」
「え! ひど、凛だって……ぷ、ふふ……」
そのまま糸が切れたように、笑いが止まらなくなってしまう。
「あんなにしっかり俺の手つかんで走ってたくせに、そんな顔、すんじゃねーよ」
「必死にもなるよ! 人来ちゃったって、すごい焦って……」
笑う凛を前に、真琴は今度は、はぁ、とため息をつく。それからまた、少しだけ笑った。
「ね、今もすごい、ドキドキしてる」
ほらね。真琴は握っていた凛の手を、自分の左胸にそっと、当てた。
「……ほんとだ。すげー音」
早鐘を打つ、でも規則正しい、心臓の音。それが手を通して、伝わってきた。
「あのさ」
「ん?」
真琴が凛の顔をちゃんと、見ているのを感じて、凛も真琴の目をちゃんと、見る。
「さっき言ってた話の続きなんだけど。昨日ね、プールでね」

――凛と俺が一緒にいるとこ、見たんだ。

落ち着きつつあったはずの心臓の鼓動が、

「だからね、凛が何を見るのか、気になって」
ね、凛は何か見えた? あのプールで――

また、早くなるのを感じた。

「プールで――」

真琴の心音は、まだ、早いままだ。凛は空いた左手にくっと力を込めると、言った。

「なんも、見てねー」
「なにも?」
「なんも見えなかった」

さ、帰ろうぜ。と言って、真琴の手をそっとほどいた。さっきからずっと落ち着いてくれない胸の音に、今自分の心音を聞かれたら、なんと言い訳していいかわからないな、と思う。
夢も、さっきの幻も、到底現実のものではないのだから、忘れてしまおうと思うのに、何か別の自分が‘見過ごすな’、と言っている気がした。せっかくシグナルが出ているのだから、見過ごすな、と。でもシグナルって、いったいなんの?
「そっか、凛は、何も見なかったんだ」
凛の後ろで、真琴が言った。
「なに、残念?」
「まぁ……」
「てか、お前、夢でも見てたんじゃねーの?」
「ううん。夢じゃないよ。絶対」
絶対、というところに力を込めて、真琴が言う。思わず振り返ると、真剣な顔をして、「夢じゃ、なかった」と、もう一度言った。
難しい顔をしている真琴を見ていたら、目を背けようとしている気持ちの、悶々、とした部分だけが、なんだか、吹き飛んで行ってしまった。飛んで行って今度は、何かが始まるときのような高揚感が、凛の胸をじわじわと支配していった。そうだ、自分がシグナルの意味を解明し損ねても、代わりにそれを解き明かして、自分に見せてくれるであろう人が、いる。それを唐突に、でもじんわりと、理解した。そのことがとても、単純に、嬉しかった。

「真琴、」
「ん?」
「自転車まで競走な」
勝った方がアイスおごり。と言うや否や走り出すと、慌てて真琴が走り出すのがわかった。
この浮ついた気持ちは、一瞬でも春の陽気にあてられたせいだ、ということにしよう。今のところは。


不可思議なことが、起きた。解明不能で、腑に落ちない事態が。目の前で。でもなんだか、自転車に乗って、寮へと向かう凛の心は、憑き物が落ちたように、晴れていった。まるで、余計なものを、二人の幽霊が持ち去ってくれたようだった。

――第七プールの幽霊は、いた。


でもきっと、渚には見えないのだろう。残念ながら。


‘なにもなかった’


と、明日も来るであろうメールを思い浮かべて、凛はまた、くすりと笑った。
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