第3章
夢小説設定
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あの人と顔を合わすと、あの人が自然と纏っている、
あまりの威厳さ、雄大さに思わず気後れしてしまうのだ。
無意識のうちにあの人を感じ取っている。
その瞬間、日吉の中で自分の敗北が決まるのだ。
俺はそんな中、部活に集中し必死に追いつこうとしているのに。
あの人は余裕で部活を無断欠席をするほど俺のことを気にかけていない、ということだろう?
自分だけ意識してバカみたいだ。
と心の中でエンドレスに愚痴をこぼす。
忍足には適当に返事をいれ、さっさと帰路に着く。
昨日と同じ帰り道。
淡々と歩みを進め、街灯に照らされながら散っていく桜の花びらを見ると、
自然と鈴のことを思い出してしまう自分がいた。
チッ、考えないようにしていたのに。
鈴がいなくなってしまった直後は清々したよ思ったが、
すぐにまた思い直していた。
どうしていなくなってしまったんだろうか。
素足で出て行って、怪我はしていないだろうか。
お腹をすかして困っていないだろうか。
・・・帰ってきてくれるのだろうか。
数え切れないほどの不安と疑問が日吉の中で螺旋状となり渦巻いていた。
それには終わりが見えない。
一度、あの黒猫とか変わってしまった身。
契りとやらを交わしてしまった身。
考えるな、という方が無理な注文であった。
鈴のことで頭をいっぱいにさせ、淡々と歩く日吉。
そんな日吉の視界に、昨日彼女と出会った公園の大きな桜の木が目に入る。
サワサワと意味深しげに騒めく花の数々。
何を伝えようとしているようにも見えた。
あ、もしかして・・・。
ずっとその桜を見ていれば、その可能性がありうる考えが浮かんでくる。
それは自分の中で希望が生まれた瞬間でもあった。
もしかして、すでに家に帰ってるのか?
そうであることを、日吉は柄にもなく願い、足を急がせた。
必死に歩くこと数十分。
自分の家が町の街灯にさらされているのが見えてくる。
「ただいま」
家に着くなり早口で言うと、すぐに靴を脱ぎ、自分の部屋へ駆け込んだ。
頼む、頼むからいてくれ。
勢いよくふすまを開ける。
「鈴っ・・・!」
しかし、返事はない。
自分の声だけが空虚に部屋の壁へと吸い込まれていく。
肩にかけていたカバンとテニスバッグがドサリと重そうな音を立て床へ寝転がる。
その音と等しくイコールで結ばれるように日吉の心もズシリと重くなった。
・・・何を、本気になっていたんだ俺は。
バカバカしい。一度でも居ると思った自分に嫌気がさす。
フン、期待した俺がバカだったか。
日吉は力無くカバンを拾って、机の横に投げおいた。
期待? そもそも何に期待していたんだ。
アイツがいても面倒事が増えるだけ。
いいんだ。アイツがいない方が。
逆にどうしてアイツが俺の頭から離れない・・・?
日吉は倒れこむように布団に寝転がると、制服の姿のまま
すぐに夢の世界へと旅立っていった。
――――――――。
・・・。
ごく自然にムクリと起き上がる。
日吉はボサボサの髪を手で整えながら、しばらく無言で部屋の中を眺める。
当然、鈴はいなかった。
また自然と窓に目が行く。
窓は開いていない。
しっかりと施錠されている。
もう、やめよう。
アイツを気にすることは。
忘れよう、何も、無かったことにすればいい。
全てを無かったことに。
日吉は立ち上がると、昨日お風呂に入っていなかったのを思い出した。
気づけば服も制服のまま。
二着目の制服を、押入れからバサバサと適当に出すと、
日吉はそれを持ってシャワーを浴びに行った。
そこからは普段と同じように過ごし、学校へ向かう。
それは作業も同然だった。
何事にも心囚われることなく淡々と。
ただ、淡々と。
それほどまでに自身の身体は時が過ぎることを求めていた。
そして朝練が終わり、教室へ行き・・・。
気がついたらHRが終わろうとしていた。
担任の先生の声が子守唄のように聞こえ、日吉を夢の世界へと誘う。
そんなことを窓の外を眺め考えていた。
途端に騒めく教室。
皆がザワザワと騒いでいるのが日吉の耳には騒音に聞こえた。
止めてくれ。静かにしてくれ。
日吉のそんな耳にとある声が行き渡るように聞こえてきた。
「・・・桜木、鈴・・・です。転校、してきました」
幼くも、透き通る可愛らしいその声。
アイデンティティだと吐かしていた方言はまるでないが
確かに日吉の求めていた声であった。
思わず顔を瞬時にあげ、前の方向に視線を泳がせる。
綺麗な髪をなびかせ、白い肌を少し赤く染め、
誰もが見とれる黄金の瞳を輝かせ緊張の顔持ちで
桜木 鈴は氷帝学園の制服を身にまとい、教卓の前に立っていた。
・・・は?
はあ?
なんで・・・なぜ?
なぜアイツがここにいる?!
“転校してきたから”
なんてつまらない答えは求めていなかった。
なぜ。どうして。
そればかりが日吉の頭の中で混沌となっていく。
さらにそれを活性化させる担任の一言。
「桜木は日吉のいとこでな。つい最近まで海外にいたそうだ。
みんな、仲良くしてやってくれ」
いとこ?
海外??
何を言ってるんだ
と、言わんばかりの日吉の間抜けな顔。
絶賛物だった。
聞きなれない単語の連鎖に日吉は戸惑いを隠せなかった。
みんなから好奇の視線を降り注がれる。
・・・。
「そうだな、せっかくだから桜木は日吉の隣にするか」
はい。と鈴は頷き、綺麗な髪をなびかせながらこちらへスタスタとやってくる。
綺麗、可愛い、小さい、細い、人形みたい、彼女にしたい、友達になりたい・・・。
みんながヒソヒソと鈴を絶賛した。
俺はこっちへやってきた鈴と視線を交えた。
コイツ・・・。
ニヤッと口元に弧を描き笑う鈴の表情はすごく妖淫に感じた。
すとんと彼女が座れば途端に普段の光景へと戻る。
いつも俺が背景となっていた教室。
そこに早くも鈴は自然と溶け込みつつあった。
俺の心に複雑な気持ちが残る。
戻ってこないと思った途端にコレかよ。
あーあ、本当に、
馬鹿みたいだ。
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