Kingdom
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いつもU-17の合宿で使っているコートの外側。
そこに屋根付きのベンチがあった。
俺は霧雨の降る中、ある人物を探し、そこで見つけた。
そいつは優雅にシェイクスピアの本を読み耽り、丸メガネを光らせていた。
俺は雨を遮る自分の手を、屋根の下に入る瞬間に下ろす。
「ッあ・・・。跡部くん。どうしたんだい?君も雨宿り?」
そううわ言のようにつぶやき、静かに驚く男は、以前に俺と戦った入江奏多。
俺はそんなうわ言を無視し、彼に視線を送る。
「一つ聞きたい。最後の試合で俺に吐いたあの台詞・・・、あれは本気で言ったものだったのか?」
俺がそう言えば入江はフッと清々しそうな顔で笑い、伏せる。
最後の試合の最後の台詞、入江の言葉がずっと気がかりだった。
俺が全身全霊のロブを上げ、頭を打ち気絶した後聞こえた台詞。
「こっちも肩上がらないよ、もう・・・。ナイスファイト」
入江があのボールを打たなかったから俺はあの試合、ノーゲームにすることができた。
しかし、あの台詞は本当に言ったものなのか、本当に肩が上がらなかったのか。
ただそれだけが気がかりだった。
俺は再度彼に視線を送れば、顔を伏せたまま言葉を滑らせる。
「その答えはYESでもあり、NOでもある、かな。・・・怒らないのかい?」
「フン、本気の演技にケチを付けるほど野暮な人間じゃねぇよ」
俺がそう言い放つと、彼は納得したように清々しく笑う。
そしてこれもまた優雅に、シェイクスピアの台詞、英文をスラリと述べれば俺に微笑みかける。
「奇跡、起こしたんだよ跡部くんは。フフッ、跡部王国だなんて。すごいな」
試合をしている中で生まれる絶対的死角、それを骨のすみずみまで見透かす眼力―インサイト―。
跡部王国。
それは俺の目の前にいる、この男の本気の演技によって引き出された。
入江には感謝をしている。
あの試合で俺は自分のプライドを捨て、がむしゃらにけれど確かなテニスをプレイすることができた。
「王様、そして演劇と言ったら出てくるのは裸の王様だね」
「あーん?」
「跡部くんは滑稽な国王様になるのかな?それとも・・・」
促すような視線を、俺は頬で感じた。
わかっている。
俺は寧ろ今まで滑稽なキングだったのかも知れねえ。
自分の我が儘で動き、物を言い。
それでも生徒会長と部長として貢献してきた。
実績も実際に残してきた、が。
それは果たしてベストだったのか。
結果じゃねえ、周りの態度として、だ。
けれど俺はこのU-17の合宿で多くのものを学んだ。
「まさか。もう滑稽な国王にはならねぇよ」
「そう。なら、良かった」
これからは自分のためだけでなく、チームのため、人のために自分のプレイをして行きたい。
こんなこと小っ恥ずかしくて口には出せやしないが気持ちは本物だ。
この決意を胸に空を見上げれば、雨はもうとっくに上がっていて綺麗な青空が俺たち二人を照らした。
END 2015/1/6