鼓動が聞こえる
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
自分のお腹を摩る。
まだ、来ない。
全然来ない。
毎日毎日同じ様にお腹を摩る私は可笑しな奴なのだろうか。
景ちゃんには言えずにいる。
前に身体を重ねてから、女の子の日がない事を…。
ああ、どうしよう。出来てたらどうしよう…‼︎
夫婦なのだから特別問題にはならないのだが、出来たら出来ていたでそれは問題なのだ。
もう少し様子を見るべきか。それでも以前に来た女の子の日からもう2ヶ月は経っている。
そこまで考えた時、私はパチリと目を開けた。
ここは自宅。寝室、そしてベッドの中。
隣には私の愛しの夫、景ちゃんがまだ寝息を立てていた。
彼のシーツを掛け直し、綺麗な髪をさらりと撫でる。
結婚してから早3年。夫婦生活も板に付いてきて安定してきた。
そろそろ子供が欲しいなと思いつつもあった。
けれど景ちゃんはお仕事でいつも家にいないし、私も主婦の仕事はまだまだ自身は持てていない。
こんなバタバタしている中で赤ちゃんのお世話…。
ああ、駄目っ!私には到底出来そうにない。
でも大切な物が来ないのは本当なのだ。
検査薬でチェックすべきか。
私はベッドの隣にある棚の一番下から事前に購入していた妊娠検査薬をソッと取り出す。
ふぅ、と一息吐いて足を床に着けば隣から聞こえる景ちゃんの寝息。
気持ちよさそうにスヤスヤと眠っている。
夜中の1時、こんな時間まで眠れなくて悩んでる私とは対照的にとても幸せそうな顔をして寝ている彼。
いつも気難しそうにしている眉間のシワも、今は心優しい子供みたいにすっかりと緩んでいる。
この人の子供を私が…。
手の中にある検査薬をギュッと握りしめてトイレへ向かった。
トイレの水を流す音を頭の隅で感じていた。
がちゃりと震える手で扉を開く。
トボトボと寝室へ戻る。
虚ろな歩みとは裏腹に私の手にはしっかりと検査薬が握られいた。
その検査薬は薄ピンクの棒状で尿が最後まで浸透したのを知らせる窓1つと、妊娠しているかを知らせる窓が1つ。
合計2つのの窓があるわけだが。
「陽性かあ…」
その2つの窓には綺麗な線がくっきりと浮き出ている。
これはつまりその…。
妊娠している、という事だ。
なんとなく予想はできていたものの、実際に結果を目の当たりにすると心にズシリと来るものがある。
お腹をさすりながら寝室へ戻れば、暗がりの中ベッドで起き上がった状態で待っている彼がいた。
「景ちゃん…!?」
「お前が起きるから俺も起きちまったじゃねーの。…なんだ、腹でも痛いのか」
お腹を必要に触る私を見て景ちゃんがそう問いかけると、私は瞬発的に手を後ろに隠した。
それが嫌に不自然で、彼に疑惑を抱えさせるには十分な行動だった。
蒼い瞳でジッと私を見つめる彼はこっちへ来いと告げ、それに素直に従う。
そっと彼の隣のスペースに入れば、後ろに隠していた検査薬をシュバッと素早くひっ捕らえられる。
一瞬なんだこれはと言いたそうな顔をして、そこからみるみる驚きの表情へと変わっていった。
「倉永、お前…これ」
少し俯いていた私の顔を景ちゃんが覗き込む。
その顔は暗がりの中にもはっきり分かるほど、嬉しそうな表情をしていた。
そのままガバリと私に覆いかぶさる。
「ムグッ!?け、景ちゃん!」
「よくやったぞ倉永!!」
景ちゃんはその言葉と共に唇を重ねる。
水々しいリップ音が耳元まで届く。
くすぐったくて思わず身体をよじると、彼は面白そうに口角を上げる。
それがなんだか恥ずかしくって顔をフイッと逸らせば、彼は私の首筋をカプリと噛む。
鈍い痛みに身体を跳ねらせると彼は空いている右手で私の下腹部を優しく撫でた。
そこに、私と景ちゃんの子供が・・・。
そう改めて思うとふつふつとした喜びが私を襲うのを感じた。
景ちゃ、ん・・・景ちゃん。
私は震える声で彼を呼ぶ。
首筋を襲う鈍い痛みが溶け、代わりに私の視界へ少し頬を染めた景ちゃんの顔が映る。
「・・・ねぇ、迷惑じゃない?景ちゃん忙しいし、私だって主婦としてまだまだ・・・」
「フン、言うと思ったぜ」
「えっ?」
「ばーか」
景ちゃんはそう言って私を罵り、頬っぺたをふにゅりと掴み、少し恥ずかしそうな笑みで私に言った。
何年お前と同じ時を過ごしてると思ってんだ。
そう言われた瞬間私は笑み、景ちゃんを抱きしめる。
ああ、なんでもお見通しだ。
景ちゃん、大好き。
私がそう耳元で呟けば、彼はまた唇にキスを落とす。
「大切に育てような」
そして二人微笑みあった。
END