第7章
名前変換
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2時20分。6時限目終了のチャイムが鳴り響く。
俺はさっきの奴らの書類をまとめ、生徒会室を出た。
結局放課後までかかっちまいやがった。
これからは生徒会の時間だが書類をまとめるのと同時に
生徒会の仕事を終わらせてしまったから今日はナシ、か。
・・・そうだな倉永でも誘おうか。
テニスに。部活に。
気分転換にどうだろうか。
そう考えたら、俺の足は真っ先に動いていた。
足取りも軽く、自身の教室へと向かう。
途中、教室に着くまでパラパラと帰路に着く生徒たちとすれ違った。
っと、急がねえと倉永も帰っちまうな。
別に今日じゃなくても良いのだが、できるだけ早い内がいいだろう。
自身の教室に着き、中を覗き込めば、忍足を含めた半分の人数がまだ帰り支度をしていた。
その中に彼女は見当たらない。
帰っちまったか・・・?
俺は即座に自分の荷物を鞄にまとめると忍足に一声かけた。
「おう跡部、おつかれさん」
「あぁ、倉永はどうした」
俺がそう聞けば、気軽そうだった忍足の顔が急に曇る。
そんな奴の表情にザワリと胸が逆立ったような感触に陥る。
俺の心に一つの悪い予感が横切った。
まさか・・・、アイツらにやられた傷が深いのか?
俺が忍足に理由を問いだそうと顔を覗き込む。
すると奴は俺の肩をミシリと言わせるまでに勢い良く掴みかかってきた。
「なんやねん!お前まで倉永、倉永て!!」
「はあ?」
「・・・倉永も跡部の事探しとったで」
彼女も俺を探している?
ジワリと嬉しくなる感情を抑え込み、俺は頭の中でそう繰り返した。
靴箱あたりにいるんちゃうか、と言うとジトリと俺を見る。
忍足がどうしてこんなに機嫌が悪いのか俺には分からないが、
取り合えず倉永の居場所を教えてくれた事に礼を言い、俺は颯爽と教室をでた。
言われた通り靴箱に行けば、キョロキョロと忙しなく周りを見渡す彼女がいた。
怪我も想像していたよりも大丈夫そうで良かった。
と、思わず口元に弧を描く。
「倉永」
俺がそう名前を呼び、頭をポンと撫でれば
まるで、仔犬がやっと主人を見つけたかのような屈託のない笑顔で振り向く。
ああ、そうだ。俺はこの綺麗な笑顔にやられた。
心臓がたまらなく嬉しいように弾み出せば、これが恋だと改めて思い知らされる。
「跡部君っ、良かった!見つかって」
「悪かったな、探させちまったようで。俺に何か用事か?」
俺が彼女にそう聞けば、妙に改まり、真剣な眼差しで俺を見上げた。
そして何回か小さな唇を空回りさせた後に、流れるように言葉が発声される。
「今日は助けてくれて、ありがとう。本当に、ありがとう」
そう言って、しゃなりと緩やかにお辞儀をすれば、綺麗な雫が床へと落ちる。
顔をあげた彼女の瞳は微かに潤っていた。
そんな瞳で俺を上目で見れば、“跡部君を危険な目に合わせてごめんね”
と、おずおずと小さく可愛い唇でそう言った。
やべ、今のは反則だろ・・・。
彼女がそうすれば、フッと顔が徐々に上気していくのを感じる。
柄にも似合わず顔が火照る。
そんな慣れない感情に俺は思わず腕で顔を隠す。
こんな情けねえ面、倉永に見せられねえ。
俺の様子に彼女は首をかしげ、どうしたの、と聞いてくる。
俺は咄嗟に何でもねえ、と口ずさみ、クシャリと乱すように彼女を撫でれば
そこには俺の好きな満面の笑みが咲き広がる。
相変わらず、いい顔しやがる。
そんな笑顔の花畑に今度は俺の用件を伝える。
「俺もお前を探していたんだ。どうだ、気分転換にテニスでもやらねえか」
「・・・!でも、いいの?」
「バーカ、駄目だったら誘わねえよ」
俺のその言葉に愚問でもしたかのように自嘲気味に微笑む。
そんな彼女のちょっとした微笑みでさえ、俺は心が癒され、引き付けられた。
彼女を自分の虜にしようとしたけれど、逆に己が彼女の虜になっていく。
そんな愚かで、当たり前な事に俺は気づいていた。
王様という位を捨て、彼女を敵から護る王子になりたかった。
お姫様に翻弄される王様。
どうかそんな俺を、笑ってくれないだろうか。
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