第7章
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跡部君にテニスを誘われ、一緒にテニスコートへ向かう。
テニスかぁ・・・久しぶりだな。
彼をチラリと仰ぎ見る。
スラリと背の高い身体、風になびくブラウンの髪、フワリと薔薇の香りを飄揺させる。
口を開かなくともテニスが似合うだろうということは誰もが想像できた。
そんな王様の後ろを目劣りする女が歩く。
なんて滑稽なのだろうか。
先程の出来事がチラリと心の奥から顔を覗かせ、私は思わず顔をしかめた。
考えることを止め、歩くことに集中する。
すれば、だんだんとテニス特有の軽快で響く音が聞こえてくる。
あっ・・・。
自然と胸が高鳴ってきた。昔の感覚が甦ろうとする。
跡部君がテニスコートのドアを開ければ、
そこには懐かしくて未知数な世界が広がっていた。
「まだまだっ!侑士!!もっと打ってみそっ!!」
「ッ・・・!!わかっとるてっ・・・!!」
私の目に飛び込んで来たのは彼らのハードな練習風景。
まず1番コートに向日君と忍足君。
向日君が持ち前のジャンプ力で相手を翻弄し、
忍足君がその合間を縫ってポイント決めていた。
見る限り、試合をしているように思える。対戦相手は・・・。
「ック、あと少しで・・・!」
「日吉君、あと少しで下剋上出来るよっ!」
おぉ・・・日吉君と鳳君だっ。
彼らもまた独自のフォームで相手に防戦一方を繰り返しているようだった。
綺麗に弧を描き、色んな表情を魅せるテニスボール。
そんな楽しそうなボールに私は共感した。
するとそんな様子の私を見て跡部君が口を開く。
「やるか?」
「うん!やりたい!!」
自分の欲を言えば彼は満足そうに口を吊り上げた。
その私の声に、試合をしていたレギュラーの人たちが私の存在に気付く。
あ、と一度声を上げれば試合をわざわざ中断し、私たちの元へとやって来てくれた。
跡部君は面倒臭そうな表情をして溜め息をついていた。
みんな仲が良くていいじゃない。ね、王様。
と心の中でソッと呟く。そうすれば誰にも聞こえない。
「あれーっ? 倉永じゃんっ!!」
「えっ!?あ、ほんまや」
こっちへやってくる忍足君たちは汗をひとつもかいていない。
さっきまであんなにすごい技を繰り出していたのに。
スタミナがあるっていいなぁ。
私は彼らに手を振ると忍足君は微笑みながら振り返してくれ、
向日君は跳躍ジャンプで私の目の前にきて一緒に笑い合う。
日吉君は少し口元を綻ばしながら軽くお辞儀をしてくれ、
鳳君は日吉君とは異なり、ピシッとした
態度で深々とお辞儀をされた。
宍戸君は私がどうしてこんなところに居るのか分からないといった様子で凝視する。
跡部君がそんな様子を面白がるように、みんなを一望すれば上唇を軽くあげた。
「そうだな、相手を選べ。どいつとやる?」
へっ?あ…テニスをする相手か。
うーん、と頭を悩まし周りを見渡せば、みんながみんな、目線を配ってさりげなくアピールしてくる。
それが可笑しくて思わずクスリと笑ってしまう。
私と対戦しても面白くないと思うけどなあ。
どうしようかと迷っている中、跡部君をちらりと見れば
"俺様を選べ"
なんて王様目線で私の事を見つめる。
フフ、分かりやすいなあ。
「じゃあ、跡部君でお願いします」
「ま、当たり前だな」
跡部君が周りに得意気な顔をする。
そうすると周りの人達は周りの人達で残念そうな顔をする。
な・・・なんなんだろう。
みんなは私を囲み何故ここにの質問騒ぎ。
跡部君は跡部君で部室へと着替えに行ってしまった。
しどろもどろで質問に答えつつ、チラリとテニスコートの入口を見ると
テニス部顧問の榊先生がやってきた。一緒に着替え終わった跡部君も。
すると忍足君たちがビシィッと直立する。
お・・・?
榊先生が跡部君に目線を配れば、彼は先生のもとへと向かう。
「調子はどうだ。跡部」
「もちろん、好調です」
へえ。
跡部君が敬語・・・。まぁ相手は先生だから常識かな。
普段タメ口の上から目線王様しか知らないから、妙な新鮮さを感じるなあ。
「フム、そうか。それより・・・」
榊先生が私に気づく。
わっ、と。
私は急いで会釈をした。
すると榊先生も会釈してくれた。
なんか・・・嬉しいな。
フフ、と思わず笑えば忍足君が微笑み返し、
“痛みは引いたか?”
と聞いてきてくれ、私はその質問に笑顔で頷いた。
「まぁ、いい。それより今から何をするつもりだ」
「はい。アイツとラリーをしようかと」
跡部君にチラッと見られる。
そして何やら榊先生と二人でヒソヒソと話し合ったかと思えば
突然大声で笑い出す二人。
・・・、なんかそっくりだな。あの二人。
「そうか。フッ・・・行ってよし!」
そういうと榊先生は二本の指をビシィッと跡部君に向ける。
跡部君も跡部君で満足そうに
“ありがとうございます”
と、丁寧にお辞儀をしていた。
なんの話をしていたんだろう?
突然笑い出すぐらいだから・・・、
ギャグ?
すると、跡部君が嬉しそうに戻ってくる。
「どうしたの?」
「気にするな。・・・始めるか」
跡部君がそう言うのと同時に今の自分の服装にハッとなる。
私、制服だし、ラケットも持ってないや。
どうしよう。
「・・・ジャージは俺の予備のを着な。ラケットは・・・、グリップの太さが合いそうな向日に借りろ」
「おう、いいぜ。あとテニスシューズも持ってけよ」
そう言うと使い古されながらも大事に使っているようなラケットを差し出してくれた。
大切なラケットを貸してくれるなんて、と私はまた嬉しさに胸を膨らませた。
「ありがと!跡部君も!」
二人に礼を言うと、私は急いで更衣室に行き、跡部君のジャージに着替える。
うわっ、バラの香りがするよ・・・。
だけど、そこからまた香り、跡部君の匂いがした気がして目眩を覚える。
っあ、ボーとしてちゃいけないや。みんな、待ってるし。
向日君に借りたシューズを履き、靴紐をキュっと結ぶ。
おろしていた髪も邪魔だったからポニーテールにしてまとめた。
・・・よしっ、なんだか懐かしいな。
そんな思いを胸に抱きつつ、走ってコートへもどる。
「ごめんっ、お待たせ」
すると、みんな私の方を見て目を見開いたり、口をあんぐりと開けたり。
“おぉ・・・。”と何故か声が上がった。
へ?なに?
何かおかしいところでもあるかな。
思わずジャージに目をやったが特におかしなところは無いようだ。
ただジャージがメンズ物だからブカブカとたぽついているだけ。
「・・・なかなか様になってるじゃねーか。似合ってるぜ」
「本当!?っえへへ」
跡部君に褒められるとすごく嬉しくなって思わず、にんまりと笑う。
すればみんなもみんな、微笑み返してくれて私の気分は単純にもフワフワと登っていく。
フンと跡部君が鼻で笑うと、手をあげて指をパチンと鳴らす。
っ!
するとどこからともなく樺地君がヌラリと現れる。
びっくりしたぁ。
ど、どこから出てきたんだろう??
「樺地、今回はラリーをする。一応審判を頼んだ」
「ウス」
そういうと樺地君は審判用の高い椅子に窮屈そうに座る。
そうすれば跡部君と一緒にテニスコートに入り、皆が審判席の横にズラリと並んだ。
ネットをはさんで跡部君と向かい合う。
・・・なんかドキドキしてきた、緊張するなあ。
「よし倉永、はじめるぞ。ラフかスムースか。当たったらお前から打て」
すると跡部君はラケットをクルクルと回す。
う~ん、どっちにしようか・・・。
う~ん、う~~~~ん、よしっ!
「ラフッ!」
私が言い終わったのと同時にラケットの回転も止まり、
カランカランと軽い音を鳴らす。
「・・・ラフだ、お前からいけ。」
「分かった!」
硬式のボールを受け取り、手慣らしのためにポーンポーンと軽くその場で打つ。
よし・・・まぁまぁかな?
「よっしゃ!じゃぁ行くよ!」
「フッ、・・・お前の腕前、試させてもらうぜ」
アーン?
と跡部君が言い放つといつの間にかギャラリー席に集まっていた女の子達が黄色い声を響かせる。
毎回思うけど・・・跡部君すごい人気・・・!
さすが王様!
そんな彼の声援とは反対に、私への激しい嫌悪の視線。
だけど、そんな視線も気にならないぐらい、気にしていられないぐらい私は緊張していた。
そんな私に仲間の声援が届く。
「倉永ファイトー!!」
「跡部なんてケチョンケチョンにしてやれっ!!」
ぴょんぴょんと向日君や忍足君が応援してくれる。
ふと日吉くんと目が合えば、力強く頷いてくれて、私の緊張は簡単に解けた。
よし、行くぞ!
ヒュっとボールを高く上げ、打ち落とし鋭いサーブを打つことを意識する。
そして軽快な音が私の頭上で響けば、ボールが弧を描いて無事にサービスコートへ吸い込まれる。
やった!
「倉永、なかなかええフォームしとるやん・・・」
「えぇぇぇ!?すっげぇ!!」
皆の驚きの声があたりを包み、私は少しだけ誇らしく思った。
女の子達からは驚愕の悲鳴が届く。
どーだ、私だってやるときはやるんだもん!
「フ、良いフォームだ」
跡部君が私の渾身のボールを悠々と流れるように打ち返す。
彼のフォームはあと時の持久走の時みたいに軽やかで綺麗で、美しいと思った。
「まぁねっ!」
そういいながら私と跡部君はボールを打ち合う。
跡部君はまだまだ余裕という笑みで打ち返してくる。
そりゃそうだよね・・・、私なんかでへばっていたら、全国なんて夢のまた夢だもん。
私も一生懸命に打ち返す。
だけど彼はただ優しく打ち返すだけ。
それだけでも私には鋭いショットに思えるほど、研ぎ澄まされていた。
跡部君、全然本気出してくれない・・・
私なんか本気じゃなくても余裕ってこと?
悔しい。
私の心から滲み出るようにその感情が姿を現した。
もっと、もっと頑張ってやる・・・!
負けず嫌いの私が久しぶりに顔を出した瞬間だった。
やっぱり一生懸命に食らいつくことは楽しい、と思った。
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