第13章
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やはり、俺はコイツの隣が心地良いようで。
傍にいれば無意識に気持ちが高まるのを感じた。
1週間という時の流れは時に早く、時にとてつもなく遅い。
俺にとって聖のいない一週間は、ただただ退屈な毎日だった。
そして初めて、人の温かさを追い求めた気がした。
一筋に。
彼女を。聖を。
彼女と中3で、同じクラスになって。
顔をふと見た瞬間に俺は懐かしい香りを感じた。
しかしその原因が分からなくて、もどかしい気持ちになった。
だけど接点も何もない彼女に自分から話しかけれず、特に何も出来なかった日々。
自分の気持ちに確証が持てずに、俺はただぼんやりと彼女を眺め見るだけだった。
しかし、偶然にも彼女が俺の席へ頭をぶつけたのを上手く利用して彼女に近付くことが出来た。
そうすれば、心のモヤの原因が分かって晴れる気がしたんだ。
けれど、全く原因は掴めず。逆に酷くなっていく一方で。
まんまと彼女の笑顔にやられてしまったんだ、俺は。
それに変な奴で。一緒にいて楽しいと思った異性は彼女しかいない。
そんな中で彼女の笑顔を見るたびに、心の内で当てはまる記憶がチラつく。
どこかで、見たことあるような。
どこかで彼女と会った事が、あるような。
ずっと、ずっと前に。
俺は記憶に手を伸ばす。
――――――――。
弱ぇーなぁ!
「Soooo poor!」
お前のテニスは見え透いてんだよ、バーカ!!
「I know your way of tennis like the palm of my hand, stupid! 」
イギリス
英国。
そこは、俺にとってあまり良い思い出が無いのかもしれない。
俺は周りよりテニスが弱くて。それでよく貶されていた。
何度地面に手を、膝をついたのだろう。
何度涙を流そうとしたのだろう。
誰よりも強くなろうと、俺は影で努力をしていた。
だけど、そいつらは俺の練習場所のストリートコートにまで現れて。
空に目を向けるのも眩しい、あの夏の日。
俺は汗を流しながら、必死に壁にボールを打ち込んでいた。
パコ、パコンッ!
まだだ。まだ弱え。
パコンッ、パコンッ!!
よしッ、この調子で・・・。
不意にフェンスで作られた扉が蹴破る音が聞こえ、俺はドキリとそちらを見た。
そこには同じ学校の、いつも俺に絡んできやがる3人組がいて。
どうしてここにいるんだ、と俺は目を疑う。
お前、こんなところで練習してるのか
「Is it practicing in you and such a place?」
何をしに来た
「ッ!?・・・It came to carry out what? 」
俺たちと遊ぼうぜ! テニスで!!
「Let's play with us!!Play tennis!」
有無を言わせない押し付けるような笑顔で。
だけどズンズンと近寄ってきたかと思うと、胸ぐらを掴んで離さない。
日本人と英国人の体格さじゃ抵抗しても無駄だと分かっている。
カランと俺の手からラケットが転がり落ちると、奴らは揃って汚い笑顔を俺に見せた。
俺の胸ぐらを掴んでいる奴が、自分のラケットを高々と振り上げ汚い唾を飛ばす。
努力なんて無駄なんだよ!!
「Efforts are useless!!」
殴られる。
ギュッ、と目を瞑った。
俺はもうテニスを諦めたほうがいいのだろうか。
だけど、誰よりも、強くなりたい。
俺はその望みをただ一心に膨らませ続けた。
そしてカラカラの唇でそっと呟く。
誰か、助け―・・・。
何してるの! やめて!!
「What is carried out! Stop!!」
凛と響く幼声が俺の耳へと届いた。
同時に俺は地面へと尻餅をつく。
それは彼女―聖―が奴らを勇敢にも突き飛ばしたからで。
大きく手を開いて奴らに立ちはだかり、庇うように俺の前に立つ。
俺は彼女の背中を見上げた。
眩しかった。
奴らは急な助っ人の登場に驚き、たじろぐ。
だ、誰だよ!邪魔すんな!!
「Who is it? Please do not interfere!!」
あなたたちこそ彼の邪魔をしないで!!
「Please do not do his obstacle!! 」
・・・畜生! 行くぞ!!
「・・・Beast! I will go!」
奴らが苦虫を潰した顔を見せ、壁に唾を吐きかけながら去っていく。
そんな彼女と奴らの短いやり取りですらも、俺は呆気にとられていて。
奴らがコートを出て行ったところでやっと我に帰る。
俺は礼を言おうと直様彼女を見上げた。
だけど彼女はさっきの威勢の張るようなポーズのままで。
疑問に思ってよくよく見ると、彼女は小さく震えてて。
怖かったのに、助けてくれたのか。
凍てついた俺の心に一筋の光が指した。
俺はその心情の変化に驚けば、それを閉じ込めるように胸を押さえる。
不意に彼女は緊張が溶けたかのようにホッと胸を撫で下ろし、
俺の方をクルリと向いた。
顔は逆光でよく見えなくて。
だけど肩で揃えられた薄いブラウンのフワリとした髪が可愛いと思った。
同時に俺に手を差し伸べる。
「あ、あの。大丈夫?」
「ッ、あぁ。でも」
女に守られるなんて。
つい言ってしまった本音に、俺はしまった、と口を抑える。
だけど俺の思ったこと反面、彼女はフフッと気に止めないように笑う。
それは綺麗な笑顔で俺を惹きつけた。
そして俺に言葉を繋いだ。
「男も女も関係ないよ。そこにこだわっちゃ駄目」
まるで誰かに教わったような口ぶりで呟いた。
俺はそれに笑うと、彼女の手を掴み、起き上がる。
すると彼女は俺に目も合わせず、俺を助けるために慌てて置いたのか、
壁際の倒れたテニスバッグをヨイショと担いで白いキャップをグッと被る。
それによって影ができ、結局顔が見えなくて。
「じゃあ私、行くね!お父さんと約束があるんだぁ」
嬉しそうな満開の笑顔を俺に向けた。
俺はその笑顔に心臓が過敏に反応する。
可愛い、一番にそう思って。
誰なんだろう、二番目に興味を抱いて。
一緒に練習したい、三番目にそう感じた。
言うだけ行って彼女は走って去ろうとする。
俺はあっ、と駆け寄ろうとして足を止めた。
彼女がテニスコートから出て行き、フェンスの外側を走っていくのが見える。
もう、会えないのか。不安で仕方が無くなった。
俺は思わず叫ぶ。また会えるようにと願いながら。
「ありがとう!」
どういたしまして!
「You are welcome! 」
彼女は元気よく手を振り、駆けていく。
俺もそれに少し手を振り、やがて落とした。
胸がポカポカするのを感じる。
ドキドキ胸が高なるのを感じる。
どうしたんだろう、俺のこの気持ちは。
慣れない感情に俺はドギマギした。
人に優しくされたのはいつ振り?
自分を助けてくれる人がいたことを俺は心に刻み込んで、
そしてしまい込んだ。
誰の助けも借りることのない人間になれるように。
弱虫だの、馬鹿だの、浅はかだの言われなくなるまで、俺は努力をし続ける。
しばらくすると、俺は誰よりも強くなっていた。
俺はまだ彼女の顔と名前すら知らないで。
英国を探し回っても、彼女と再び会うことはなかった。
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