第7章
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しばらくテンポの良いラリーが続く。
皆がここまで続くとは、と一驚する。
ギャラリーの女の子達も、口をあんぐりと開けて呆気にとられているようだった。
そんなギャラリーたちの様子を絶え間見るが、人は続々と増えてるように見えた。
不意に足元がふらつく。
少ししか時間が経っていないけど、運動不足のためどうしても息が切れる。
ああん!もう、悔しいなあっ!
すると跡部君が遊んでいるのか、打ちやすいトスを上げてきた。
なっ・・・!もう!!
私はサービスラインに即座に出る。
そしてタイミングを合わせてジャンプし、スマッシュを決める。
よしっ、ギリギリなラインに入った。
「イン・・・です。」
またもや周りから驚きの声が聞こえる。
「わぁーっ!!すげぇすげぇ!!かっこE――!!!」
「下剋上だ・・・」
これには跡部君も驚いたようで目を大きく見開いている。
だがボールの勢いは止まらない。
それどころか、ボールの打つ重さが徐々に増してきた。
走るたびに汗が滴り落ちる。
呼吸が乱れる。
無理をして、ラケットを握る力が強くなっている。
っあ、力を抜かないと・・・。
それに対して跡部君は氷のような微笑を浮かべて私を常に観察する。
汗一つ書いていない。
フォームも綺麗。
こんな生き生きしている跡部君、初めて見た。
「フッ、どうだ。俺に勝てる気しないだろう」
「ラリーにっ!ッふぅ・・・勝ち負けは無いよっ・・・!!」
息がどうしても切れる。
それを見て跡部君はニヤリと笑う。
「20分経過・・・です」
樺地君のコールが遠くに聞こえる。
流石にもう疲れてきた。
跡部君はまだ上々なのに・・・。
彼はまだ、本気を出していない。
あう・・・、現役テニス部と比べたらダメか。
息がぜいぜいと乱れ、ラケットを振るタイミングを逃し、トスを上げてしまう。
「フッ、そろそろ決めてやるぜ・・・破滅への輪舞曲!!」
跡部君がそういうとギャラリーがざわつく。
「跡部・・・まさか技を決める気か!?」
「まずいですよっ。宍戸さんっ!」
彼は驚くほど高い脚力で地面を蹴り上げる。
っへ!?
するとするどいスマッシュを放ってきた。
私のラケットのグリップにあたり、ラケットが手から飛ばされる。
「ッあう!!」
「フン、もらったぜ」
嫌だ。
負けたくない。
沸々と湧き上がる、負けず嫌いの気持ち。
いや、ラリーに勝ち負けは関係ないけど、ここまで来たら・・・!!
私は飛ばされたラケットに飛びつく。
案外、すぐ近くに落ちてくれたから簡単に取りに行けた。
間に合えっ・・・!
「アイツっ、まさか打ち返す気じゃ!?」
「やっちまえーーーっ!倉永っ!!」
脇で向日君がジャンプしてるのが見える。
思わずプッと笑ってしまう。
よし、まだ余裕はある。
私が跡部君の方を見ると、彼は跳ね返ってきたボールを打った瞬間だった。
すれば、速く鋭いスマッシュが私のコートに跡を残して跳ね上がる。
ボールの位置は私の左斜め前・・・、
今だっ!!
私は全力で走り出す。
そしてまたタイミングを合わせて全力で地面を蹴り高く飛ぶ。
今度はラケットを両手で持ち、バックハンドで思いっきり振り切る。
これで、どうだ・・・っ!
「やぁぁぁあああっっっ!!」
「ッは・・・!?なんだとっ!?」
「あっ!あれは・・・!!」
「「ジャックナイフ!?」」
ボールは無事、私のラケットに当たり、彼のコートへ向かって返すことができた。
や、やったあっ!!
私は尻餅をついてボールの行先を見ながら心の中でガッツポーズをする。
私の打ち放ったボールは跡部君の後ろの壁際に転がっていた。
は・・・判定は!?
私は思わず樺地君をガッと見てしまう。
「アウト・・・です」
皆が一斉に湧き上がり、拍手と黄色い声の喝采。
そんな中、私は呆然と座り込んだまま動けなかった。
息を一生懸命整えながら、悔しさを胸いっぱい、波紋のように広げる。
アウト・・・か。
でも、しょうがないか。
頑張ったよ、久々に・・・。
私はガックリと肩を落とした。
そんな私にレギュラーのみんなは称賛の言葉を口ずさむ。
「倉永・・・すごいやん。ようやったわ」
そう言って忍足君は座り込んでいる私の額の汗を袖で拭ってくれる。
お、忍足君・・・。
すると向かいのコートに立っていた跡部君が早足でやってきた。
その顔はすごく満足したような笑みが見える。
良かった。私でも満足してくれたみたいで。
私も微笑み返せば彼は今度はニヤリと面白そうに笑った。
「大丈夫か?」
そういいながら跡部君は私の手を取り、引き起こす。
っわ。
少し勢いが付き過ぎて跡部君の胸元に身体をギュウと押し付けてしまった。
わっうわあああっったっとぁ!!
「ご、ごめっ!」
「アーン?気にするな」
私はすぐさま跡部君から離れ、火照る顔に冷たい両手をほっぺに押し付ける。
ううう・・・絶対汗臭いって思われたぁ~・・・。
忍足君がすごい顔で跡部君を睨みつけているけど、跡部君は構わずラケットのガットを直している。
ふぅ、すごく熱い・・・。
身体の内側から熱がこみ上げてくるようで、気温が低かったら、湯気が出そうなくらい。
「あ、跡部君、ジャージ洗って返すね」
「別に洗わなくてもいいが」
いやいや・・・。
こんなジャージにシミができるほど汗かいちゃったのに・・・。
貸してくれたお礼として洗わせてください!
「ううん。洗うよ」
「そうか、よろしく頼む」
跡部君と話していると、向日君が私のところまですごい勢いで跳躍してきた。
他のみんなも続々と私たちの周りに集まる。
みんな私のことを褒める言葉ばかり口から出す。
「倉永っ!テニスすっげー上手いな!!」
「えへへ、ありがとう。中1の夏頃までテニス習ってたんだ」
私がそういうと驚きと、妙に納得したような顔で皆が頷いた。
「なんや・・・先に言うてくれればあんなにビックリせんかったのに」
忍足君は少しいじけた様な顔でそう言った。
私にはその顔がおかしく見えて少し笑ってしまう。
本当に面白いんだから、しゃくれてて。
「フフ、ごめん。言うタイミングがなかったんだ」
「でもあのジャックナイフ、なかなかのものですよ」
そう言いながら日吉君も話に加わる。
・・・ジャックナイフってなんだろう?
私そんな物騒なもの持ってないけど。
「ジャックナイフって・・・何?」
私がそうとうと皆驚いたような顔になり、日吉君が私に教えてくれた。
「バックハンドショットのことですよ。
相手が苦手とするバック側に鋭いショットを決めるんです」
「へぇ~、そんなんだ」
日吉君がそう説明してくれると、跡部君がムッとした顔で
「俺様に苦手なコースはない」
と呟く。
皆、その跡部君の言葉に呆れ顔になるが私はつい笑ってしまった。
「あはは、さすが王様だね」
「フッ、当然だ」
お互いに笑い合う。
本当に今日は跡部君と試合できて楽しかった。
またできたらいいなあ。
そんなことを考えていると、忍足君が急に私の肩を抱く。
え。
「なぁ・・・そんで、前言ってたデートはいつにするん?」
「ふぇっ!?」
いきなり過ぎて変な声が出てしまった。
どうしてこんな急に?
今聞きますか・・・。
流石に聞くタイミングを考えて欲しいと私は口には出さず、心で呟いた。
「えーっ!?デート!?まさかお前らそういう関係!!!???」
向日君が少し興奮気味で忍足君に突っかかる。
ああ・・・、またあらぬ誤解を生み出してしまった。
忍足君は忍足君で愉快そうに微笑んでるし。
「ドアホ、んなわけあるかい」
「でもでもっ!前だって保健室で・・・!!」
向日君がそこまで言うと忍足君は向日君の口を塞ぎ、
珍しく迷惑そうな声で向日君を脅しに掛かる忍足君。
自業自得だよ。
そう思わざる得なかった。
「岳人、お前少し黙っときいや」
「おい忍足、どういうことだ」
そんな忍足君に今度は跡部君が突っかかる。
あぁ、またややこしいことに。
忍足君もデートって言うんじゃなくて、遊びに行くって言えばよかったのに・・・。
あれ?あんま変わらないかな?
いや、リナとは・・・ってコレ前にも考えたか。
「跡部。知らなくてもええことがあるんやで」
「そうかよ」
すると跡部君は機嫌を損ねてしまったのか部室へ行ってしまった。
思わず周りを見渡すと、他の部員を見るともう帰る支度をしている。
そんな彼らを背景に、忍足君は私に耳打ちをする。
「今度の土曜、大丈夫か?」
「・・・うん。大丈夫だよ」
「なら、駅前10時、集合な。スカート大歓迎やで」
それだけ言うと、忍足君も手をヒラヒラさせて部室へ向かってしまった。
本当にデート・・・というか遊びに行くんだ。
てっきり冗談かと。
でもそういうところ、忍足君は手を抜かないだろうしなあ。
複雑な思いを抱きつつ、私も着替えに部室へと向かう。
もちろん、彼らとは違う部室の部屋へ。
制服へ素早く着替えると、返さなくちゃいけないものがボロボロ出てくる。
向日君にラケットとシューズ、返さなきゃ。
すぐさま部室を出て、
男子更衣室の前で待っていると向日君が来たので無事返すことができた。
私もそろそろ帰ろうと校門に差し掛かった時に跡部君に声をかけられた。
「おい。駅まで送る」
「へっ?あ、ありがと」
はあ、そろそろ想像と違うこと言われると変な声が出る癖、直さなきゃなあ。
でもあれ?跡部君いつも車じゃなかったっけ?
キョロキョロと周りを見渡せば跡部君の車らしき物はやはり見当たらなかった。
「車は?」
「返した。ほら、行くぞ」
もしかして・・・私の事、待っていてくれたの?
そう思うと、ジワリと嬉しさが泉のように湧き上がってきて私の心をアッという間に潤した。
跡部君ってすごい。すぐに私を喜悦へと導いてくれて。
私がありがとう、と彼の耳元で囁けば彼は当然だ、と言うように目配せする。
昔リナが言ってた、跡部君の得意技の眼力―インサイト―で私も見抜かれてるのかなあ。
ってことはこんなにバカみたいに単純に喜んでるってこともバレてる!?
急に羞恥心に襲われる私。
彼に怪訝そうな顔で見られたけど、私が目を合わせば彼はまたフイと顔を隠してしまう。
靴箱の時と同じ様に。
今日は・・・、本当に散々な目に合ったけど、彼が、跡部君が助けてくれて本当に嬉しかった。
だけど、同時に跡部君たちまで危険に晒してしまったと、私は心の奥底で反省していた。
彼の横顔を見ればそんなことも気にしても仕方がないような綺麗な瞳で前を見据えていた。
トクンと跳ねる私の心。
へ?
ど、どうしたんだろう。
トクトクと踊りだす心臓。
キュゥと切なくなる気持ち。
遊園地の時にもあったこのもどかしい感情。
どうしてだろ。
なんでだろう。
分からない。
王様が、私の心に革命を。
だけど私は怖くて目を逸らした。
この感情は、何故か私を不安にさせる。
第7章 END 2014/1/11
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