第3章
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HRが終わり、鈴の周りには人だかりが出来ていた。
よくある転校生への質問攻め。
日吉はその様子を横目でチラリと覗くとポンとため息をついた。
繰り出されるクラスメイトの質問に、彼女はただただ身を縮め
おどおどした様子で口から言葉を漏らしていた。
誰も日吉には質問をしにこない。
まあ、みんな俺に聞いたところで流されると思ってるんだろ。
そんなことはもう慣れた。
といういうより自分でそのように仕向けているのだ。
と日吉は心の中でそう付け足す。
騒がしいのは好きじゃない、故に静寂を好む。
そんな精神がさらに彼をクラスへの孤立へと追いやった。
といっても新クラスだが。
一年からこんな様子だから仕方がないこと。
授業開始のチャイムが鳴り響くと鈴を取り巻いていた者は、
波が引き潮により引いていくように自分の席へと戻る。
途端にホッと息をする鈴に、思わず日吉は微かに口元を緩めた。
けれどもすぐに思考は疑問の嵐へと引き戻される。
どうして転校という形でここへ来たのか、来れたのか。
制服は?カバン、教科書・・・。
見ると全部揃っているようだった。
どのように手に入れたのだろうか・・・。
・・・ハッ!
もしかして妖術とか使えるのか!?
化け猫だと言うことをすっかり忘れていた!
だとしたら・・・。
あ、でも、化け猫はそんな人を化かすような術を使えていたっけ・・・?
ん、俺が前、買った本にはそんな事載っていなかったような・・・。
んー・・・。
昨日から考えてばかりで疲れたな・・・。
ふぅ。
日吉は目を閉じ、気を整えると授業へ集中した。
――――――――。
四時間目終了のチャイムが校舎中に鳴り響く。
もう昼か。早いもんだな。
弁当を食べるために席を立とうとすると
“チリン”
とすぐ横から聞こえてきた。
「わかしーーーーーっ!!」
「なっ!!」
声高く叫びながら鈴は日吉の懐へ飛びつく。
瞬間、教室がざわめき始める。
もちろん、この日吉と鈴の状況を見て、だ。
しかし、冷やかすような声ばかりではなく、微笑ましく
温かく見守っているような声ばかり。
仲良しなんだ、久しぶりだもんね、桜木さんって意外と大胆!
そんな声の嵐の中、俺は必死に鈴を身体から剥がそうと頬っぺを押しやる。
「ぬ゛ー!!」
「ったく、離れろ!」
日吉がそう声を荒げると、不満たっぷりな様子で渋々と離れる。
「・・・主様の命令なら仕方ないの」
「ばっ・・・!ここでそれを言うな!!」
慌てて辺りを見回すといろんな意の篭った視線が二人に集中していた。
チッ、居づらいな・・・。
今日は教室で弁当を食えないか。
はあ、と日吉はため息をついた。
そんな日吉の心情を知ってか知らずか鈴が花の咲き誇る笑顔で提案してくる。
「“しょくどう”と言う所へ行くぞ!」
「っは?」
答えるや否や鈴は日吉の手を取り、勝手にズンズンと歩き出す。
しかし、この状態で廊下に出ればまた注目を浴びる。
日吉はむず痒さで一杯だった。
注目はされたくないし、慣れない。
かといって鈴を一人にさせるのも不安。
そんな気持ちを心の中で交差させながら
結局、手を繋いだまま注目を浴びつつ食堂へ向かった。
食堂はまだまだ人気―ひとけ―が少なく、数人の生徒がポツポツといるだけ。
しかし、食堂から外へ出れる庭だけは違った。
高級感溢れ、いかにもどこぞの王様が好みそうな庭。
そこはあの人の領域。
照る日差しの中、デッキパラソルを開き
高級そうな、いや、実際高級品であろう椅子に深く腰掛け、
本を読みながら優雅に紅茶を飲んでいる生徒が一人。
・・・跡部さん。
相変わらずだな、あの人は。
鈴はそれが視界に入ると日吉の手をすんなりと離し、そこへ駆け寄る。
「あ、おい待て!」
日吉の言うことを珍しく(?)聞かず庭へ出られる扉をカチャリと開く。
「けーご!!」
「ん、おう。来たか」
鈴は相手があの王様なのにもかかわらず、まるで日吉に飛びつくように飛んだ。
それを跡部は気前よくそして包み込むようにキャッチする。
まるで昔からその動作をしているかのように。
小さい子をあやすかのように彼女の身体を軽々と抱きかかえるようにして
自分の腕へ座らせた。
鈴は、跡部の首に腕を絡ませ、楽しそうにキャッキャとはしゃいでいる。
そんな鈴の様子をくすぐったそうに目を細め微笑む跡部。
・・・ッ。
日吉は思わず息を飲み込む。
目の前の光景を理解できないでいた。
そして同時に今までに味わった事のない嫌悪感が心にジワリとにじみ出てくる。
どうして・・・どうしてだ?
なぜなんだ。
なぜ鈴があの人を知っている?
なぜあの人も鈴のことを知っている?
日吉がグルグルと考えていても答えは見つからない。
が、思い当たる節は確かにあった。
昨日、跡部さんは帰りの部活に来なかった。
忍足さんはその理由が女の子と何処かへ行った、ということだった。
もしその女の子が、鈴だったら?
二人がいつ、どう出会い、こんな関係に至ったのかは全く想像もできないが。
あながち間違っていないような気がした。
「日吉!お前も来い!!」
跡部の声でハッと我に返る日吉。
納得いかないが真実を知るために足を動かした。
ゆっくりと時間をかけてその場所に行き着く。
そこにはまた優雅に紅茶を嗜む跡部と
跡部が用意したであろうショートケーキを美味しそうに
パクパクと食べる鈴。
その二人に向かい合うようにして俺は席に着いた。
彼はニヤリと笑い、彼女はニコリと笑う。
この二人は相性がいいのではないだろうか。
と思えてしまうほど、見た目で判断する。
紅茶を優雅に飲む美男。
黒髪を風になびかせる白肌美少女。
うん。
二人の性格さえ置いておけば絵になる二人だった。
そんなことを考えている場合ではないと日吉は気持ちを切り替える。
さて、跡部さん。
いろいろ教えていただきましょうか。
複雑な気持ちを背負う日吉の瞳に鈍い光が宿った。
第3章 END 2013/11/23