第16章
名前変換
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いつもと違う車の揺れで、私はパチリと目を開いた。
ガヤガヤと聞き慣れた男の子達の声が聞こえる。
私のぼやけた視界には見慣れない車内が漠然と映し出される。
ちょっぴり驚いて咄嗟にぐるりとあたりを見渡せば、通路を挟んで隣の彼がニヤリと笑った。
「よお、やっと起きたかよ抱き枕」
正確には樺地君の隣の窓側の席に座る跡部君。
いたずらっぽい笑みで樺地君の向こう側から私を覗き込んでいた。
見慣れたアイスブルーのジャージを着る彼は、なあ樺地。といつものように口ずさむ。
あぁ、そうだ。私は今バスに乗ってるんだった。…恥ずかし。
私は顔が赤くなるのを感じ、隠すために俯く。
それから自分の席の窓を見れば、タイミングよく暗いトンネルの中へと入っていった。
見ていた窓が暗くなり、明るい車内が鏡のように映し出される。
樺地君と目線を合わすために、少しだけ上を向いて話す彼の輪郭のラインが素敵で、思わず見とれていた。
綺麗な形の唇が忙しなく動いている。たまに見える微笑は私の心臓にとても悪い。
彼を見るたびにドキリドキリと高鳴る胸は、本当に跡部君のことを好きだからだろうか。
恋とは、本当によくわからない。
実際に私が跡部君のことが好きだなんて確証もない。
でも、どうしても気になって、どうしようもなく苦しい。
これがどういう気持ちなのか分からないな、だなんて考えながら見とれていた視線を彼の素敵なブルーの瞳に戻した。
すると鏡となった窓越しにバチリと目が合う。
驚きで私が目を見開けば、彼はそれが面白いようにクスリと笑い、それから優しく微笑んだ。
その微笑みはストレートに私の心を揺すぶって動揺させる。
あっ…ぅ、と情けない声にもならない吐息を吐き出して私は気持ちを隠すため、私の後ろに座る向日君に話しかけた。
「今日、勝てそう?」
振り向きざま、背もたれの隙間からいきなり話しかける私に向日君はおっかなビックリしながら笑顔で頷く。
今日、勝てそう?というのは今日が待ちに待った「王者立海」との練習試合だからだ。
氷帝レギュラーメンバーが全員、この日のために一週間かけて特訓してきた。
王者立海に負けが許されない、というのと同じで氷帝も誇り高きプライドを守るためだった。
私も今回初のマネージメントということで、その手の本をたくさん読んで勉強して来たつもりだ。
自分のテニスバッグの中にもそれらの本が何冊か入っている。
テニスのルールももう一度確認し、跡部君に審判用紙の書き方も教わった。
それと立海の人たちの顔と名前を覚えてきた。明確に当てれる自信はあまりないけれど。
私があまりにも不安そうな顔をしたからか、向日君の隣に座る忍足君が割って入ってくる。
「聖もこの日のためにいろいろやって来たんやろ?跡部から聞いたで」
「だからだいじょーぶ!」
向日君が忍足君を突き飛ばし、背もたれの間に顔を挟む。
私は思わず声を出して笑った。
隙間が狭いから顔が縦に潰れて、口がムチュリと出されている様子はまるでタコみたい。
クスクスと笑う私に二人は安心したのかニコリと笑う。
私も、今日この日をみんなと同じぐらいに楽しみにしていた。
ジロー君には負けちゃうけど。
後ろの席をチラリと見れば、宍戸君や滝君を絡めて大はしゃぎしているジロー君が見える。
あれには勝てる気がしないかなぁ。
下ろしていた髪をポニーテールにまとめながら私はそう思った。
髪をまとめて顔を上げた瞬間、バスがトンネルを抜けて眩しい光が入り込む。
景色を見ると夏間近だと連想させる青い木々たちの上で、澄んだ空が広がっていた。
バスの中にいるメンバーが一斉に窓の外を見て、歓喜の声を上げる。
それほど綺麗で魅力的な景色だった。
私も目が景色へと釘付けになり、奥の方からだんだんと大きくなってくる施設に目を移した。
あれが、跡部君所有のテニスコート?
私が心の中で呟いた言葉に答えた人がいた。
「あぁ、そうだ。お前の望み通りの空気の良い場所だろ」
耳元で小さく囁かれる。
驚き、熱くなる耳を抑えて振り向けば、目の前に跡部君の整った顔立ちがあった。
私のその表情を彼は満足げに見ると、私の結んだ髪を好いて自分の口元へと寄せる。
ッ、あ、跡部君…?
そのまま跡部君は顔を上げて皆の方向を見ると、何事もなかったように指示をする。
「そろそろ着く。降りる準備でもしとけ」
皆の声が元気よくバスにこだまする中、私一人だけが胸を抑えて息を飲んだ。
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