第14章
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パチリと目が覚める。
今日は日曜日。
ううんとあくびをしながら伸びをすれば、筋肉痛になってないことに驚いた。
昨日あれだけテニスをしたのに。
フフと笑うと私は出かける準備をする。
今日の行き先はリナの家。
やっと謝りに行く決心のついた私は、心持ち軽く自転車を跨いだ。
何度も何度も頭の中でシュミレーションをする。
そうでないと不安が滲み出てきそうだった。
自分の都合で親友を追い詰め、忍足君も傷付け。
なんて最悪なんだろうと悲しくなる。
原因は気持ちのすれ違い。
そして私が素直に自分の気持ちを言えなかった事にある。
早く謝りたい。
そんな想いで自転車をこいでいけばすぐに着く親友の住むマンション。
駐輪場に自転車を停めれば、引っ越し会社の人が忙しそうに荷物を運んでいた。
私は構わずエレベーターに乗り、最上階をポチリと押した。
親友の家の前に到着する。
暴れだしそうな心臓を無理矢理押さえ込み、私はインターホンを押した。
「はい。今開けます」
1週間聞いてなかっただけで懐かしいと思えてしまう声が、そこに存在した。
はち切れそうになる自分の心。
トタトタと廊下を走る音がして、ガチャリと目の前の扉が開いた。
「リナっ!!」
「聖!?」
いきなり飛び付いた私にビックリしたのかそれとも訪れたことに驚いたのか固まるリナ。
さっきまでしていたシュミレーションなんて関係なしに勝手に動く身体は、不安にまみれていた。
「ごめん」
一言ポツリと伝えれば、それだけで肩の荷が下りた気がした。
そんな私をリナは戸惑いながらも受け入れてくれ、とりあえずと部屋へ上がらせてくれた。
目の前に広がる空間に私は驚きの色を隠せなかった。
まっさらな部屋。
何も置いていない部屋。
ただ、数年間そこに置いてあっただろう跡が所々床にあるだけ。
驚きを隠せないでいる部屋の入口でつっ立っているだけの私をリナは笑う。
「ごめん、床に座ることになるけど」
「え、あ、うん」
戸惑う私にリナはまたクスクスと笑う。
まるで私のことを許してくれているかのように。
そんなことないのに。
互いに床に座る。
冷たいフローリング。
辺りを見渡せばもともとの家具が私の記憶の中で蘇った。
リナは落ち着かない私に気まずそうに口を開く。
「あのね、私。引っ越すの」
間を溜めたように思えたのは私の気のせい。
彼女の言葉が鈍く私の頭を響かせる。
もしかしてとは思っていた。
家具がない時点で気がついていた。
けど気がつかないフリをした。
ああ、やっぱりそうなのか。
納得し、受け入れようと思っても煮え切らない異物感。
それを知ってか知らずか、リナは言葉を付け足す。
「聖と喧嘩しちゃった夜、お父さんの転勤が決まってね」
「転勤」
「物件探しに行くぞ!っていうのと自分の体調が悪いので全然学校に行けなかったんだよねー」
そのリナの言葉を聞いた瞬間に私は眉間に疑問のシワを寄せた。
ちょっと待って。
今の言い方だと・・・。
「え、じゃあ私に怒って1週間休んでたんじゃなくて?」
「違う違う。ちょっち休んでた間が悪かっただけ!」
それを聞いてホッと気持ちが落ち着いたのと、妙にやるせない気持ちがムクムクと出てきた。
リナは相変わらずニコニコと普段通りの様子。
また安堵の息を着く、が。
「だったらメールとかしてくれれば良かったのに・・・!」
「いやぁ、でもしなかったのはやっぱり怒ってたからだね!」
「もうどっちやねん!」
「何それ!忍足君受け入り!?」
ケタケタと笑い出すリナとは逆に、私は気まずく口を閉ざした。
忍足君。
そう。彼のことも伝えなきゃならない。
「あのね、忍足君の事だけど」
「・・・フったでしょ」
「うん。ってええ!?どうして知ってるの!」
「聖なら絶対そうすると思って」
リナにはかなわないと私が笑えば、彼女は素敵な華を咲かせた。
彼女は私のことなら手を取るように分かる。
じゃあ、私は?
私はリナの何を知ってる?
「ねえ、怒ってる?」
「ううん。全然。むしろ感謝してる」
「どうして」
「だって、私の家まで謝りに来てくれたじゃん」
ああそうだ。
リナはこういう子だ。
調子者で、気分屋で。
でも私のわがままや色々、広い心で受け入れくれる。
私も彼女みたいになれるかな。
「ありがとう」
「なんで聖が言うの。私のセリフ!」
「早いもの勝ち」
「なにそれ!」
二人で笑い合う。
でもこれもこれからできなくなるのかな。引っ越してしまうかな。
仲良くなった人と別れる辛さは私がよく知ってるはず。
だけど今回の彼女の引越しは辛くなんてなく、
むしろ笑顔で送り出したい気持ちが強かった。
二人して話し込む。
お菓子やジュースを沢山食べながら。
学校の噂話や話題のTVの話で盛り上がる。
空っぽの部屋に私たちの笑い声とお菓子屋ジュースだけが留まる。
いっぱいお話しなきゃ。
そんな想いが私の心で渦巻いていた。
二度と会えないわけじゃないのに。
また会えばいいだけなのに。
彼女と会えなくなる一生の時間を、私は無意識にこの時間に注ぎ込もうとしていた。
「そういや聖、跡部君に告らないの?」
彼女の口からなんの意識もなくこぼれ落ちた言葉が、私の焦っていた気持ちを妙に落ち着かせた。
告る?告白?
なんで、と呟いた私は、確かに頬が上気していた。
自分にも何故と問いかけるけど、分からない。
何が分からないのかも分からない。
「好きなんでしょ?顔、真っ赤だよ?」
トクントクンと鼓動の刻む音が私の頭に響く。
確かに、私は跡部君が好き。
友達として好き。
それに確証なんてないけど、今の私はそう認識している。
だけどそんな気持ちを私の身体の感覚全てが否定する。
熱い頬。
鼓動を早く刻み始める心臓。
落ち着かない気持ち。
それは肯定には最もな、反応。
「・・・私、跡部君の事、好きなのかな」
「好きなんじゃない?彼のこと、もっと知りたくない?一緒にいたくない?」
「う、ん。もっと一緒にお喋りしたい。テニス、したいよ」
「ちょ、聖!泣かないでよ!!」
私が跡部君の事を好き。
それは、本当のことなのかよく分からなかった。
だけどこの流れる涙がそうだと言ってくれている気がして、私は涙を大切に流す。
私は跡部君を求める。
彼の大きくて優しい手は美しい見た目と違い、豆があって。
いつも何かを見据える深い青の瞳は、時折私を暖かく見守ってくれる。
常に高貴に気高く澄ます彼の表情は、可笑しいように私に微笑みかける。
全てが好きだと気がついた。
フワリと香る薔薇の匂いも。
髪をかき上げる彼の仕草も。
眉間にしわを寄せて考え込む動作も。
「私は、聖なら大丈夫だと思うよ」
「え・・・」
「応援してるからねっ」
しばらくして彼女の家を出た。
気持ちをスッキリにして。
また会おうとりなと固く契を交わせば、幾度無いくらい勇気が湧いた。
私はまた自転車を漕ぐ。
足取り軽く。
前の私なら、跡部君の事が好きだなんて笑っちゃうこと、
絶対に拒否してた。絶対否定してた。
すんなり受け入れられたのはやっぱり・・・。
それだけ私の中で彼が大きな存在で。近い存在で。
私の中の跡部君が振り向いた。
私はまっすぐ前を見据える。
それは、とても簡単なことで私は驚いた。
5月の終わりの風を私は切なく感じた。
第14章 END 2014/4/27
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