君の痛みも辛さも、分けてほしい
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アンティークなカウチソファに腰掛けている嶺二に跨がるようにして、目線だけをカメラに向けた。
「彼も虜になる魅惑シリーズ」
とあるブランドが新しく展開する少し大人な雰囲気の化粧品一式。
今日はそのCM撮影だ。
それぞれのテーマに沿って衣装やセットを変えては撮っての繰り返し。
そして今はラストの香水。
ソファから溢れたドレスが床に広がった。
黒い布に黒い刺繍で覆われた膝上までのタイトドレス。腰にはこちらも黒いチュールとレースで出来たオーバースカートが付けれている。
「はいカット!……オッケー!撮影終了!」
監督のオッケーが出て撮影が終わった。
「お疲れ様でしたー!」
スタジオの重い扉を開けて楽屋に向かう。楽屋までの廊下には誰も居なくてとても静かだ。
角を曲がった所で壁に右半身を預けた。
ピンヒールを履いている足は震えているし、頭も朦朧としている。
熱が悪化して身体は限界だ。
主演のヒロイン役を演じている今放送中の恋愛ドラマ。
その撮影が昨日の夜あった。
ホテルの屋上プールに入っての撮影は相手役のミスが続いて時間が押した。
冷たいプールから出たあとに濡れたまま夜風にあたるシーンも撮ったからか、朝起きたら39.4℃。
幸い熱だけだったから身体にムチ打って出てきた。
「はぁ……はぁ……」
早く楽屋に戻らないと誰かに見つかっちゃうのに、一歩が踏み出せない。
ガクッと膝の力が抜けてあっ……倒れると冷静に思った。
「穂花ちゃん、無理しすぎだよ」
「れ、いじ……」
倒れたと思った瞬間、背中と膝裏を支えられ持ち上げられた。
近くにある顔を見てホッとする。
嶺二は私を楽屋まで運び、ソファにそっと降ろした。
嶺二の掌が額に当てられる。
熱のせいかいつもより冷たく感じて心地いい。
「……朝より上がってる。とりあえず着替えて帰ろう」
「うん。……あ」
「どうしたの?」
「……背中のファスナー下げて」
ソファの背に捕まるようにして嶺二に背を向ける。
肩甲骨に掌が添えられてジーっと音がした。
「嶺二の掌冷たい」
「穂花ちゃんが熱すぎるんだよ」
「……今日嶺二が一緒でよかった」
「僕ちんは心配で仕方がなかったけどね?」
くるりと回転させられてソファにもたれ掛かるように嶺二と向き合った。
嶺二の手がするすると肩甲骨から首筋を通って顎に添えられる。
顔を近付けた嶺二が耳元で囁いた。
「……キスしてもいい?」
「……拒否権は?」
「ないよ」
「熱悪化したら、嶺二のせいだから……」
文句を言いつつも目を閉じた私もどこか期待しているんだろう。
そっと触れるようなキスから段々と激しく求めてきて息苦しくなってくる。
熱で朦朧としているのか、それともキスのせいなのか。
「……ふ」
「……ん。さ、帰ろうか。ちゃんと看病してあげるよ」
唇が離れて息が上がる。
嶺二の唇に少し口紅がついてさっきより色気が増している。
「……拭かないとキスしたのバレる」
「ありゃ?ほんとだ」
「私が着替えてる間に嶺二も着替えてきなよ」
「そうだね、終わったら戻って来るから待ってて」
ちゅっと触れるだけのキスを落として嶺二は出ていった。
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