Cat voice
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大きな窓の内側から空を見上げた。
オレンジ色に発光している太陽が西に沈み、ポツポツと黒の烏が飛んでいってしまうのが見えた。
私がそんな景色を見ている場所は生徒会室のフカフカなソファの上。
ポツンと私だけがいる空間に彼の香りと烏の鳴き声だけが存在した。
“ここで待ってろ”そう言われてもう何十分が経過しただろう。
会議、長引いてるのかなあ。
生徒会室の、彼の出て行ったドアをジィっと見つめれば、その向こう側からザワザワとした雑音が聞こえてきた。
終わったかな?と立ち上がれば、ドアが開く音と共に書類を沢山抱えた跡部君が入室してくる。
「お疲れ様!持とうか?」
「馬鹿。お前は非力だろうが」
聞き心地の良い彼の声が私の耳を燻れば、そんな事を言われても気にせずにいられた。
そっか、と一言言葉を落として私はもう一度ソファへと座る。
そんな私の様子を見て、跡部君は一つ溜息を付着ながら書類をデスクへとドン!と置いた。
「浮かねえ顔すんじゃねえよ」
彼が隣に座り私を優しく抱き寄せれば、頭にチュッとキスをした。
単純な私は、それだけの事でカァッと顔が熱くなる感覚に襲われる。
ククと笑い声が耳元ですれば、耳まで熱くなる。
そんな彼がふと思い出したように“そういえば”と言葉を溢した。
「にゃんにゃん、とはどう言う意味だ」
「・・・へ?」
真面目な顔して私に聞く跡部君はふざけているようには見えなく、私は思わず返答に困った。
にゃんにゃんって・・・猫の事かな?
でも猫なら跡部君だって分かるか・・・。
誰に聞いたの?そう私が問えば跡部君はそのままの表情で“忍足だ”と呟いた。
あ、忍足君が言ったなら・・・絶対意味はアッチの方向かもしれない。
と私は本能で察し、とりあえず違うことを教えることにした。
跡部君にはまだ早いもんねっ。もちろん私も。
というか中学生はまだしちゃいけないお年頃だったはず。
「跡部君、両手をグーにしてお膝に置いて?」
「こうか」
まるで卒業式の座り方のようにピシリと決める跡部君は本当に真面目だなあと思う。
私は自分でもやって見せて、次の言葉を口ずさんだ。
「それでグーのまま顔の前に持ってきて」
「む」
「そうそう。それからこう!・・・にゃんにゃんっ」
私は顔の前で両手を招くようにクイクイと動かせば、
跡部君も同じようにクイクイと動かし、呟いた。
「にゃんにゃん」
何の抑揚もないただの単語と化した“にゃんにゃん”。
笑っていいのか笑ってはいけないのか分からず、私は奇妙な光景をそのまま見つめた。
すると跡部君が私の視線に気づき、ムッと眉間に皺を寄せた。
「おい、本当にコレかよ」
「・・・う」
「忍足は“そろそろ倉永とにゃんにゃんしたのか”と聞いていたぞ」
「えぇ!?」
あのっ、いくら中3と言ってもそんな事出来る訳っ・・・!!
それより忍足君は跡部君に何言ってるの!!
混乱に陥る私の頭は非常に容量が悪く、思っていることが全て顔に出ていた。
「本当の事を言え」
「うぅ・・・」
「それと俺を騙した罪は重いぜ」
ニジリニジリと詰め寄ってくる跡部君を私は後退して避けようとした。
けどすぐにソファの淵へたどり着いて、後ろに下がれなくなる。
それを良い事に跡部君は直様立ち上がり、私をスペースの空いたソファに押し倒す。
彼は私の太ももの間に片足を膝立ちし、そのまま私へと覆い被さる。
フワリとかすめる薔薇のシャンプーの香りが、混沌へと陥った私の頭を一瞬冷静にさせた。
言えよ。
彼のいつもの命令口調が私を従順にさせる。
「えっと・・・男女が、あの・・・その、そういうコトするの。私たちみたいな、恋人同士が」
「フン・・・」
「跡部君?」
吸い込まれるようなブルーの瞳は熱を帯びだしていて、私の心臓はドキリと弾んだ。
面白そうにニヤリと笑う彼はいつもの跡部君で。
さっきまで真面目な顔してにゃんにゃんしている可笑しな人には見えなかった。
「倉永、お前は猫だ」
「っは?」
「にゃあと鳴くまで許さねえ」
ブルーの瞳でそう言われれば、思わず頷きそうになったが、私は思い留まる事が出来た。
フルフルと首を横に振れば、みるみる内に跡部君の顔が不機嫌になっていく。
俺様ー主ーの言うことぐらい聞けよ。この雌猫。
そう言う跡部君に私は反論の口を開く。
「は、恥ずかしいよ」
「その前にお前は俺様を侮辱した」
「そんなつもりじゃ・・・うぅ」
でも跡部君のにゃんにゃん、可愛かったな。
そう思えば貴重な物が見れたのかも知れないと満足する。
そして、それまでもが表情から駄々漏れだったのか跡部君が大きな舌打ちをした。
まずい。そう思った時には既にもう遅い。
跡部君は乱暴(けれどどこか優しく)に私の髪を退けると、首筋に唇を当てる。
「っひゃう、跡部君!?」
「にゃあ、だろ?」
ああ駄目だ。彼のスイッチはONになるとしばらく止まらない。
小さな水音が首を支配し、その度に身体がピクンと反応しているのが嫌になった。
お前はどこを触れられれば鳴くんだろうな。
そう言いながら、耳までもチクリと甘噛されて意識が朦朧としそうな気分になる。
「っんん!くすぐった・・・ぃ」
「ここも、鳴かねえな」
じゃあ次は、と彼が目を付けたのは私の手。
汚いから駄目と言っても、彼は聞かず割れ物を扱うかのように丁寧に愛する。
私の人差し指を彼がなぞればそれだけで身体が震えた。
「あっぅ、ふ」
それからチゥッと小さく吸えば、ゾクゾクと何かが身体の奥から出てきそうで不安になる。
「お前、なかなか鳴かないな」
「ふぁ、でももう・・・」
「なんだ限界か?」
彼も少し荒く息を付けば私はシットリと額に汗が浮かんでいるのに気が付いた。
身体が、熱い。
彼が私の身体に触れる度、体温が増すようなそんな感覚。
跡部君は私に被さるのを止め、いきなり私の足をガッと開かせた。
「きゃ、ぅ・・・なに、み、見えちゃうでしょ・・・?」
「彼氏に見せねえで誰に見せんだよ」
そう言えば彼は静かに私の内腿に優しく吸い付いた。
鈍い甘味が下半身に咲いた。
トクトクと彼を求める感覚。
もっとして、溢れる欲望。
一気に力が抜けるのを感じた。
「ふぁ、にゃぅぅ・・・んっ、はぅ」
「ッ、・・・エロ過ぎんだろ」
跡部君は愛するのを止め、私を見上げれば口から溢れ落ちた様に呟いた。
ほぅっと惚けた様に跡部君を見下ろす私に、彼は微笑み唇にキスをする。
「倉永が鳴いたから、終いだ」
そう言われればホッとしたような酷く悲しいような感情が胸の中で交差した。
彼もなんだか同じな様子で、物足りなさそうに私を見ていて。
お互いに胸焦がれるように見つめ合った。
彼が私の頬を撫でれば、その部分が熱く咲く。
私の身体は彼を感じることに敏感になっていて、むしろ感じないことが出来ない。
彼も私のそんな様子が面白く、恋しいように熱い瞳で微笑む。
もっとして良いか?
彼がそう聞けば私はおずおずと頷いた。
と同時にガタンと音を立てる生徒会室のドア。
跡部君がピクと反応すれば、外から聞き慣れた声が大勢聞こえた。
「ちょ、岳人!音立てんなや!」
「しょうがねえだろ、聞こえねえんだから」
「ったく、お前らうるせえよ!相変わらず激ダサだなあっ!」
「宍戸さんもうるさいですよ」
「チッ、恋でも下剋上だ。・・・悔しくなんてないぞ?」
「ひよCー、誰に言ってるのそれ~」
「フフ、流石跡部。やるねー」
「ウス」
聞き慣れた声は全員、氷帝テニス部メンバー。
私と跡部君は目を見合わせて、彼は仕方無さそうに口元をつり上げ、
私はどうしようも無く可笑しくて、声を殺して笑った。
そして跡部君がソッとドアに近づき開けば、
ドドドッと崩れ込み、床に重なる様に突っ伏した。
「てめえらっ!!どういう了見で俺様のプライベートに聞き耳立ててやがる!!」
「あ、いや・・・。ちゃんとにゃんにゃんしとるかなあって。なあ皆」
「「え、何それ」」
「嘘やん!」
皆に裏切られ、一番下になって打ちのめされた忍足君はわざとらしくシクシク泣き出す。
それを見た跡部君は更に怒りを増幅するようにオーラを醸し出す。
皆がそれに対してビクゥッ!と反応すれば、途端に顔が青ざめた。
シンと静まり返る生徒会室に跡部君の声が反響する。
「てめえら全員グラウンド100周!忍足に至っては200周!!」
「ええっ!!嘘やー」
「嘘じゃねえ!!っあ、コラ逃げんな!!」
逃げるテニス部を追いかける様に跡部君は顔を赤くさせて走って出て行く。
ポツンと残された私は一人で笑った。
そして忍足君が突っ伏していた位置に小さな紙切れが。
それを拾い上げると小さな字でこう書いてあった。
"どや、進展したやろ?"
それにまた私はクスリと笑う。
ありがとう、忍足君。
色々ドギマギはしたけど、新しい境地に彼とたどり着けた気がする。
そして忍足君風に言えば、めっちゃ忍足君の術中にハマってたと言う訳。
クスとまた笑い、彼からの紙切れをブレザーに折りたたんで入れた。
私も生徒会室を静かに退出する。
クルリと振り返って部屋を見れば、さっきまでの跡部君とのやり取りが無かったように思えた。
が、その時得た感情はちゃんと胸の中にある。
パタンとドアを閉じ、私は部屋を後にした。
あ、それと。
忍足君。200周頑張れ。
階段の踊場からグラウンドを見れば、ヒーヒーと走っている氷帝テニス部メンバーが見えた。
Fin. 2014/4/13