第5章
夢小説設定
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「わかし!待って」
午後の授業も無事に終わり、今は鈴と一緒にテニスコートへ向かうところ。
彼女を置いてさっさと歩みを進めると、後ろから勢いよく追突し抱きついてくる。
学校でこういうことするなと日吉が引き離そうとすれば、お馴染みの“ぬ゛ー!”という踏ん張る声が聞こえてくる。
やれやれと鈴の手を自分の胴体から腕へと移す。
すると鈴も妥協をしたようで落ち着いた。
二人で無言になり、そのままテニスコートへ向かう。
というか本当についてくるのかよと内心毒づきつつ鈴をチラリと見る。
彼女はそんな心配を全くしていないトボけた顔で日吉を見つめ返した。
思わずため息を吐いて目の前を見据えれば目的地の部室はもう直前だった。
日吉は彼女を見て皆がどんな反応をするのか、ただそれだけが気がかりだった。
しかし部活に参加するためにはいあったん部室に行かなくてはいけない、着替えなくてはいけない。
日吉は深呼吸と共にドアを慎重に開いた。
「よお、案外遅かったじゃねーか」
「っ・・・!?跡部さん」
ドアを開けばそこには跡部がソファに片足を立て我が物顔で座っていた。
いつもメンバーの最後に来る彼が今部室へと一番に来、しかも既にもう着替え終わっている状況。
そのことに驚いて入口で呆然と立っていれば、鈴が跡部の名前を呼びながら彼の隣へと座る。
跡部もそれを受け入れ彼女の頭を撫でる様子は、鈴は本当に跡部さんに懐いているんだなと日吉はただ思うばかりだった。
そのまま二人を視界の端へと入れながら日吉も着替えを始める。
その間、氷帝メンバーが続々とやってきて鈴を見ては驚いている様子が数回繰り返された。
結局部室へと最終的に集まったのは忍足と芥川以外の全員だ。
部室の中心であるソファに座る跡部と鈴を半円形に皆が囲み眺めみる。
そして事の中心である鈴はソファの背もたれから顔を覗かせ皆を警戒していた。
鋭い目つきは黄金の瞳を特と生かし、いかにも猫という“ケモノ”で皆を静止させている。
その隣でこの状況の全てを読み取っている跡部は口角を釣り上げ、機嫌が良さそうにニヤリと笑う。
これに我慢が出来なくなったのか日吉の隣にいた向日が堪らないように問うた。
「な、なあ日吉。あの子って跡部とどういう関け・・・」
その言葉は最後まで語られることなく向日の口の中へと逆流していく。
それは鈴が素早い動きで日吉と向日の間に割って入ってきたからだ。
鈴は日吉を庇うように背中へ押しやり、向日を睨み上げる。
向日始め、跡部以外の部員は呆気に取られたままその様子を見やるしかなかった。
頼むからもう大人しくしておいてくれという日吉の願いは尽く打ち砕かれるばかりだった。
「無粋な言葉で我が主様に口を向けるなよ、人間如きが」
むしろここにいる奴はお前以外全員人間だという日吉の言葉は日吉の胸の中だけでとどまった。
言っている言葉とは裏腹な可愛らしい声、小さな身長を目の当たりにした部員は警戒のレベルを一段階下げる。
向日はいきなり卑劣な言葉を言われたショックかずっとフリーズしていたが、一瞬我に返ると彼女の目線に合わせるようにしゃがみニカッと笑った。
「・・・それ何ごっこだ?すげえなりきってんじゃん!」
「人間、聞こえなかったらもう一度・・・」
「ッあ、そうなんです!向日さん。今コイツ俺との従僕ごっこにハマっていて」
日吉はとりあえず本当のことを話すまいとこれ以上鈴に喋らすまいと向日の話に乗る。
咄嗟に出たが従僕ごっこってかなり悪趣味・・・。
そんな日吉の様子に鈴は怪訝そうな視線を送り、跡部は喉元でクツクツと面白そうに笑っていた。
ああ今しかタイミングがないと日吉は腹を決め、鈴の肩に手を置き皆の方向へと向かせた。
「すみません、紹介が遅れました。俺の・・・い、いとこの桜木 鈴です。えっとつい最近まで海外に住んでいて、それから・・・」
先ほど担任が言っていたことを思い出しながらそのままの台詞を歯切れ悪く言う日吉に鈴は思わず面白いようにプクリと頬を膨らます。
そこから今まで大人しく黙っていた部員が、まるで風船が弾けた勢いで日吉と鈴へ疑問と感情を繰り出し始めた。
「はぁぁッ!?いとこ!?初耳だぜ、なあ鳳」
「は、はい宍戸さん。というか・・・失礼ですが、かなり小さいんですね・・・」
「海外ってのもすげえよな!そんで日吉と従僕ごっこ!?ッハハハ!!」
「こら、向日。人には色んな好みがあるんだからそんなに笑わないの」
「ウス・・・」
滝と樺地の抑えで向日も笑いを収め、鈴へと視線を投げる。
視線を投げ掛けられた鈴は容赦無く睨み返すが向日はただ笑みを浮かべるだけだった。
他の部員だってそうだ。
突然の乱入者にとやかく言うこと無くただこの状況を受け入れつつある空気であった。
宍戸は未だにへんぴな顔をしているが。
そんな彼が今一度問う。
「しかしよー、その日吉のいとこが何でここにいんだよ」
「ああ、それはなコイツにテニスを教えてやろうと思ってな」
宍戸の問いに答えたのは鈴をここへ誘った張本人、跡部景吾だった。
日吉は「え」と情けない声を出し、皆は「はあ!?」と驚愕の声を発する。
マジかよマジかよと皆が騒ぎ立てる中、日吉の頭の中はぐるぐると混乱に陥っていく。
鈴にテニス?いや、何考えてんだあの人。
元からややこしい属性なのに更にややこしくしてどうすんだ。
その前に皆はアイツを受け入れるかと言ったら即答で否だろ。アイツのさっきの向日さんへの対応を見たら、他の人への対応も相当心配だ。
従僕ごっこどころじゃ済まされない。きっとボロが出て本当の主従関係がバレてしまう。
日吉が跡部の話を断ろうと口を開けば自分のすぐ下から少し遠慮がちな声が聞こえた。
「わかし。てにす、してみたい」
「ッ、鈴!?」
「よし決まりだな。日吉、教えてやれ」
トントン拍子に固まった話に跡部から促されたら日吉は「・・・はい」としか言えなかった。
しかも「コイツにテニスを教えたい」と言った跡部自身が教えるのでなく、ちゃっかりと日吉に託すあたりが彼らしいのか。
日吉は渋々自分の分のラケットと、予備のラケットを鈴に持たせて部室を出る。
周りの部員ときたらてっきり反対したりとか、ギャーギャー騒いだりするのかと思いきや至って普通に自分たちの準備に入った。
それもそうか、自分たち全員が知らない女の子が入り込んでいたら流石に常識の範囲で対処をするのだが、今回は日吉のいとこ(という設定)だ。
その上その子のお世話を身内(これも設定上)の日吉がするのだから何ら問題はないのである。
少しだけ悩ましげな瞳を日吉は跡部に投げかけてから部室の扉を閉めた。
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